良品計画の代表取締役会長・松井忠三氏が執筆した作品。現在半額セール中。出版してまだ日が浅いのでかなりお買い得となっています。良い作品だったので簡単に内容をご共有。
無印良品のマニュアルの力
本書で特に強調されているのが「マニュアル」の力。ぼくのような人間は反射的に忌避してしまいますが、経営不振に陥っていた無印良品を復活させたのは、マニュアルの力であると経営者本人が語っています。
かつては業績が悪化し、「無印良品はもう終わりじゃないか」と業界内で囁かれていた時期がありました。私は、そのような”谷底に落ちていた時期”に社長に就任しています。
(中略)不採算店の閉鎖・縮小や海外事業のリストラなどの大手術も必要でしたが、同時に社内の業務の見直しも始め、MUJIGRAMや業務基準書などのマニュアルを整備し、徹底的に見える化を図りました。結果、2002年度には増益に転じ、2005年度には売上1,401億円、経常利益156億円と過去最高益になりました。
マニュアルは2種類で、書中では特に店舗向けのマニュアル「MUJIGRAM」の話が例として紹介されています。
無印良品の店舗で使っているマニュアル—MUJIGRAM。店舗開発部や企画室など、本部の業務をマニュアル化した—業務基準書。この二つの”マニュアル”には、経営から商品開発、売り場のディスプレイや接客まで、すべての仕事のノウハウが書かれています。MUJIGRAMは2000ページ分にも及び、なかには写真やイラスト、図もふんだんに盛り込まれています。
まず痺れるのは、マニュアルに必ず「目的」を設定するという哲学。いやー、これ、耳が痛くないですか。ぼくが勤めていた大企業では、目的不明のマニュアル項目が実にたくさんあった記憶があります。中には目的が形骸化しているものも…。
マニュアルの各項目の最初には、何のためにその作業を行うのか—「作業の意味・目的」が書いてあります。これは、「どのように行動するか」だけでなく、「何を実現するか」という仕事の軸をぶれさせないためです。
では、そのマニュアル自体の目的は何なのでしょうか。これも痺れました。
そもそもマニュアルは社員やスタッフの行動を制限するためにつくっているのではありません。むしろ、マニュアルをつくり上げるプロセスが重要で、全社員・全スタッフで問題点を見つけて改善していく姿勢を持ってもらうのが目的なのです。社員がマニュアルに依存してしまっているとしたら、そのマニュアルの作り方や、使い方に問題があるのでしょう。
マニュアルは従業員の創造性を高めるために存在している、と解釈できますね。これは一般的な理解とは逆のもので、実に興味深いです。
「細かいことまで決められていて、ちょっとめんどくさいな」「仕事がルーティンだらけになりそうだ」と思われる方もいるかもしれません。それは逆です。マニュアルは、仕事に潤いさえ与えてくれます。
無印良品のマニュアルは、現場で働くスタッフたちが「こうしてゃおうが、いいのに」と感じたことを、積み重ねることで生まれた知恵です。
また、現場では毎日のように問題点や改善点が発見され、マニュアルは毎月、更新されていくのです。仕事の進め方がどんどんブラッシュアップされるし、自然と、改善点がないかを探しながら働けるようにもなります。
書中では、マニュアルづくりにおけるこだわりも惜しみなく共有されています。
マニュアルは徹底して具体化しなければなりません。「商品を整然と並べる」と指導しても、人によって「整然と」の捉え方はまちまちです。これを統一させるために、「整然とはどういうものか」を定義付ける必要があります。
たとえばMUJIGRAMでは、”整然”とは「フェイスUP(タグのついている面を正面に向ける)、商品の向き、ライン、間隔がそろっていること」と定義づけ、この4つのポイントがどういう意味なのかを、写真入りで説明します。読んだ人は誰でも、「整然とは何か」がわかるのです。
経営者の書いた本って抽象的な話が多かったりしますが、この本はかなり具体的で好感が持てますね。企業秘密にしていてもいいものを、よくこんなかたちで公開してくれたなぁ、と太っ腹さにちょっと感動してしまうほど。
経営者、マネージャクラスの方は読んでおいて損はない作品だと思いますので、セール中にぜひポチっと。