河北春秋

 岩手県宮古市田老地区にある「たろう観光ホテル」は、東日本大震災の津波が4階まで押し寄せ、1、2階は鉄骨の柱だけになった。今も痛々しい姿でそびえる▼市は昨年春、ホテルを震災遺構として保存する方針を固めた。地元の理解が得られず解体される例も多い中、いち早く決まったのは社長の松本勇毅さん(56)の意向と、住民の後押しがあったからだ

 ▼「津波太郎」の異名もある田老は明治、昭和の三陸津波で壊滅的被害を受けた。松本さんもさんざん聞かされ育ったが、あの時はホテルにとどまった。「恐ろしさは言葉だけでは伝わらない」と思ったという▼岩手県を中心に、青森県八戸市から宮城県気仙沼市まで3県の三陸地域が、地球活動の遺産を見どころとする自然公園「日本ジオパーク」に認定された。津波もその一つで、ホテルは構成資産に含まれる

 ▼松本さんは「万里の長城」に例えられた巨大防潮堤を越え、ホテルに迫る津波を6階客室からビデオ撮影していた。貴重な映像を同じ部屋で公開し、津波の威力を実感してもらっている▼田老を視察に訪れる人は、昨年の倍の毎月約4千人に上る。ジオパーク認定でさらに増えることが期待される。反省も込めて、松本さんが訴えたいことは一つ。「地震があったら逃げる」

2013年10月07日月曜日

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