液体状の高レベル放射性廃棄物をガラス原料とともに高温で溶かして、ステンレス製の容器(キャニスタ)に入れて冷やし固めたものをガラス固化体と呼んでいます。
つくられた直後は放射能、発熱量共に高いのですが、時間の経過にしたがってその値は小さくなっていきます。また、適切なしゃへいなどの対策を施すことで安全に管理できます。
ガラス固化体は、液体状の高レベル放射性廃棄物をガラス原料とともに高温(約1200℃[日本原子力研究開発機構の設備の場合])で溶かし合わせたものを、ステンレス製の容器(キャニスタ)内に入れて冷やし固めたものです。
ガラス固化体に用いられているガラスは薬品や放射線等に強いものが選定されています。また、キャニスタについても高温下でも高い強度をもつ材料が選定され一時貯蔵中に想定される腐食量を考慮しても強度等に余裕をもった肉厚(約5〜6mm)になっています。
日本におけるガラス固化体のうち、海外で製造され日本へ返還されているもの、及び日本原燃(株)において将来製造される予定のものは、外形が直径43cmの円筒形をしており、高さが134cm、重量が約500kgです。また、日本原子力研究開発機構で製造されたものは、高さ104cm、重量が約400kgであり、若干小さいものです。
ガラス固化体で用いるホウケイ酸ガラスの化学構造は、主成分であるケイ素とホウ素とが酸素を介して網目状に配置する構造網目構造)を形成しており、ガラス固化体中では高レベル放射性廃棄物を構成する放射性物質がこの網目構造の中に均質かつ安定に取り込まれます。色ガラスもなんらかの着色元素をガラスの網目構造の中に含んだものですが、色ガラスが割れても色の成分だけが流れ出すことはないように、ガラスの成分と高レベル放射性廃棄物を構成する放射性物質も一体化しており、仮にガラスが割れても中から放射性物質だけが流れ出すようなことはありません。
また、ガラスは水に非常に溶けにくく、長期間にわたり変質しにくいという性質があります。このようなことを示す事例として、ローマなどの古代遺跡から、ガラス製品が輝きや鮮やかな色彩をほとんど失なわずに出土していることや、大昔の火山噴出物中に含まれるガラス成分が泥質岩層のなかでほとんど溶け出していないことなどがあげられます。
製造直後のガラス固化体1本(日本原燃(株)仕様、約500kg)あたりの放射能量は、その元となった燃料の製造に必要なウラン鉱石(1%の品位で約600t)の放射能量と比較して約2万倍(2×10の16乗Bq(ベクレル))になっています。しかし、この放射能量の多くは半減期の比較的短い核種(セシウム-137,ストロンチウム-90,プロメチウム-147,セシウム-134等)が占めているため、比較的早く放射能が減衰し、千年後には製造直後の放射能量の約三千分の一になります。また、数万年後にはその元となった燃料の製造に必要なウラン鉱石と同程度の放射能量にまで減衰します。
なお、それ以降の放射能量は半減期の長い核種(テクネチウム-99,ジルコニウム-93,ネプツニウム-237等)が支配的となり、
ゆっくりと減衰していくことになります。
製造直後のガラス固化体(日本原燃(株)仕様)の放射線量は、その表面の位置に人間がいた場合、国際放射線防護委員会(ICRP)の勧告の中で100%の人が死亡するとされている放射線量(約7Sv(シーベルト))をわずか20秒弱で浴びてしまうレベル(約1,500Sv/h)です。
しかし、放射線量は対象物から距離をとることや、遮蔽を施すことによっても、その影響を低減することができます。例えば、製造直後のガラス固化体でも、1m離れた位置に厚さ約1.5mのコンクリートの遮へいをほどこすことにより、法令上の管理区域(この区域に立ち入る人は浴びた放射線量の管理をする必要があります)を設定しなくてもよいレベルになります。
ガラス固化体は、処分するまで30年から50年の間貯蔵され、さらに、処分を行う段階においてはオーバーパックという厚い金属製の容器に封入されるので、その表面における放射線量はずっと減少します。
例えば、50年後には放射能が約1/5になり、表面の放射線量は約1/9になります(表面で約160Sv/h、表面から1m離れた位置で11Sv/h)。さらに、オーバーパック(厚さ19cm)に封入することにより、オーバーパック表面の放射線量はずっと小さくなり、表面で約0.0027Sv/h、表面から1m離れた位置で約0.00037Sv/hとなり、1m離れた位置に約0.8mのコンクリートの遮へいをほどこすことにより、法令上の管理区域を設定しなくてもよいレベルになります。
ガラス固化体中には多くの放射性物質が含まれていて、この放射性物質が崩壊する時に出すエネルギーによって発熱しています。これは、ちょうどガラス固化体の内部に強力なヒーターをもっているようなものですが、出てくる熱をうまく逃がしてやればある一定の値以上に温度が上がることはありません。例えば、ガラス固化体周辺の風通しを良くしておけば、ガラス固化体と空気の温度差によって自然に空気の流れが生じ、空気によって熱は自然に奪われていきます。
また、放射性物質は崩壊することによって量が少なくなっていくので、時間の経過と共にガラス固化体の放射線を出す能力(放射能)は小さくなっていきます。したがって、発熱量もそれに伴って小さくなっていき、ガラス固化体の温度も段々下がっていきます。
製造直後のガラス固化体(日本原燃(株)仕様)の1本当たりの発熱量は約2300W、表面温度はどのようにして熱を逃がしてやるのかによっても異なりますが200℃以上にもなると考えられています。これは、20℃の水1リットルを2〜3分で100℃のお湯にできる発熱量です。
ガラス固化体の発熱量が高いまま、地層に処分してしまうと、人工バリア(ガラス固化体自身も含む)の温度を上昇させてしまい、人工バリアの健全性を損なう可能性が考えられます。
したがって、ガラス固化体は、処分するまで30年から50年の間うまく熱を逃がしながら貯蔵することにしています。その結果としてガラス固化体の発熱量は、30年後には約560W、50年後には約350Wまで下がることになります。
平成11年11月に核燃料サイクル開発機構が取りまとめた報告書(「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性−地層処分研究開発 第2次取りまとめ−」)では、50年間貯蔵したガラス固化体を処分することを仮定して処分施設の熱解析を行った結果、温度上昇による影響を考慮する必要のない、施設設計が十分可能であることが確認されています。なお、このような評価は30年間貯蔵したガラス固化体を処分する場合についても同様に確認されています。