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  エデン 作者:川津 流一
24.襲撃戦
 鬱蒼と生い茂る木々。密集する木の葉によって空は覆われ、星明りも地上まで届かない。今が夜明け前だということを考えると、周囲はほぼ闇に包まれ足元も覚束無いだろう。
 だが、今の俺の視界には周囲の様子がはっきりと映っていた。先刻パーティメンバーの魔術によって【暗視】の効果を付与されたからだ。

 【暗視】の魔術は高階位に属する為、取得は難しいものの人気は高い。効果時間は【ライティング】に比べるとかなり短いというデメリットがあるが、闇を気にせず行動できるというのは非常に大きなメリットだ。特に今回のような夜間の奇襲作戦では、【ライティング】や松明等を使用してしまうとこちらの存在に気付かれ、奇襲効果は薄れてしまう為【暗視】は必須の能力となる。
 といっても、俺には【心眼】があるので【暗視】を付与されなくても周囲を視認できるのだが流石に自分の手の内を全て晒すつもりはないので黙っている。

 時折遠くから響くのは、モンスターか動物の遠吠えだろうか。
 コーウェルの森はダラスから比較的近い事もあってそれほど高ランクのエリアではない。出現するモンスターは動物系のモンスターが殆どで出現率もあまり高くない。その上、モンスターの多くは作戦に参加しているプレイヤー達にとっては取るに足らない相手だ。ただ、時折現れる熊のモンスター『ブラッディベア』は攻撃力が高い為に多少注意が必要だろう。
 俺も幾度か訪れた事はあるのだが、モンスターは疎らで修練にならず旨みもないので早々に退散した記憶がある。
 モンスターの出現率は高くないとはいっても、今は作戦進行の邪魔となる為に一部の隠密系スキルを習得したプレイヤー達が間引きをしているはずだった。この場に来るまで殆どモンスターとの遭遇がなかった事が彼らの仕事振りを証明している。
 そして俺は今、目標を視界に納め茂みに伏せていた。
 チラリと周囲に視線を飛ばせば、俺と同様に茂みに隠れ伏せているいくつもの影。それに鎧の擦れる微かな金属音。
 ヴァリトール山と違い、コーウェルの森では背の高い草木が群生しているのでこうして茂みの影に楽々と身を隠せる。もっとも、こうした天然の要害が強盗プレイヤー達の拠点を覆い隠していたのだが。

 夜明け前の朝靄が漂う中、俺は視線を前方へと戻す。 
 こちらの存在が敵方に察知されるのを警戒し、熟練者の【気配察知】による索敵可能距離から僅かに外れた位置……そこには廃墟に偽装された集落と閉ざされた門らしきものがあった。
 話によるとあれが強盗プレイヤーの拠点とその入口らしい。想像していたものよりも大きな拠点だ。『エデン』ではプレイヤーの手によって武器や防具は勿論の事、家具や建材、そして家屋に至るまで作り出す事が出来る。レイジの説明によると生産系プレイヤーも少なくない人数が捕われているとの事なので、あの拠点はそういったプレイヤー達を利用して建設したのだろう。
 それにしても、この規模の拠点を建設しておいてよく今までばれなかったものだと感心してしまう。いくらコーウェルの森が不人気とはいっても始まりの街ダラスからの距離はそれほど遠くないのでプレイヤーの侵入が皆無という事はないだろうし、森の奥でこんな建造物を発見してしまえば噂にもなるはずだ。
 だが、ゲイス達が口を割るまでその存在は秘匿されてきた。
 そうすると強盗プレイヤー達はこの森にしっかりとした警戒網を敷き、侵入者に対処してきたと考えられる。だが今、俺達は彼らの拠点を目視できる位置まで歩を進めているというのに彼らの拠点からは警戒の様子は窺えない。先行部隊が上手く警戒網を無力化したのか、流石にこんな時間帯にこんな場所へ来る様なプレイヤーはいないと高をくくっているのか……それとも襲撃情報が事前にリークされ、罠を張っているのか。

 己の想像が微かな不安を掻き立てる。しかし、情報漏れの可能性などトップギルド達は百も承知だろう。いくら緘口令を敷いたとしても完全に情報を遮断するのは難しい。加えて裏切り者が身内にいるかもしれないとすれば尚更だ。
 ジークやヤクモを含めた『ブラッククロス』、『シルバーナイツ』の中でも特に高ランクのプレイヤー達の大半が入口の前方に配置されている事を考えると、トップギルドのメンバー達はどうやら真正面から奇襲をかけて叩き潰すつもりのようだ。
 リン達の話によると、幾人か強盗プレイヤー側にも注意すべき高ランクプレイヤーはいるようだが、全体的な質となるとこちらのギルド連合には遠く及ばないそうだ。たとえ罠があったとしても、下手な小細工をするより純粋な地力の差で押し潰してしまう方が楽かもしれない。

