Backyard of Universe

『前回のビクトリアスは……』

　前回のおさらいからスタート。

「まさに今、メイソン・ソーンスミスが会見やってるんです、プラチナミュージックショーのことで！」
『プラチナミュージックショーの授賞式のオープニング曲は……無名の新人に歌わせます！』

　全世界２億人の視聴者が注目する毎年の最優秀歌手を決める“プラチナミュージックショー”のオープニング曲を歌えるってんで、みんな慌ててビデオを撮って送っていた。
　当然、その中には、トリーもいて……。

「トリー・ベガ！
　プラチナミュージックショーのオープニング、歌ってもらえるかな～～！!？」
「はい、ウソ、もちろんです！！」

　なんと、トリーがそのオープニング歌手に選ばれてしまう。
　トリーと、そして付き添いのジェイドやアンドレ、キャットたちの一団で、プロデューサーのメイソンさんのところにやってくるが……。

「ビブル食べて」
「ビブルって？」
「イギリスのお菓子」

　おいしいお菓子、ビブルを買いに行こうという口実で、トリー以外のメンバーは引っ張りだされてしまう。

「やめられないの、もうどうしたら良いの……？」

　そして、キャットはビブルに病みつきになってしまう……。
　“やめられない止まらない”っていうか、“ビブルやめますか、それとも人間やめますか？”状態。

「つまり、大衆が求めているのは偶像だ、キャラクターだ！」
「あなたのイメージを作り上げたいとおっしゃってるのよ」
「例えば、あの……変身しちゃうとか？」
「そう！」

　メイソンさんの提案で、トリーはエキセントリックな新人歌手という感じの衣装にイメチェンさせられ、さらに学校でも、そんなふうに振る舞うことを要求されていた。

　しかも、そうして授業を受けている最中にも、パパラッチがやってきて、トリーが驚いてるのも無視して、バシャバシャと写真を撮る！

「こっち向いて！」「こっちに一枚！」

　ところが、これもメイソンさんのイメージ戦略の一環だったということ。
　さらにトリーの宣伝のために、プライベートでおかしな格好と、奇行をしろと迫る。
　メイソンさん側からしたら、トリーの代わりなんていくらでもいると、トリーにいうことを聞くように迫る。
　
　そして、トリーはメイソンさんたちの支持で、わざと騒ぎを起こすために、レストランに向かい、ウェイトレスのお姉さんに怒鳴り散らしていた。

「あったま来てるのはあんたによ、サイテー！！
　クビにしてやるからね！！」
「オレのサラダ！！」

　そして、アンドレがとばっちりを喰らう。ｗ

　しかし、ここで予定では、偽警官に喧嘩を売るはずだったが、仲裁に元宇宙飛行士のセレブのおじさまが割り込んできたことで、逆上したトリーはそっちにひどいこと――ズボンに食べ物をつっこむ！――をしてしまった。
　こりゃ、ワイドショーで話題になるのは間違いありません……悪い方の意味で。

---

　そして本編スタート。
　シコウィッツ先生の教室からスタート。
　みんなが，大型のモニターの前にいるが……トリーの姿はそこにない。

「早く見ようよ！！」
「でも、トリーが来たら……」
「いや、来ないでしょ」
「今週、ずっと休んでるし」
『そう、セレブは忙しいんだってさ』

　メイソンさんの演出によるものとは言え、なんだかロビーやベックたちは授業に出てこず、ワイドショーのねたになるような奇行ばかりしているトリーに反感を持っているようだ。

　そして、キャットのビブル中毒は治ってなかった。ｗ

「先生、キャットがビブルを！」
『わ～～！』
「キャット！」
「私のじゃない、これは友達の分！
　ダメ、ビブルがいるの！
　友達のためなの」

　ビブルのためなら、嘘だって付く。
　完璧中毒ですね、キャット。ｗ

「キャット、ホラ」
「何これ？」
「ガム、ビブルが欲しくなったら、これ噛んでご覧。
　落ち着くから……包み紙剥いて」
「ガムくらい噛める！」

　アンドレの親切に、ピシャリと手をはねのけて返すキャット。
　イライラしているとは言え、ちょっとひどいなー。

　さっきから、うつむいてノートＰＣを操作してたジェイドがようやく作業が終わり、顔を上げる。

「……オッケー、ハイスタート……」
『失礼お嬢さん、そんなに興奮しないでも良いでしょう？
　あぁあ，何を！？
　あぁああ！！
　おっ、おっ、おぉおおお！！？』
「……」

