東北のニュース

宮城と他県に隔たり 東北に医学部新設検討を首相指示

 安倍晋三首相が4日、東北への大学医学部新設を検討するよう下村博文文部科学相に指示したことに対し、東北の自治体関係者は実現に向けた前進を歓迎した。一方、教員確保に伴う医師不足などを懸念する他県や医師会は慎重姿勢を崩さず、村井嘉浩知事が旗を振る宮城県との温度差も浮き彫りになった。
 東日本大震災の津波で市立病院が被災した石巻市の亀山紘市長は「(新設が決まれば)10年後を見据えた明るいニュースになる」と評価した。
 市は市立病院をJR石巻駅前に移転再建し、2016年夏の開院を目指す。「沿岸自治体に医学部を設置すれば、被災地の実情が分かる人材を育成できる」と話した。
 宮城県議会の超党派でつくる医学部新設の推進議連会長の中村功議長は「東北の医師不足の解消を目指し、医学部新設を受け入れる地域の態勢を考えねばならない」と今後の対応を後押しする。
 東北への医学部の新設をめぐり、東北市長会(会長・奥山恵美子仙台市長)は12年6月、震災後の地域医療の充実を国に要望している。
 宮城県以外では、先行きを不安視する自治体が少なくない。岩手県の野原勝医師支援推進室長は「医師確保の効果は認めるが、養成に時間がかかり、現役医師を教員に充てなければならない。地域医療へのダメージが懸念される」と指摘する。
 医学部新設に反対する宮城県医師会の嘉数研二会長は「新設する前に医師の地域偏在を解消する必要がある。医学部で定員を増やしている中、さらなる定員増は屋上屋を架すようなものだ」と批判した。

◎スピーディーに実現を/宮城知事一問一答

 東北への医学部新設をめぐり、村井嘉浩宮城県知事は4日、安倍晋三首相との面談後、首相官邸で取材に応じた。主なやりとりは次の通り。

 −要望に対する安倍首相からの発言は。
 「東北への新設に向けた検討を文科相に指示するとの説明を受けた。東日本大震災後の厳しい被災地の現状が、決断を後押ししたと感じる」
 −被災地・東北の医療現場の現状はどうか。
 「各地で苦労しているのは勤務医の数がかなり不足していること。特に沿岸部は、病院などの建物や設備が復旧しても医師や看護師らが集まらない現実がある。東北全体の自治体病院を支え、総合内科、総合外科のような幅の広い医師の育成を図らねばならない」
 −具体的な立地をどう考えるか。
 「知事の立場として宮城県につくるのが望ましいと考えるが、東北と被災地の医師不足を解消するのが大きな目的だ。構想から地域に医師が輩出されるまで10年、15年の時間は必要になる。スピーディーに検討を進めてほしい」
 −復興特区の活用など具体的な見通しは。
 「検討の推移を見守ることになる。現状では文科省の告示で新設できないことになっているが、大臣がつくると決めれば可能だ。法律改正は必要ない。規制緩和による特区でなくても、実現できると思っている」

◎仙台厚生病院と東北福祉大 「英断ありがたい」

 東北への医学部新設に向け、財団法人厚生会仙台厚生病院(仙台市青葉区)は、東北福祉大(同)との連携を視野に構想を公表し、実現を目指してきた。安倍首相が医学部新設に積極的な姿勢を示したことに、関係者は4日、「英断はありがたい」と喜びを語った。
 2011年1月に医学部設置構想を発表した厚生会の目黒泰一郎理事長は「よくぞここまでたどり着いたという思い。新設反対の声も多い中、首相の英断は非常にありがたい」と述べた。
 医学部新設は1979年の琉球大が最後。2010年末に当時の民主党政権が新設を検討し始めると、日本医師会などは「医師不足は既存医学部の定員増で対応できる」などと一斉に反対した。
 11年3月の東日本大震災で、風向きは大きく変わった。東北の医師不足が顕在化し、「地域医療が復興しないと、住民の流出を避けられない。医学部を求める動きが首長や議員に広がった」と目黒氏は振り返る。
 構想では医学部定員の3割を、卒業後に東北各地の病院に勤める「東北枠」とする。東北薬科大(青葉区)も近く医学部設置を表明するとみられ、二つの構想が比較されることになる。
 目黒氏は「連携先は東北福祉大を最有力候補に複数校との連携も視野に入れている。理念に共感してもらえる大学と新設を目指す」と強調した。
 東北福祉大の渡辺信英学長補佐は「これまでの活動を実らせる時。仙台厚生病院の理念を実現できるよう、積極的に動きたい」と意欲を語った。


2013年10月05日土曜日


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