 これからプレイヤー相手の殺し合いが始まるというのに俺の心は酷く落ち着いていた。
 むしろそんな自分の心境にこそ困惑する。
 レオン達との戦闘で耐性がついたのだろうか。それとも、俺の行動を認めてくれた姐さんのおかげだろうか。
 プレイヤーを……人を斬り殺す事に全く気負いを感じない。レオン達との戦闘で薄々感じてはいたが、自分が『敵』に対しこれほど冷徹でいられるという事実を改めて自覚して苦笑する。
 だが緊張と不安で遅れを取るよりは余程マシだ。今は己の性根に感謝する。

 そんな事を考えていると横手から軽く突かれる感触。
 振り向けばハヤトがこちらを見ていた。

「おい。これからの流れは頭に入ってるな?」

 俺は茂みが揺れないように軽く頷き、返答する。

「『ブラッククロス』による入口制圧の援護。その後、拠点に潜入。内部で班別に散開し、外周の建物から順次捜索して人質を保護する。敵大部隊を発見した場合は撤退して情報の伝達、可能なら他班と合流して対処する」

「……判ってるなら良い。お前はとりあえず後方で自分の身と後衛を守る事に専念しろよ。前衛は俺達がやる。俺達の連携を知らないお前じゃ邪魔になるからな」

 ハヤト達のパーティ構成は前衛二人、後衛四人の六人パーティだ。前衛は二刀流のハヤトと盾剣士が一人。後衛は魔術士三人に弓術士が一人という内訳で、恐らく前衛で敵を食い止めている間に後衛の高火力で一気に勝負をつけるというスタイルなのだろう。
 ハヤトの言う通り、彼らの動きを知らない俺が前衛で動き回ると後衛からの射線を塞いでしまって邪魔になるのが目に見えている。そうなるとせっかくの高火力が生かせない。彼の指示はまず的を得たものと考えて良いだろう。
 俺は再び頷き、ハヤトに了承の意を伝える。
 彼は俺の様子をしばらく眺めると小さく鼻を鳴らし、ゆっくりと離れていった。

 ギルド集会の場でのハヤトの様子から何かしら妨害か嫌がらせでも受けるかと思っていたが、意外にもその類の事は全くなかった。むしろ言い方こそぶっきら棒だが、必要な説明や確認は今のようにしっかりとやってくれるのだ。
 『シルバーナイツ』に不和を生じさせてしまったかとリン達の頼みを二つ返事で引き受けた事に若干後悔しつつあっただけに、ハヤトからの待遇には驚きと興味が湧く俺がいた。
 一体彼は何を考えているのか……俺がそんな事を考えていると、ハヤト側とは別方向から一人のプレイヤーが静かに此方へと這い寄って来るのに気付く。
 視線を送れば、そのプレイヤーはパーティメンバーの弓術士だった。確か名前はギン。
 彼は俺と視線が合うとニカッと真っ白な歯を覗かせて笑う。人見知りのない無邪気な笑顔に俺も思わず軽く笑みを浮かべた。

「よお、うちのリーダーがきつく当たっちまってわりぃな」

 困ったような笑顔を浮かべながらギンがボソボソと小声で囁く。その内容に俺は若干驚いた。どうやらわざわざフォローに来たらしい。

「俺の立場を考えると彼の気持ちもわかるから気にしてないさ。『シルバーナイツ』みたいな大御所に俺みたいな奴が急接近したら警戒もするだろう。……今回は事情が事情なだけに特にね」

 そう答えると、ギンはあからさまにホッとした表情を浮かべた。

「あ~、そう言ってくれるとマジ助かるよ。……ほら、うちのメンツって皆男だろ? 実は同じ男子校のダチなんだわ。皆女に慣れてないせいか、美人に弱くてさぁ。リンさん、ミーナさんには特にメロメロだったわけよ。そういう奴は他にも結構いて『銀騎士』の男メンツの間じゃあの二人に関して抜け駆け禁止の紳士協定が結ばれてるくらいなんだわ」

「……結果的に俺がそれを無視して彼女達に近付いてしまったというわけか」

「いやまぁ、そんな協定なんぞ俺らが勝手にやってるだけのもんだし気にしなくていいさ。大体半分ノリだし、本気で狙う度胸もないし。他のメンツもそこまで気にしてないさ。だけど、うちのリーダーはのめり込みやすいから暴走しちまってなぁ。あれさえなけりゃ良い奴なんだぜ、あいつ」

