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断ち切れるか“反社”との取引

10月2日 20時30分

吉武洋輔記者

「“反社会的勢力”との取り引きが存在する」。
先月27日の夕方、金融庁は、大手銀行の「みずほ銀行」が、信販会社を通じた提携ローンで、暴力団員などの反社会的勢力に230件、総額およそ2億円を融資していたとして、業務改善命令を出したと発表しました。
銀行業界では過去に、みずほ銀行の前身の旧・第一勧業銀行が、総会屋への不正な利益提供で元役員らが有罪判決を受けるなど、“反社”=反社会的勢力との関係がたびたび問題化してきました。
業界を挙げて暴力団などとの関係を根絶する取り組みを進めていただけに、どうしてまた“反社”と…。
そう思った人も多かったのではないでしょうか。
なぜ、今回の問題が起きたのか。
経済部の吉武洋輔記者が解説します。

融資審査の盲点

みずほ銀行は、なぜ“反社”への融資を未然に防ぐことができなかったのでしょうか。
最大の原因は、融資の前に行う審査にありました。
今回、問題となった提携ローンは、自動車やオートバイ、それに家電製品などを分割払いで購入する手段として広く普及しています。
信販会社が融資の申し込みを受けて事前の審査を行い、実際の資金は銀行が貸し付ける仕組みです。
みずほ銀行では、この事前の審査を信販会社に完全に任せる形をとっていました。

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しかし、信販会社が持つ“反社”に関するデータは銀行に比べて精度が低いため、融資を実行したあとになって、銀行が自前のデータで改めて調べたところ、初めて融資先が“反社”であることが明らかになったというわけです。
信販会社を通じた提携ローンを扱っているのは、みずほ銀行だけではありません。
金融庁では、提携ローンを取り扱うほかの銀行や保険会社で同じような問題がないかどうか、調査を進める方針です。
反社会的勢力かどうかを見抜くための情報量は、金融機関によって差があります。
また、反社会的勢力に人の“出入り”があることから、常に最新の情報を更新し続けることは困難で、こうした融資を完全に食い止めることは難しいでしょう。
しかし、できるだけ審査のレベルを上げるとともに、誤って暴力団員などに融資していたことが発覚した場合には速やかに取り引きを打ち切るなど、根絶に向けた不断の努力が求められます。

放置された2年間

不可解なのは、金融庁が検査で指摘するまで、なぜ、みずほ銀行はこの問題を放置していたのかです。
金融庁が今回、業務改善命令を出し、厳しく対応を迫ったのは、暴力団員に融資をしていたという事実だけでなく、平成22年12月にこの問題を行内で把握したあとも2年以上にわたって、対象者との取引を解消しなかったことを重くみたからです。

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銀行として審査の在り方を抜本的に変えなかったため、結果的に、別の暴力団員とも新たな融資契約を結んでいたことも金融庁の検査で明らかになっています。
長期にわたって問題が放置された背景には、情報を知ったみずほ銀行の法令順守=コンプライアンス担当の役員が、行内で情報を共有せず、独断で対応を決めていたことがあると金融庁は指摘しています。
なぜ担当役員が、このような重大な情報を経営陣に上げなかったのか。
みずほ銀行は、担当役員へのヒアリング結果をきちんと明らかにしていませんが、組織としての情報共有の態勢にも問題があったことは確かです。
ある大手金融機関の首脳に今回の問題について尋ねたところ、「“反社”、マネーロンダリング、インサイダーの3点は、金融機関にとって最も重大な法令順守違反になりかねない。行内で情報が共有されないのは考えられない」と、半ばあきれるように話していました。
つまるところ、事態が放置された最大の要因は、“反社”との取り引きが存在することがいかに金融機関にとって危ういことかという認識の甘さに尽きると思います。

今度こそ断ち切れるか

再発防止へ向けて、みずほ銀行は、佐藤康博頭取をトップとする委員会を設けて、原因の詳しい調査と社内処分の検討を進めています。

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また再発防止策の1つとして、来月をメドに、グループの信販会社「オリエントコーポレーション」に銀行が持つ“反社”のデータを提供して、審査を厳しくすることを決めました。
しかし、今回の問題で浮き彫りになったのは、法令違反に対する認識の甘さ、そして組織内の情報連携のぜい弱さです。
こうした面は、大きな組織であればあるほど改革を進めることは簡単ではありませんが、今こそ取り組まなければいけません。

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みずほ銀行は、ことし7月、持ち株会社の傘下にあった2つの銀行を合併し、新たな組織になりました。
掲げた経営理念は「お客様から最も信頼される会社」。
ただのスローガンに終わらせず、抜本的な改善を図ることができるかどうか、社会の厳しい目が注がれています。