- 2013年10月06日 23:02
「失われた消費税8%期間」脱出のススメ
■独裁者(?)になれなかった安倍総理
案の定と言うべきか、10月1日、安倍総理の口から「消費税を8%にする」という言葉が発せられた。安倍総理の独断で「消費税の増税を延期する」という言葉が出ることに微かな期待もしていたのだが、やはり難しかったというところだろうか。
アメリカのように「金融緩和を縮小する」と何度も言いながら、結局は「金融緩和を継続する」との判断になる国とは、ある意味で対照的でもある。
ひょっとすると安倍総理は、8月に行われた有識者会議なるもので消費税増税反対が過半数になることを期待していたのかもしれないが、なぜか民意とは裏腹に消費税増税に賛成の意見が圧倒的多数を占めたことで増税せざるを得なくなってしまったのかもしれない。
アベノミクスの指南役とも言われている浜田宏一氏が現時点での消費税増税に難色を示していることからも、安倍総理自身、消費税を上げることに大賛成というわけではないだろうし、それなりの抵抗感も感じていたフシがある(5兆円規模の経済対策はその表れとも言える)が、結局、良い意味での独裁者(賢人)には成れなかったというところだろうか。
■ナンセンスな法人税減税論
その安倍総理の精一杯の罪滅ぼし感から生まれたリスクヘッジ政策としての「5兆円の景気浮揚対策」にプラスして「法人税の減税」というものが実施されるそうだが、正直、かなり無理があるかなという気がする。これで本当に万事上手く行くようなら、オリンピックのウルトラC級並の離れ業だとも言えるが、少々、読みが甘過ぎるのではないかと思える。
『アベノミクスを殺す消費増税』という本にもあるように、時期尚早な消費税の増税はアベノミクスにとっての自殺行為でもある。
自殺行為というのは言い過ぎだとしても、危険なスタントをするようなものである。ビルから飛び降りるという危険なスタントをするために落下地点に置いた緩衝材の1つが『法人税の減税』では心許ないと言わざるを得ない。
よく「法人税を下げれば、税金を納めてくれる海外企業が日本に来てくれる」というような話を耳にするが、これも少しは効果が有るかもしれないが、よく考えると少々疑わしい話である。
法人税を下げることが悪いことだとは言わないが、単に「法人税が安いから」という理由だけで海外企業が日本に来るとは思えない。いくら日本の法人税が高いと言っても、日本では『節税行為』というものが立派(?)に機能しているので、法人企業の場合、支払う税金は合法的にいくらでも低く抑えることができる。そんな抜け道が用意されている状況下で法人税の高い低いなどという議論はナンセンスだとも言える。
■木(税率)を見て、森(景気)を見ないミクロ税収論
実際、日本企業の7割程度は法人税を納めていないことはよく知られたことであり、それは節税行為によって敢えて赤字にしている企業の数がそれだけ多いことを意味している。海外から来た企業だからといって節税ができないというわけでもないだろうし、法人税がべらぼうに高いと思うのであれば、意図的&合法的に利益が出ないようにすればよいだけの話なので、法人税を少し下げる程度では海外企業誘致にそれほど効果があるとは思えない。(利益が出なければ投資家に愛想を尽かされる上場企業であれば話は別だが)
海外企業が日本を敬遠する理由は、法人税が高いということよりも、むしろ、その他の規制が多過ぎることだろうと思う。
企業が「税金を支払ってもよい」と考えるようになるのはいつ如何なる時か?というと、それは必ずしも税率の低い時ではない。ではいつなのか? それは景気が良い時だ。もっと正確に言えば、景気の先行きが明るいという見通しが立つ時だ。来年も再来年も景気が良くなるという見通しが立てば、わざわざ節税行為などに精を出す必要はなく、内部留保をする必要性も薄れるので、税収は上がり、設備投資も雇用も増えるという好循環が生まれる。税収を上げる最も効果的で間違いのない方法は、景気を良くすることであり、素直に考えれば、これほど道理に適ったこともない。
税収を上げるためには、「税率を弄る」というようなミクロ政策ではなく、「景気を良くする」というマクロ政策を採らなければならない。ミクロ政策を行うのはマクロ政策が成功してからの話である。
「税率を下げれば税収が上がる」という理屈は、消費税には適用できたとしても、法人税には適用できない。法人税収を上げるためには、景気を良くするのがベストな選択だ。
つまり、「法人税を下げれば景気が良くなる」のではなく、「景気が良くなれば法人税収が上がる」のである。政府がやろうとしていることは残念ながら、前者の方であり、アベノミクスとも真っ向から対立してしまうことになる。
早い話、税率という名の「木」ばかり見て、肝心の景気という名の「森」が見えていないのである。
■消費税増税から派生する「便乗値上げ」によるインフレ懸念
しかし、既に「消費税増税」という賽は投げられてしまったので、今更後悔しても遅い。どうにか景気の腰が折れないように頑張ってもらうしかなさそうだが、今後、消費税8%にしたことによって景気が悪化したという見立てが立てば、再度、国民に信を問うて、消費税を10%にするのではなく、5%(あるいはそれ以下)に戻すという選択肢を用意することをオススメする。消費税8%は2年間のテストだったということにすればいい。その間は「失われた消費税8%期間」ということになってしまう可能性があるが、それは甘んじて受け入れるしかない。
今後は消費税増税による便乗値上げによって本当にインフレになる可能性が高くなってきた。金融緩和だけならインフレにならなかったかもしれないが、皮肉にも政府が全く予期していなかった消費税増税から派生する「便乗値上げ」がインフレを招いてしまう可能性が出てきた。
原発停止による電気代の高騰を原因とした悪性インフレと、消費税増税による便乗値上げによる悪性インフレ、このダブルパンチを食らって日本経済、もとい国民がダウンしないことを願うばかりだ。
消費税の増税は「政権の鬼門」とも言われているそうだが、「5兆円規模の経済対策」が少しでもお祓いの役目を果たしてくれることを祈りたい。鬼門に手を出した政権(為政者)だけでなく、我々国民(納税者)にまで障り(祟り)が有っては堪らない。
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