 やれやれと溜息をつく彼に俺は乾いた笑いを返す。半分ノリという割に、あの場での周囲からの視線には随分と殺気じみたプレッシャーが込められていた気がしたのは気のせいだろうか。

「あ、でもリア充死ねとは思ってるから覚えとけよ」

 そう言って凄んでくるギンに、おいおいと思わず俺は苦笑する。
 何だかこういうやり取りをブラート以外の誰かとするのも酷く久しぶりな気がして新鮮な気持ちだ。
 ……友達が少ないなんてことはない。きっとない。

「まぁ冗談はこれくらいにするか。……俺はお前の事信用してるから今日は頼りにしてるんだぜ。レオンの野郎をぶっ倒したのなら実力は十分過ぎるし、ミラさんもお前の事一目置いてるみたいだからな」

 『シルバーナイツ』のサブマスターが俺を? 幼い顔つきながら裏切り者を酷薄に見下していた先日の様子が思い出される。
 一体俺の何が彼の琴線に触れたのかはわからないが、味方をしてくれるのは正直助かる。おかげでこうしてギンも気楽に接してきてくれる事だし。

「……過度に期待されても困るが、せいぜい皆の足を引っ張らないように頑張るよ」

 俺の返答を聞いたギンは「十分だ」とニヤリと笑いながら短く答え、離れていく。
 流石にこれから一時とはいえ背中を預けるパーティメンバーと険悪なままではよろしくないと思っていたところだったが、ギンからの情報は俺の中の不安をある程度拭い去ってくれた。
 後は敵の出方がどうなるか……時間的にもうそろそろ作戦開始の頃のはずだ。



『お前ら聞こえるか? 間もなく作戦を開始する』

 まるで頭の中で囁かれたかのようなクリアな音声。この声はギルド集会の時に聞いた。『ブラッククロス』マスターのジークだろう。しかし、周りをそっと見渡しても近辺には彼らしきプレイヤーの姿は見受けられない。
 これが【伝声】の魔術か。初めて体験する状況に僅かに好奇心が芽生えた。

 【伝声】の魔術はその名の通り、離れた場所―――といってもせいぜい同じ街の中やダンジョンの同階層程度だが―――にいるプレイヤーに音声を届ける【風】属性の魔術だ。比較的階位の低い魔術である為、習得は容易だがその伝達範囲と対象人数は熟練度で大きく変わる。【暗視】の魔術と並んで今回のような作戦では重宝する魔術だ。
 しかし本来は少人数を対象にする魔術。今回のようなギルド連合規模で使うとは流石『ブラッククロス』と言うべきか。『ブラッククロス』に所属している魔術士ならばかなりの高ランクプレイヤーだろうが、流石に今回のギルド連合規模は一人で対処するには手に余るはず。
 恐らくは『ブラッククロス』お得意の部隊編成による【風】属性魔術士部隊が、分担して【伝声】を行っているのだろう。


『これからデカい狼煙を上げる。それが攻撃開始の合図だ。先鋒はうちの一番隊が務める。各隊は一番隊を援護しつつ距離を詰めろ。……ヤクモ、出番だ』

 声が途切れ、しばし静寂が訪れる。
 微かに聞こえていた葉擦れの音も完全に消え失せ、ピンと張りつめるような雰囲気が周囲を満たしていた。否応なく俺の意識も集中力を増していく。
 先程の話からすると、間もなく『狼煙』とやらが上がるはずだが……っ!?

 突如暗闇の森の中を場違いな青い閃光が照らす。遅れて届くバチバチと大気が弾ける音と、焼け付く匂い。
 ハッとして光と音の出所へ視線を向けると、やや離れた中空に激しい紫電を纏う巨大な光球が浮かんでいた。
 突然の輝きを直視して目を細める俺だったが、見つめる先で光球は大きく歪み瞬く間に姿を変えていく。どうやら何か生物の姿のようだが……。

 あれは……竜か?

 中空にとぐろを巻くように細長い胴体を揺らめかせ、牙を剥く光り輝く竜。周囲には絶えず紫電が這い回り、弾ける音はまるで竜の唸り声を思わせた。
 竜を模した巨大な雷光の塊。その規模、迫力から明らかに高階位の大魔術だろう。
 そして輝く竜の真下には長大な杖を頭上に掲げる術者たる男―――ヤクモの姿が見える。その手に握る杖は魔術士の杖としては装飾が少なく無骨な一品。銀色に輝く表面に蔦のような飾りが絡まり、両端には小さな宝石で彩られた石突が付いている。その見た目から杖というよりは棍と表現できるかもしれない。
 ジークの『轟剣グラムスレイブ』ほど有名ではないが、あれもれっきとしたSランクユニークアイテムだったはず。
 稲妻の化身たる雷竜を従えたヤクモが大きく杖を振りかぶった。雷光に照らされたメガネの反射でその眼差しは窺い知れず、表情も無い。
 彼はそのまま勢いよく杖を振り下ろし、ピタリと目標―――敵拠点入口を指す。