　そうして出した動画では、トリーが元飛行士のおじさまに狼藉するシーンが流れる。
　この動画のせいで、トリーの評判はダダ落ちだ。

「しかし、びっくりだなぁ……同時にガッカリ……びくがっかりだな」
「でもサイコー。　
　ビクガッカサイコー！」
「本当、トリーやばすぎだよね～」
「……」

　ビブルの代わりに、口中にガムを突っ込んでいるキャット。ｗ
　そして、ジェイドはトリーの不幸をちょっと笑っているという。
　
「なんて言うか……舞い上がってそれで勘違いしちゃって……ってことで～１８７２年にそのテレビを発明したのはですね……ティービースミスです！」

　そこにトリーが入ってきて、慌ててはなさをそらす先生。
　っていうか、慌てて別の話始めたから、思いっきりでたらめになってます。ｗ
　ティービースミスて。ｗ

　しかし、トリーの格好がひどい。
　ブロンドのぱっつんカツラかぶって、まるでレディ・ガガ！

「……それで、ここにテレビがあるわけですが……何かを見ていたわけじゃありません」
「分かってる、みんなでレストラン事件の動画見てたんでしょ！！」
「ティビースミスって人が作ったんだー」「いやー、そんなこと無いよ」「考えすぎよ」
「お願いだから、もう忘れてくれる？」
『ありえねぇ』
「スプラッシュフェイスで再生回数１位だよ」
「そう、世界中があんたの豹変ぶりを見てる」
「豹変なんか！
　私ただ……」
『ただ、何よ？』
「……」
「はぁ……いろいろあって……」

　ガガみたいなド派手な服装で言っても説得力がないってもんです。

「じゃあ、見かけが豹変したのも、否定するわけ？」
「……いや」
「レストランで暴れたのを否定するわけ？」
「否定しない……でも、でも……でも……」
「でも、でも、でも！」
「……」
「誰かさん、お尻に火がついちゃったみたいだね……」

　ジェイドと険悪な感じになってしまう。
　……その間、キャットはずっとガムを物足りなそうな顔で噛んでいる。

『お尻の医者に見てもらえば？』
「紹介するよ……」

　レックスがふざけて、ロビーがマジレスする。

「あぁ、キャット……もうそろそろガムだした方が……」
「良いの、命令しないで！」

　ガムでネチャネチャの口で若干ヒステリックにキャットが言う。

「……」
「アンドレ、あんたレストランに居たんでしょう、実際、何があったの？」
「あぁ、トリーは頼んだサラダが嫌だったみたい」
「……」
「で、何か喚いて、テーブルひっくり返して、月を歩いた偉いおじさんのズボンにラビオリ突っ込んだ！」
「こんなのずるい！」
「本当にずるい事実ね」

　カンキーンコーン！
　終業のチャイムが鳴る。

「待って……ねぇ……キャット！！？」
「もぐもごご……」

　みんな、トリーから距離を取り、カフェテリアに向かおうとする。

「キャットは私のこと最低なんて思わないでしょう？」
「……もわ、ほぼあわいけど、れろるんなはばりーもの」

　キャットは口の中いっぱいにガムを頬張っていて、何言ってるんだかさっぱり。ｗ
　しかし、あまりトリーに協力的でもない様子。

「……口からガム出して喋ってよ！」
「……。　
　じゃーねぇ～……」
「……はぁ……私、最悪だ……」

　キャットも今のトリーは応援できないようだ。
　なぜか、吐き出したガムをトリーの手のひらにおいていくキャット。ｗ
　さらに、何故かそれを飲み込むトリー。

　と、ここでオープニング。

---

　オープニング終わって続きです。
　トリーの家。
　家の中では、いつもどおりの素顔のトリーがリビングで一人、落ち込んでいる一方、キッチンではトリーナが何かやっている。
　お皿いっぱいになんだか白いどろどろを盛っているが……。

