日本の伝統的な服でありながら、日常から遠ざかってしまった「着物」。その着物に現代の感覚で取り組む2人の女性がいる。浴衣の季節を機にいま一度、新たな気持ちで着物を見直してみませんか。
スタイリストの大森●佑子(ようこ、●はにんべんに予)(52)が昨年秋に始めたブランド「ドゥーブルメゾン」。「洋服と和服をつなぎたい」と話す通り、洋服のセンスを生かして着られる着物がそろう。
絹の服地に大柄のギンガムチェックをプリント。純白の麻で作った総レース。洋服で培われた大森のセンスは、「かわいいかどうか」を判断基準に、大胆に常識を破っていく。
帯結びが苦手の人には、結ぶだけの「サッシュベルト」を。後ろ姿は「ケープ」「ガウン」と呼ぶはおりものでカバーできる。和装特有のコントラストの強い色合わせは避け、1950年代の洋服風の「全身おそろい」を提案する。
雑誌「オリーブ」(03年休刊)などのスタイリングで知られる大森は、祥伝社のムック「KIMONO姫」を手がけて着物の世界へ。08年のドラマ「おせん」では、アンティーク着物を使った蒼井優のスタイリングが話題になった。
「着崩さない、アイロンはかけるなどマナーを守ればルール通りでなくても大丈夫。合わせ方はその人の自由でいい」と大森。
「戦前の着物はもっと自由だった」と言うのは、提携する着物メーカー「やまと」の矢嶋孝敏会長。戦後、業界は存続のために、高価でフォーマルな着物の路線を推し進めたという。「大森さんの女子力で慣習を壊したい」。浴衣が約3万円、着物は約5万〜10万円が中心だ。
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白と黒をベースに、円と直線だけで構成した幾何学模様。建物の内外装やテキスタイルなど、幅広い分野で活動するアーティスト、高橋理子(ひろこ)(34)の着物には、くっきりと潔く、現代的なデザイン感覚がある。
「ヒロコレッジ」のプロジェクト名で、各地の職人と共に冬は着物、夏は浴衣を制作する。小さな柄が連なる昔ながらの「注染(ちゅうせん)」浴衣と、インクジェットで染色する大柄の絵羽模様の浴衣。東京都台東区のアトリエで、1人ずつ採寸し、職人に頼んで仕立てる。
手間をかけるのは「固定観念をはずし、よりよい世の中を目指す」アート活動の一環として。「数を売ることが目的ではない。ちゃんと話をしてから売りたい。なぜ身近な着物が特別なものになったのか、柄に男女の区別はあるのか。想像力を巡らしてほしい」
洋服デザイナーを目指していたが、東京芸大で勉強中に、生地を無駄にしない和服の構造に魅力を感じ、開眼。伝統的な柄を使うことが多い和装の世界で、「美しいだけでない刺激的な」新柄を生み出し続けている。
8月11日、東北の太平洋沿岸各地で開かれる花火大会「ライトアップニッポン」に協力している。浴衣(税込み5万2500円)を買うと、1着につき1万円が大会に寄付され、そのお金で高橋がデザインした花火が上がる。
■白・淡色が流行
東京・銀座の百貨店によると、今年は地色が白や淡色で、昔ながらの柄が流行しているという。プランタン銀座は約500着がそろう「ゆかたブティック」を開催中。帯締めを加える程度のすがすがしい着こなしが今年らしいという。柄はトンボや葵(あおい)の葉などの伝統柄。麻素材の帯も薦める。浴衣で1万〜4万円、帯は5千〜1万5千円が中心。
松屋銀座の浴衣の売り上げは昨年より25%伸びている。「昨年は震災で花火大会の中止が相次いだ。今年こそ着たい人が多いのでは」と担当者。白地の浴衣にはくだけた印象があるが、素材で上質さが出せるという。横糸を抜いて透ける「綿絽(めんろ)」、格子状の凹凸がある「綿紅梅(めんこうばい)」は涼しげで大人の雰囲気になる。(安部美香子)
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「ドゥーブルメゾン」 詳細・販売は公式サイト(http://www.doublemaison.com/)または「やまと」(0120・188880)へ。
「ヒロコレッジ」 詳細はサイト(http://takahashihiroko.com/)、問い合わせはアトリエ(03・6240・1327)へ。