ヘイトの現場から:/中 京都朝鮮学校への差別街宣
毎日新聞 2013年06月26日 大阪夕刊
◇暴力か、表現の自由か
2009年12月4日の午後1時ごろ、京都市南区の住宅や工場が混在する一角に拡声機から発せられる大音量のヘイトスピーチ(憎悪発言)が響き始めた。「朝鮮学校を日本からたたき出せ」「なにが子どもじゃ、スパイの子どもやんけ」「キムチくさいねん」−−。京都朝鮮第一初級学校の門前で、「在日特権を許さない市民の会(在特会)」メンバーら約10人が、同校が隣接する児童公園を運動場として「不法占拠」しているとして行った街頭宣伝活動だった。
校内には小学1年から6年までの約150人がいた。大音量の言葉の暴力に泣き出す子どもが続出。授業を続けることはできず、演説が続いた約1時間、パニックに陥った。
オモニ(母親)会会長だった朴貞任(パクジョンイム)さん(45)は、混乱を避けるため現場には行かず、近くの鴨川の堤防から様子をうかがっていたが、ワンワンと響く演説に「子どもらどうなってるんやろう」と涙があふれたという。
学校側は威力業務妨害容疑などで刑事告訴し、西村斉・在特会関西支部幹部(44)=肩書は当時=らが逮捕されたが、同校の痛手は大きかった。
事件後、登下校時の児童を守るため保護者が通学路を監視する警備態勢を組んだほか、GPS(全地球測位システム)付き携帯電話をわが子に持たせて安否確認する親もいた。「子どもが外に行きたくないと言い出した」「おねしょが再び始まった」「夜泣きするようになった」。子どもたち一人一人が心に傷を受けた。
学校を運営する京都朝鮮学園は翌10年6月、在特会メンバーらを相手取り、学校の半径200メートル以内での街宣禁止と3000万円の損害賠償を求め京都地裁に提訴した。
裁判で学校側は、在特会の言動を特定の民族や集団をおとしめる人種差別的な「ヘイトスピーチ」と断じ、子どもが平穏な環境で受けることができる民族教育権を侵害したと訴えた。また、ユダヤ人など特定集団への憎悪をあおる表現を「民衆扇動罪」として刑法で禁じるドイツなどの例を示して法規制の必要性を指摘した。