「何なのそれ？」
「ん～ネットで出てたの、マヨネーズパック！
　毎日１０分でお肌つやつや！」
「トリー、ベックだ！」

　ピンポーン、チャイムが鳴り、トリーが応答に出る。
　トリーナは顔面マヨーネズまみれで慌ててる。

「わっ！？
　ベック！！
　あぁ、あぁあああ！！！」

　ベックは最近、ジェイドと不仲でお互いに距離をとっている。
　と言うか、ベックがジェイドに頭を冷やせと三行半を叩きつけた感じなのだが……。
　で、トリーナはそんなら、ベックは自分がもらっちゃっても良いかな～（※）って思っていて、何かとモーションかけている。

（※　ベック自体も魅力的だけどー、それよりベックと一緒にいれば目立って、他の男の子や芸能界のスカウトの目にもつきやすくなるかも……って打算的理由があったり）

　慌てて顔のマヨネーズを剥がしにかかるけれども、ベックが話があるのはトリーの方。

「……」
「あら～、いらっしゃいベック！
　ヤダ～～来てくれるなんて」
「顔に何か、ついてるよ？」
「ヤダ、ちょっと待って！！」

　慌てて、トリーナ姉ちゃんが引っ込み、リビングにはトリーとベックの二人きりに。

「……ううん……」
「何、プラチナミュージックショーのオープニング、世界の舞台で歌う、未来のスター！
　……にしては、嬉しそうじゃないね」
「そうなの……」
「で？」
「だって私、ホントは……！！
　みんなにちゃんと言えれば良いんだけど……」

　見透かしたようなベックの言葉に窮するトリー。
　メイソンさんには、喋るなって念を押されている。

「うううう……」
「全部芝居なんだって？
　プロデューサの命令でめちゃくちゃやってるんだって？」
「何で知ってるの！？」
「だって、トリーだろ？
　オレの知ってるトリーは強制されない限り、あんな事しないよ」
「あぁ、良かった……ベック、分かってくれた、超嬉しい。
　でも、私何も言ってないから！
　お芝居だなんて、ただのまぐれ当たり、フフフ……」

　一瞬認めてしまうが、バレるとメイソンさんにクビにされそうなので、ごまかすトリー。

「……なんで、お芝居やめないの？」
「だって……勝手にやめて、ワイルドな歌姫のイメージ壊したら、キャンセルされちゃう！」
「授賞式は明後日だよ？
　もうキャンセルできないよ！」
「どうかなぁ……？
　怖いの……」
「良い、メイソンさんにこういうんだ……“もうこんな作りごとはウンザリだって”」
「でも……」
「トリーはホントの自分を見せるべき！
　最高だから……」
「……」
「……」

　じっと、ベックがトリーを見つめている。
　全幅の信頼ってやつ。

「……」

　って、何故か二人の距離が近づいて、そっとベックの手がトリーの顎のあたりに下がった髪の先を触る……なんか良い雰囲気……。
　ってあたりでガチャっと音がして、ママが帰ってくる。ｗ

「おぉお！」「わぁああ！」
「パイ買ってきたわよ～」
「おかえり～～」「おぉ、おぉ、おぉおおお！！」
「じゃあもう行くよ」
「じゃまたね！」
「学校の用事で、どうも！」
「ふぁぁああ～～」

　何事も無い風を装うベックとトリーだけど、不自然すぎ。ｗ
　ママが入ってきた時のベックなんか、慌てすぎだったし。ｗ

「……」

---

　翌日の学校の廊下。

「……あぁ、ねぇ、それ何やってるの？」
「いやぁ、ハンドマッサージやってるの」
「もうやめてよ！！」

　なぜか、ロビーがアンドレをハンドマッサージしてる。ｗ
　わけわからん。ｗ

　そして、キャットが登校してくるが……なんともごっつい体格のお兄さんをつれている。
　しかも、見れば、お互いの手首を手錠でつないでる。
　まるで警官が犯人を捕まえてるみたいに。

