ほかの魚種の扱い方についても教えてほしいと言ったところ「営業上の秘密です」とはぐらかされてしまった。Eマートが塩分の含まれる冷水で水産物の鮮度を上げたのも、樋口さんのアイデアがきっかけだった。
「私は一番先に包丁のとぎ方から教えます。水産物の管理能力は包丁を扱う基本的な技術にかかっているからです。技術提供も重要かもしれませんが、職人魂を胸に、お客様により良い商品を提供できるよう考えるように言っています」
Eマートのイ・セウ水産物担当バイヤーは「あまりにも細かいし、のべつ幕なしに口を動かしてあれこれ注文するので、(「樋口」ではなく)「うるさい口」というあだ名が付いてしまったようです」と話す。
日本の放射能汚染水流出が最近問題になっていると話すと、樋口さんは「水産物の売り上げが大幅に落ちているので心配です」と言いながらも「私は日本人ですが、はっきり言えるのはEマートで売っている魚は放射能のことを心配せずにいっぱい食べても大丈夫だということ」と答えた。事実、Eマートは8月末から全国3カ所の物流センターで全ての水産物について放射能測定検査をしている。
樋口さんは「韓国で暮らしているうちに食の好みが完全に変わってしまいました。キムチチゲに唐辛子粉を追加で入れたり、うどんを食べる時も(辛みの強い)青陽唐辛子を入れたりするようになりましたね」と笑った。全国の店舗を巡りながら各地の名物料理を食べるのも韓国暮らしの大きな楽しみだという。「一番おいしいと思うのは?」と聞くと、今回のインタビューで初めて、日本語ではなく韓国語で「クァメギ(干した青魚)が最高」と答えた。