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外国人著名研究者招へい事業

研究活動報告

外国人著名研究者招へい事業報告書

Oliver E. Williamson

滞在中の日程
年月日 訪問先名称・訪問内容(研究討議・講演・視察等)
平成22年  
10月14日 韓国ソウルでの講演を午後終えてから深夜に羽田空港に到着、フォーシーズンズホテル椿山荘東京
10月15日 学習院大学経済学部の川嶋辰彦教授と地域経済学研究に関する討議(リーガロイヤルホテル東京)。
10月16日 午後、学習院大学においてウイリアムソン教授を中心としたシンポジウム『Defining the Agenda for the Next Decade of Research on Economic Governance(次世代の経済ガバナンス研究における研究アジェンダ)』を開催。約170名参加。

同日夜、シンポジウム・レセプションを兼ねてシンポジウム発表者を中心とした契約・組織の経済学に関する研究会を開催。青木昌彦教授(スタンフォード大学)、伊藤秀史教授(一橋大学経営学研究科)、神戸伸輔教授(学習院大学経済学部)などが出席。
10月17日 神戸に移動、午後、神戸大学において社会科学における学際性の重要さをテーマとした講演会を開催。タイトルは‘Be disciplined. Be interdisciplinary. Have an activemind.’。約350名参加。同日夜、レセプション。
10月18日 神戸から伊勢に移動、伊勢神宮など視察。夕刻から、ジェフ・レオン氏(渉外弁護士・神戸大学CDAMS連携研究者)及び齋籐彰教授(神戸大学法学研究科)とシンガポール経済発展モデルに関するワークショップ(三重県志摩市磯部町「はいふう」)。
10月19日 伊勢において齋藤彰教授(神戸大学法学研究科)とPrivate Orderingと法律科教育を中心とした研究討議及び研究指導(三重県志摩市磯部町)。
10月20日 移動日
10月21日 箱根においてディミトリ・リティシェフ教授と研究討議(富士屋ホテル)。
10月22日 東京に移動し、アジア開発銀行研究所主催によるDistinguished Speaker Seminar "Public and PrivateBureaucracies: The Transaction Cost Economics Perspective"開催(霞が関ビルディング)。約80名参加。同日夜、同研究所の河合正弘所長主催によるディナー出席。
10月23日 成田空港から離日。

受入実施の状況とその成果

 実質8日間の滞在中、シンポジウム・講演会を2大学及び国際機関の計3カ所において開催したほか、多面的な研究指導及び交流が行われた。ウイリアムソン教授は経営学と経済学の融合と分析手法の革新を実現したのみならず、関係的契約の効率性分析を通じて法学と経済学の境界領域に大きな影響を及ぼし、また社会学・組織論や政治学と複合した分析を行うなど、社会科学における学際研究の幅広さにおいて他に類をみない知の巨人である。この学際性を反映して、それぞれの講演会等には非常に広い範囲の研究分野から参加があり、また政策形成や経営の実務担当者の参加までみられるような希有な交流機会となった。

(1)学習院大学におけるシンポジウム "Defining the Agenda for the Next Decade of Research onEconomic Governance"

 ウイリアムソン教授が2009年に受賞したノーベル経済学賞は、経済ガバナンスに関する研究業績を授賞理由としている。経済ガバナンスの研究に対してゲーム理論の応用が90年代に大きく進んだことに対しては、ウイリアムソン教授が、機会主義など人間の特性に基づいて取引費用の中身を明らかにしたことが大きく寄与している。組織・契約の経済学の研究手法として、ゲーム理論の応用はその後も拡がり続けているが、今後の10年を見据えたとき、解決すべき本質的な問題は何か、研究枠組みや手段はどうあるべきか、を考える必要がある。このため、ウイリアムソン教授をはじめ指導的な立場にある研究者に発表をお願いし、議論が行われた。
 一橋大学の伊藤秀史教授からは、関係的な契約の研究を深める上で、強制力以外の契約の機能(開示など)に着目する研究展開が説明され、またスタンフォード大学の青木昌彦教授からは、人間の認知資産を定義し機能解明する発表がなされた。ウイリアムソン教授からは、非市場的な組織の分析が依然として求められること、起業精神に不可欠な強いインセンティブを生む社会枠組みが必要であること、そして実証研究の重要性などが説かれた。
 あえて通訳のない英語だけの開催形式がとられたためもあり、約170名の参加者は大半が研究者で占められたが、若い気鋭の研究者が多く、最先端を指し示すと同時に幅広い視野を与える極めて高い研究発表水準に触れることができた。また、学習院大学の能見善久教授(民法)とゲーム理論研究者の伊藤秀史教授の間で契約の本質に関して質疑応答が交わされるなど、研究分野の壁を超えつつ共通テーマについて議論するような刺激的な場となった。

(2)神戸大学における講演会 "Be disciplined. Be interdisciplinary. Have an activemind."