「あぁ、どうも……」
「やぁ、キャット」

　ギョッとするアンドレたちにキャットが説明するにはこうだ。

「……ハイ……」
「あー、このおじさんは？」
「オリバーさん、親がね私がビブル食べないようにって雇ったの……」
「……」「……」

　ビブルダメ、絶対！
　たしかにキャットのビブル喰いは異常な感じだったけど、だからって、ボディガードみたいなおじさん野党なんて、大げさだなあ！

「つまり、ビブルガードってとこと？」
「そうです」
「……」
「自分も昔、ビブルにハマって、今は人助けを」
「お願い、１つだけ、１つだけ……１つだけなら良い？」
「ダーメ、絶対ダメです！」
「あ～～、少しなら良いでしょ？
　キャット、ビブル、ちょっとだけね」
「ハ～イ」
「！」

　ロビーがカバンに持ってたビブルの袋を引っ張り出して、キャットにあげようとすると……オリバーさんが素早く跳ね飛ばし、ロビーを突く。
　訓練された、迷いのない行動です。

　……でも、学校でやるからみんな目を丸くして驚いてます。

「痛ってぇ……」
「キャットはビブル禁止！」
「キャットはビブル禁止……」

　オリバーさんに連れられてキャットがふらふら行ってしまう。

「あはは、オリバーさんをマッサージしたら？」

　アンドレが軽口を叩きながらアンドレを引っ張り起こす。

　廊下にトリー、そしてベックが連れ立って入ってくる。
　トリーは今日はいつも通りの格好です。
　昨日、ベックの言い出した計画、メイソンさんにはっきりとこういうキャラ付けはいやだって伝えるために二人で共謀しているのだ。

「はぁ……」
「そんな焦らなくても！」
「こんなの無理！
　口から心臓出そう！」
「大丈夫！」
「メイソンさん、もうすぐ撮影隊と一緒に来ちゃうのよ？
　撮影するの、私が配達の人をぶつところ！！」
「じゃあ、メイソンさんにはっきり言ってやりなよ！」
「トリー、今日……んん？」

　メイソンさんがやってくるが……見ればトリーはメイソンさんのキャラ付けしたエキセントリックな服装じゃなくて、極普通の地味な格好に戻っている。

「おはようございます！」
「おはようじゃないよ、お通夜みたいな格好して！
　くらげのワンピース、ちゃんと送ったのか！？
　イボイボついたヤツ！！」
「はい、送りました！」
「トリー、くらげのワンピはどうしたの！？
　それに肉の帽子、何で被って無いの！？
　肉の帽子は送ったのか！？」
「はい、絶対、神に誓って！！」
「……」

　メイソンさんは予定通りに事が進んでいないことに腹を立てて、マネージャーやトリーに当たり散らす。

「最初に話した時、約束したね？」
「あの……もう操り人形はいやです！
　言われた通り、変な服を着て、変なメイクで嫌なやつの振りするの。
　店で暴れて、人のズボンにラビオリを詰めるのもイヤなんです！！」
「まだあるぞ！」
「はい？」
「プラチナミュージックショーのオープニング、あれは無しだ！」
「でも、明日ですよ！」
「分かってる！！」
「ベック……」

　メイソンさんが折れない――少なくとも、トリーにはそう言う――のも、一応想定済み。
　相手がハッタリでトリーの意志をくじこうとするなら、こっちも台本通りにベックが高圧的に交渉だけのことだ。

「今から変わりなんて見つかりませんよ！？」
「ほぉ、そうかな？
　あ～～～……あぁ、そうだ君！」
「私？」

　メイソンさんは辺りを見渡すと、ジェイドに目をつける。

「ビデオで見たよ。
　君はかなり歌唱力があったね……」
「どうも……」
「で、どうだろう？
　明日、プレチナミュージックショーのオープニングで歌って見ないかぁ？？」
「……」

　トリーや他の生徒を尻目に、その場でジェイドを口説きにかかる。
　これは、さすがにベックとトリーにもちょっと想定外。

「ありえない！！」
「喜んで」
「ではこっちに！
　いろいろ話し合わないとね」
「はは……」
「……」
「ホラね……」

　ベックは、ホラねって言ってるけどこんな展開、予想もしてませんでしたって！

---

　シーン変わって、夜のトリーん家。
　トリーがグチグチと悩みごとを話しているが……隣にいるトリーナは今日はマスタードのパックに顔を突っ込んだまま。
　……若干気持ち悪いです。
　というか、辛かったり、ツーンと来たりしないのかなー？

