「あまちゃん」が示すソーシャル視聴の先にあるもの10月4日 22時11分
先月、最終回を迎えたNHKの連続テレビ小説「あまちゃん」では、放送を見ながら同時にツイッターなどで感想を書く、いわゆる「ソーシャル視聴」による書き込みが多く見られました。
日本でもここ数年、盛り上がりを見せているソーシャル視聴は、番組の作り方も大きく変える可能性があると専門家は指摘しています。(ネット報道部・足立義則)
その日「あまファン」は
「あまちゃん」最終回が放送された9月28日(土)の午前7時半。千葉県在住の会社員、間々田智子さん(仮名・52)は、夫と息子の朝食の支度を終えたあと、いつものようにスマートフォンを持ってテレビに向かいました。総合テレビよりも放送が早い衛星第2で「あまちゃん」を見る、いわゆる「早あま」です。
冒頭の駅のシーンに間々田さんはさっそく反応して、「北鉄に始まり、北鉄に終わる。すごい!」とツイート。ドラマの第1回も北鉄のシーンから始まったことを知る熱心なファンならではの反応です。その後「北鉄」の運行再開を伝えるニュースが流れた場面でほかの人が「ニュースを読んでるの誰だろう?」と書き込むと、別の人が「声優さんだそうですよ」などと書き込むなど、会話がはずみます。
ソーシャルの一体感
間々田さんも「私はヒロシがいちばん好き」というツイートに、「私もです。北三陸協会のエースになっても変わらないのがいいですね」と書き込んだり、「最終週はアキが変えた人たちの話でしたね」と独自に分析してみたり。
「ソーシャル視聴」のスタイルで間々田さんがテレビを見るようになったのは、2年ほど前でした。
NBA(北米のプロバスケットボールリーグ)の番組が好きでしたが周りに同じ趣味の人がいなかったため、「ツイッターで一体感を補完していた」ということです。
ドラマのソーシャル視聴に夢中になったのは「あまちゃん」が初めてで、「もともとのドラマのおもしろさに加えて、マニアックな小ネタやパロディ、ストーリーにほとんど関係ないような細かな伏線がほかのドラマに比べて群を抜いて多い。自分で気付かないことをツイッターで知ったり、こんなことを見つけたと書き込むと反響があったりすると、もう1人では見られません」と語っています。
ソーシャルと「あるある」の好相性
最終回が放送された28日、「あまちゃん」という単語を含むツイートは、午前8時から10時までの時間帯が最も多く、約69000件に上りました(ヤフーリアルタイム検索による集計)
改めて「ソーシャル視聴」とは、テレビを見ながらパソコンやタブレットを操作して、ツイッターやフェイスブックなどに書き込む視聴スタイルのことです。
日本でも、オリンピックやサッカーW杯の試合中継を見ながらファンが応援のメッセージを書き込んだり、人気アニメーションの主人公のセリフを一斉にツイートしたりといったソーシャル視聴が、ここ数年盛り上がりを見せていました。
ソーシャルメディア業界の動向を調査しているエイベック研究所代表の武田隆さんは「あまちゃん」のソーシャル視聴人気の背景には、「広範囲に仕込まれたさまざまな小ネタがある」と分析、「視聴率で示されているより、ソーシャルでの盛り上がりが他番組を圧倒していた」とみています。
ソーシャル視聴に広告業界も注目
こうしたソーシャル視聴の盛り上がりには多くの業界が注目しています。毎年広告やIT業界の関係者が多数訪れるイベント「アドテック東京2013」でも、ことしの基調講演は「ソーシャル視聴」から始まりました。壇上に立ったツイッター社のデブ・ロイ氏は「もともとテレビの特徴は同じ体験を同時に多数の人に提供できる点にあったが、一人一人がテレビを持つ時代になると個人のコンテンツの好みが生まれ、社会性が消えていった。それがソーシャルメディアでつながることによって多くの人が同時にイベントを見ることができるようになり、新たなテレビの可能性が開かれている。ソーシャルメディアはテレビの『増幅器』になっている」と語りました。
そして、放送局やスポンサーが特定の番組に関するツイッターの大量の書き込みを分析して、書き込んだユーザーに直接、番組のお知らせやスポンサーの広告をメッセージで送るビジネスを紹介しました。ソーシャル視聴を発展させた「ターゲティング広告」としてアメリカではすでに始まっており、日本でも準備が進んでいるということです。
「あまちゃん」が示す今後は
ロイ氏は「若い世代を中心にインターネットに視聴者を奪われ、テレビ離れが進んでいるのでは」という質問に対し、「新しいメディアは古いメディアを殺しはしない。テレビの視聴者数や関連するビジネスは増えている」と語りました。
エイベック研究所の武田さんはさらに、「ソーシャル視聴をきっかけに放送局は視聴者とより有機的につながるべきだ」と提言しています。
「ちょうどメーカーのマーケティングが、売上高が示す『量』へのこだわりから、ソーシャルメディアでつながったユーザーの声からうかがえる『質』も重視する流れになっている。テレビの作り手も、従来の『視聴率』という量的な指標だけでなく、ソーシャル視聴の書き込み分析して、例えばそのユーザーがなぜそのドラマを見るようになったのか、などの視聴の「質」も重視する。それによってよりニーズに合った番組作りが可能になる」と話しています。
ソーシャル視聴の盛り上がりを番組ごとの一過性に終わらせず、よりよいコンテンツ作りにどう生かしていくか。「ソーシャル視聴」が示す可能性は、作り手の意識改革も迫っています。
[関連ニュース] 自動検索 |
[関連リンク] |
|