 神戸大学は古くからウイリアムソン教授と研究交流を持ち知的成果を我が国に紹介してきた。最近では、神戸大学大学院法学研究科齋藤彰教授および経済学研究科柳川隆教授が中心となって2003年にウイリアムソン教授を招へいし、「法動態学」に関する研究交流を行うほか、ウイリアムソン教授のアドバイスを受けつつ、法学と経済学・経営学を融合した教育プログラムを開始していた。ウイリアムソン教授自身が学部課程での工学教育、修士課程でのMBAの後に、ハーバート・サイモンやリチャード・サイアートらを擁する学際性の高いカーネギー・メロン大学の教育を受けた経歴を持っており、その後の研究貢献は社会科学の各分野の壁を貫くものとなっている。このような経験を踏まえた講演会は、出光佐三記念六甲台講堂に集まった教官や学生約350名に対して、開かれた知的態度を持ち研究関心を広げて行く魅力について深い感銘を与えるものとなった。

(3)アジア開発銀行研究所におけるDistinguished Speaker Seminar "Public and Private Bureaucracies: The Transaction CostEconomics Perspective"

 アジア開発銀行の下部組織として、アジア途上諸国の経済発展に関する政策研究と人材育成を担うアジア開発銀行研究所(ADBI)では、官界・実業界・マスコミを中心に約80名の聴衆を得てウイリアムソン教授の講演が行われた。マクロ的にみた長期経済発展には、技術開発や革新を生み出す制度基盤しての(知的)財産権制度が極めて重要であり、その機能の解明にはウイリアムソン教授の取引費用の枠組みが有用である。講演では、非市場的な組織を中心としたウイリアムソン教授の研究枠組みが紹介され、政策分析担当者等に対して有益かつ貴重な視点を与える場となった。

招へい研究者の受入機関に対する寄与
(若手研究者への刺激,受入機関全体の国際化など)

今回のシンポジウムは、開催準備から外国人の経営学研究科大学院生も複数参加、また、シンポジウムには法学研究科の大学院生も参加し、経済学・経営学の教員との学際的な共同作業が実現した。法学や社会学、政治学など社会科学における学際交流は、学内での潜在的機会が十分実現しえていなかったが、高い水準での研究の国際交流かつ異分野交流が実現できたことは教育上も研究上もたいへん有益であった。シンポジウムには、政府機関からの参加者や、遠方からの研究者参加も少なからずあり、国際的・学際的な研究交流機会は、他の研究機関との連携を今後深めるためにも有用であった。

その他

今回のシンポジウムは、開催準備から外国人の経営学研究科大学院生も複数参加、また、シンポジウムには法学研究科の大学院生も参加し、経済学・経営学の教員との学際的な共同作業が実現した。法学や社会学、政治学など社会科学における学際交流は、学内での潜在的機会が十分実現しえていなかったが、高い水準での研究の国際交流かつ異分野交流が実現できたことは教育上も研究上もたいへん有益であった。シンポジウムには、政府機関からの参加者や、遠方からの研究者参加も少なからずあり、国際的・学際的な研究交流機会は、他の研究機関との連携を今後深めるためにも有用であった。
 なお、学習院大学では、2009年に研究支援センターが学長室のもとに設置され、全学的な研究支援体制が強化された。今回のウイリアムソン教授の招へいに対しては、学内では研究支援センターから強力な事務支援が供給され、研究基盤強化の成果が挙がった一例となり、今後さらに発展させる意義と必要性に対して説得力を示すことにもつながった。
 神戸大学大学院法学研究科の齋藤彰教授及びアジア開発銀行研究所の木原隆司総務部長は、スケジュール上で大きな割合を占める調整や随行事務等を負担された。学習院大学経済学部和田哲夫教授とディミトリ・リティシェフ教授の両名は、かつてウイリアムソン教授からPh.D.論文指導を受け、今回2人共同して全体の受入調整にあたった。ウイリアムソン教授の招へいを可能とした独立行政法人日本学術振興会にとりわけ深く謝意を表する次第である。