「そりゃ……授賞式にでられないのは悲しいけど、でも……あぁ……自分には嘘つかなかったから……」
「……」
「それって、ホントに綺麗になるの？」
「マスタードパックはニキビに良いんだって！」
「……」

　若干鼻づまり声でトリーナが言う。
　そんな無理してパックせんでも……。

　トリーが、ホットドッグにトリーナの顔についたマスタードをちょこっと塗って食べる。

「むぷ……はぁ！
　もうヤダ、誰か来たー！！
　わあぁぁぁ！！
　あぁああああああ！！」

　またチャイムが鳴って、慌ててトリーナ姉ちゃんがマスタードを落としに出て行く。

「……」

　トリーが重い腰を上げて出迎えに向かうとそこに居たのは、アンドレ。

「……どうぞ」
「よぉ、おみやげ持ってきた」
「ぬいぐるみ？」
「あぁ、それも普通のじゃなくて、スペシャルなぬいぐるみね。
　まぁ、見てて！」

　アンドレがぬいぐるみを床に置くと……ぎゃははははははと笑いながら、文字通り笑い転げる。
　なんつーか、ちょっと不気味。

「……ちょっと、怖いんだけど」
『あーははははははははははは、ぎゃはははははははははは』
「……確かに……これ、ホラーだよね……」
『ぎゃはははははははははは！』
「あぁ……はい、待って！」

　また、お客さんがやって来たようで、チャイムの応答にトリーが向かう。

「……」「……」
「いらっしゃい、どうぞ」

　アンドレに続き、ベック、ロビーもトリーの様子が心配だったのか、様子を見にやってくる。

「お邪魔！
　おみやげ」
「これ、チョコレートで作ったブロワーだよ」
「……これ、チョコなの！？」
「そう、味見してよ！」
「やだ！」

　ベックのおみやげは無難に鉢植えの植物だったけど、ロビーのはなぜかブロワーをかたどったチョコレート。
　ホント、なんでよ？

（※　電動で空気を吹き出して、庭に散らばった葉っぱとかを吹き飛ばし、一点に集めるための機械。
　庭の広いアメリカでは必需品……なんだそうだけど、なぜそれのチョコレート版なのかは不明）

「……ねぇみんな、聞いて。
　はげましに来てくれたんでしょう？
　それはすごく、うれしい。
　でも……大丈夫」
『あははははははははははははは、ははははははははははは』
「ごめん、これどうやったら止まるのかな」
「早く止めて！！」
「！！
　分かった！！」
「オレがやる！」
『あはははははははははははははは、ぎゃははははははははははは』

　哄笑するぬいぐるみをベックが掴んで、どこ行くのかと思ったら、キッチンに……そしておもむろに冷蔵庫の蓋を開けて、その中に放り込み、閉じてしまう。
　ま、電池が切れる頃には静かになってるでしょ。

　ピコン、開きっぱなしにしてたノートＰＣからチャットのログイン音が聞こえる。

「ねぇ、キャットがチャットしたいって」
『は～～い』
「どうもね」「はい、キャット」「ハーイ」

　画面の先では、キャット、それとビブルガードのオリバーさんが見える。
　……やっぱ、まだビブルが抜けきってないのね……。

　それより、気になるのはその背景。
　薄暗くて、遠くに明かりが見えるが……どこかのステージ裏？

『オリバーのこと覚えてる？』
『どうもです』
「……どこにいるの？」
『あ～～……あの……お風呂に入ってるの。
　ランランランランラン』
「いや、お風呂じゃないでしょ！」
『ブーメランシアターのバックステージ』

　ごまかすキャットの代わりにオリバーさんが言う。

「嘘付かないで良いのに……ジェイドの手伝いしてたんでしょう？
　明日の授賞式のために」
『本当に怒ってない？』
「怒ってない」
『良かった、じゃあ……ビブル持ってきて……トリーだけが頼り……』
『ビブルはダメ！！』
『オリバー！！』
「ビブルは持って行けない……他にある？」

　キャットのビブル中毒はもうどうしようもない感じである。

『あぁ、ジェイドがみんなにリハーサル見に来ても良いってよ』
「あ～～……遠慮する。
　どうする、ロビーたちは見に行く？」
「プレチナミュージックショーのリハ？
　いやぁ～～……」「良いよ」

　ホントはすごく行きたいんだけど、トリーに気を使って、そうは言えないラバーとアンドレ。

「トリーを慰めに来たんだよ！」
「うん」
「行きたいなら、行っても良いんだけど……」
「イェー！！」「やったぁ！」「あぁあ！！」

　トリーがちょっと言っただけで、すぐに出て行ってしまう。
　本音だと、そんなにプラチナミュージックショーに行きたかったのね。

「待って、ワンちゃん冷蔵庫に入ったまま！
　チョコのブロワー持ってっちゃうわけ！？」

　ついでにロビーはブロワー型チョコも回収して行く。ｗ

---

　プラチナミュージックショーの舞台裏。
　キャットが泣きべそかきそうな顔でオリバーさんに言っている。
　
「ほんのちょっとだけ、ダメ？」
「答えはノー！」
「でもホントに！」
「キャット！」
「ジェイド……」
「これ、返しといて！」

　そこにジェイドがやってくる。
　しかも、えらくピリピリしている。
　そりゃまぁ、プラチナミュージックショーのオープニングが控えてるしなぁ。

「メイソンさんが青いスカートにしろって」
「何でこれじゃダメなの？」
「とってもカワイイのに」
「良いから、とにかく青いの取ってきて！」
「行こうオリバー……」
「最初は赤で、今度は青を探せってか」
「人生って大変なの」

　キャットたちが衣裳部屋に青いスカートを探しに行く。
　その一方でジェイドがメイク机につくと、キャットがさっきチャットしてたＰＣがそのままになっていて、トリーのリビングの様子が筒抜けになっている。

『なぁ、余計なこと言ったかな？』
『あぁ、そんなことない……もし私、成功するんでも、自分の才能で成功したい。
　ひどい事したり、肉の帽子なんて嫌……』

　モニター越しに見ると、トリーとベックが二人きりになっている。
　今のところジェイドとベックは喧嘩別れして冷却期間中とはいえ、これはないんじゃないの？

「……」
『まぁ、肉の帽子をかぶって歌うのも悪くないかもね。
　まじめに……肉、いつでもパクッ、帽子彼食べちゃう！』
『食べちゃうの？』
『そう、帽子から食べちゃう！』
『良いかもしれない』

　ちょっとふざけてトリーの気持ちを明るくしようとするベック。
　まさか、ジェイドがモニターの向こうで見てるなんて、思いもしません。

『だから……』
『だから……』
「！！！」

　さっき、トリーのママが帰ってきて、宙ぶらりんになったことの続きをしようとベックがトリーに接近する。
　ジェイドからしたら、とんでもないことです。

『……あぁあ……あ～～～……もう！』

　しかし、トリーの方からふざけないでというふうにベックをやんわり押し戻す。

『ごめん、本当に……』
『いやぁ……私が、ごめんなさい』
『そう言うつもりじゃ……』
『違うの、そう言うつもりじゃないの……あの』
『キス、しちゃダメなの？』

　ベックがかなり真面目な顔でトリーに尋ねる。

『だって……ジェイドが……』
『ジェイドとは別れた』
『そうだけど、友達の元カレとキスって……』

　トリーがベックを拒絶した理由は、ジェイドへの義理立て。
　ジェイドのことを友達だと思っているからだ。

『待ってよ、いつからジェイドと友だちになったの？
　先週、ジェイドはトリーのハンバーガー、靴底でこすってたよ？』
「……」
『ウッソ！？
　足の裏、食べたの！？
　あぁぁ！』
『それに、オープニングだって、横取りしたんだよ？』
『あ～～……確かに……本当の友達って言うのじゃないかも……でも、一応友達……だと思う。
　だから……元カレと友達がキスするって……友達にはそんな仕打ち出来ない』
「……」

　ジェイドはトリーの言葉を聞いて、なにかジャリつく感情が胸の中で渦巻くのを感じていた。
　と、そこにキャットとオリバーさんが戻ってくる。

「おまたせ～」
「青のスカートですよ」
「……」

　ふりふりの青いスカート……ってのはどーだろ？

---

「チェックワン、チェック、チェックワン……」
「十二分で本番です、十二分で本番！」

　プラチナミュージックショーの開始が近づき、みんな忙しく行ったり来たりしている。

「絶対ダメです！」
「ビブルの匂いぐらい良いじゃない」
「“匂いぐらい”じゃないでしょう？
　あの甘い匂い……おかしくなるッ！！」
「……」

　わなわな震えながら、キャットを諌めるオリバーさん。　
　オリバーさんもビブル中毒に悩まれてィトですゆえ。

　そこに、アンドレ、ロビーが急いでやってくる。　
　スーツまで、しっかりめかしこんでます。

「やぁ、キャット！」
「やぁ、赤毛ちゃん」
「……ハ～イ」
「で、ジェイドは？」
「話せないの、あっちで支度してる」
「……」

　ピンクのカツラにどぎついメイク、舞台衣装とはいえ、ジェイドの格好はいつにもまして独特で強烈です。

「みんな、席に案内してあげる！」
「通路側で」
「ビブルくれたら通路側にしてあげる」
「ダメ！」
「いじわる！！」
「ひゃー！」

　ロビーやキャットたちが移動していく。

「これ、ちゃんと止まるように安全ピン持ってきますね」
「お願い」

　メイクさん・着付け係も引っ込んで、ジェイドがひとりきりになったところで……そこにトリーがやって来る。

「……うわぁ……迫力の衣装」
「馬鹿みたいでしょう？」
「あ～～……ピンクなお馬鹿だね……それと頭のそれ、アンテナ？」
「ありがとう」

　微妙な距離感でトリーがジョークを言う。

「来ると思ってなかった」
「いやぁ……みんなジェイドを応援しに行くって言うから……私も来ちゃった。
　それに、その衣装、絶対ジェイドのほうが似合う」
「……やっぱりダメ……」
「そうね、やっぱりジェイドには胸のあたりが……」
「違う！
　……衣装じゃなくて、この事！
　……私……」
「どうして？」

　ジェイドがイライラとした感じで言う。
　トリーにこういうことを言うのって自分のキャラじゃないし、それにちょっと悔しい。

　……胸がどーのって言うのは、ブラジャーのサイズの問題でしょーか？ｗ

「あんたが歌うはずだった……」
「……」
「あんたのビッグチャンス！
　……だから、私が歌うなんて……」
「……なんて？」
「友達には出来ない……」
「……あぁ」
「たとえ、あんたでも！」

　さっきのビデオチャット越しに見たセリフと同じことをトリーに返すジェイド。
　トリーからの友好の態度を返したのだ。

　……ジェイドがこうやってデレるのって初めてかも？

---

　放送開始まで残り１分を切り、舞台裏は大忙し。
　そこに、ジェイドがずかずかと踏み込んでくる。

「６０秒前！」
「ねぇ、リック！
　チェンジの話、聞いた？」
「えっ、台本の？？
　いいや」

　司会進行のセリフを読み上げる役割のおじさんを捕まえて話しかける。

「あぁ、まったくもう……貸して！」
「？？？」
「頑張ってね～～！」
「あぁあ……君もね？」

　ジェイドが書き換えた台本にちょっと困惑してる風のおじさん。

---

　客席の中に紛れても、キャットはまだビブルのことで頭いっぱいです。

「ねぇ、ビブル持ってる娘、いない？」
「ダメ、もうビブルのことは忘れて！」
「でも……く゛る゛じい゛……」

　苦しい禁断症状というところか。

---

「本番５秒前！
　４，３，２……！」

　スクリプターのお姉さんの合図で、司会社が台本を読み上げる。
　なんで、このカウントダウンって１は言わないの？
　……ってのは、『アイ・カーリー』の方で何度も使われたネタですね。

　……このお姉さんの声、トリーナの声優さんですかね？

『第３４回プラチナミュージックショーにようこそ！
　ハリウッドのブーメランシアターからお送りします！』
「ジェイド、ワクワクだろうな……」
『持ってきて！』
「し～～っ！！」

　客席じゃ、ロビーやベック・アンドレたちが見ている。
　……それにレックスも。
　なんか、レックスが出てくるのってすごい久しぶりな感じがする。

　そして、舞台の袖ではメイソンさんたちがジェイドの歌を待っているのだが……。

「さぁ、いよいよ始まるぞ！！」
『ご来場の皆様、未来のスターが世界に向けて、初めて歌います！！
　盛大な拍手を……トリー・ベガ！！』
「なんで！？
　何で、あの娘があそこに！？
　君は知ってるのか！？」
「知ってますが？」

　万雷の拍手の中、ステージに上ったのはジェイドじゃなくて、トリー。
　ジェイドが土壇場で、メイソンさんには知らせずに台本を書き換えて、トリーの出番を作ったのだ。

　こうなったらもうメイソンさんも止められない。

「そうだよ、あれトリーだ！！」
『えぇ、ぶったまげ！！』
「イェーイ！
　トリーだ！
　トリー！」

　キャットやアンドレ、そして多くのお客さんが熱狂している。

「ジェイドが出るはずだろ、何で変更したんだ！？
　どういう事だ！」
「ですから、あれは……」
「どういうことだ、説明しろ！！」

　メイソンさんたちは怒鳴り合いになっているが、もうどうしようもない。

「……」
「……」

　そして、舞台裏から観客席に回ってきたジェイドはベックの横に座って、トリーの舞台を見る。
　ベックもそんなジェイドに何も言わない。

片道切符で 突き進むの
髪をなびかせ ホコリだらけの足で
アメリカで成功するために
宝物は 古いＴシャツだけ
１９８５年 ストーンズのライブＴシャツ
どうしても アメリカで成功したいの
大好きな歌を歌うの
オープンカーで サングラスかけて
アメリカを 一気に突っ走るの
太陽を浴びて
走り続けるの
わかってる ライバルはたくさんいる
ほら 私を見て
もっと大きな舞台へ
誰にも止められない ハートは動き出したの
アメリカで成功してみせる
アメリカで成功してみせる

　最初は慌ててたメイソンさんたちだったが、トリーのパワーのある歌にみんなが魅了されて、沸き立ってくると、妨害するどころかトリーの歌の成功に便乗しようとする。

「だからすごいって言ったじゃない！」
「んふふふふ」
「でも、クビだって……」
「お前がクビ！」

サンセット大通りに私の星を
ハリウッドに名前を残してみせる
私は絶対に アメリカで成功する

お金なんて無くても ニッコリできる
自分で作った歌を歌うの
曲名は『アメリカで成功してみせる』

太陽を浴びて
走り続けるの
わかってる ライバルはたくさんいる
ほら 私を見て
もっと大きな舞台へ
誰にも止められない ハートは動き出したの
アメリカで成功してみせる
アメリカで成功してみせる

　トリーの歌でみんな大盛り上がり。

「最高トリー！」
「ワー！！
　トリー、わああああ！！」

　キャットや他のみんながステージの直ぐ側までやってくる。
　トリーは身を乗り出して、キャット、アンドレ、ラバーとハグしていく。
　ジェイドとは若干距離があったが、トリーから手を伸ばす段になって、観念してハグを返す。

「ジェイド、ありがとう！」
「良かったわよ！！」

　ライブは最高の大盛り上がりで幕を閉じた……。

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　どこかの路地裏……。
　ゴミコンテナの間をカメラが進んでいくと……キャットとオリバーさんが、人目をはばかりながらビブルをむさぼり食べている。

「誰にも内緒だからね！！」
「オリバーもね！！
　ホントに美味しいね！！」
「やめられない！！」

　あーぁ、キャットのせいでオリバーさんまでビブル中毒を再発してる……。
　ダメじゃーんという。

　このブログでは、他にも『ビクトリアス』のセリフや歌詞を丸写しにした記事を沢山書いています、興味があればご覧ください。
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