 その瞬間、強烈な閃光と共に雷竜が空間を奔った。


 目に焼き付くような稲光の光芒を残し、破壊の顎が拠点入口門に喰らい付く。弾け飛ぶ雷光と建材。一瞬、小さな太陽が出現したような輝きが周囲を照らす。

 そこまで認識した所で無音の世界に突如冗談のような轟音が響いた。
 数百枚の硝子を同時に叩き割ったかのような不快な高音と、腹に響く爆発音。
 爆圧が周囲に押し寄せ、俺も含めた待機中のプレイヤー達が思わず腕や盾を前面にかざして顔面を保護する。
 カツン、カツンと飛礫が鎧に当たる音を聞きながら、前方を見れば門は跡形もなく吹き飛び、その周囲は小さなクレーターとなっていた。これでは罠があったとしても、罠ごと消し飛んだに違いない。
 見通しの良くなった入口から、奥の集落で次々と明かりが灯るのが見て取れた。先程の閃光と轟音で流石に敵勢力も異常に気付いたようだ。

「うぉぉ、マスターの【破天の霹靂】か! 久しぶりに見たけど、相変わらずとんでもない威力だよな」

 周囲で誰かが呟く声が聞こえる。
 先程の魔術は【破天の霹靂】というらしい。
 果たしてこれがヤクモの『ユピテル流魔術』におけるどの階位に相当する魔術かはわからないが、ヴァリトールのブレス攻撃にも劣らない強力な魔術攻撃だ。
 そしてやはり【雷】属性の特性通り、攻撃の開始から着弾までが全く認識できなかった。見えたのは目に焼き付いた稲光の軌跡のみ。
 この威力にあの速度。真に【雷】属性魔術を使いこなしているのならばヤクモを最強プレイヤーの一角とするのも頷ける話だ。

 俺が【雷】属性魔術の凄さに感服してる所でまたも頭の中に声が響いた。


『さぁ、狼煙は上がった! 歌え! 叫べ! 一番隊、俺に続けっ!!』


 叫び声と同時に森の縁から砲弾のように飛び出す一人の大柄なプレイヤー。その肩に担ぐ抜身の大剣は『轟剣グラムスレイブ』。
 ヤクモと並ぶもう一人の『エデン』最強プレイヤー、ジークが先陣を切る。彼に続くように次々と森からプレイヤー達が飛び出した。
 彼らは一様に大剣を肩に担ぎ、瞬く間にジークを先頭とした鋒矢陣形を整える。恐ろしい程に整ったその動きはもはや敵陣に向かって放たれた本物の矢のように見えた。

 と、そこで戦場には場違いな音が俺の耳に入る。
 これは……。

「歌?」

 思わず呟く俺。
 暗く静かだった森に朗々たる歌声が響いていた。それも一人ではない。時を経るごとに次々と声が重なり、やがて大合唱が森の空気を震わせた。
 同時に俺は身体の変調を感じていた。自然と気分が高揚し、身体が軽くなる。

「『ブラッククロス』9番隊の大規模【歌唱詠唱】だ。曲目は確か【雄々しき勇者】。効果は精神高揚にステ向上ってところだな。こういうレイド戦だと戦場が分散するから助かるんだよね」

 俺の呟きを聞いていたのか、再び近くまで寄ってきていたギンが説明してくれた。

「これが【歌唱詠唱】か。初めて体験したよ」

「ん? あぁ、そうか。ずっとソロだって話だもんな。パーティ組んでないと【歌唱詠唱】は経験できないよな」

 ギンの憐みを帯びた視線が痛い。


 【歌唱詠唱】は『バラッド流魔術』特有のスキルだ。
 『詠唱式』の魔術の中で唯一『紋章式』魔術の【刻紋】に並ぶ長時間の魔術効果発現を可能としている。
 といっても一度発動させれば後は放置できる他の魔術と違って、【歌唱詠唱】では魔術歌と呼ばれるものを歌い続けていなければならず、その間は他の魔術を使えない。
 だが、それを踏まえても大きなメリットがある。
 それは効果範囲と発動速度だ。
 媒介が声である為に『紋章式』と違って効果範囲が固定されず、術者を中心とした円状となる。そして、歌い始めれば即時に効果が発現される。
 おかげで戦場が広がりがちな大規模パーティでは援護のエキスパートとして【歌唱詠唱】の使い手はかなり重宝されると聞いた。

 『ブラッククロス』にはそんな【歌唱詠唱】の使い手達をまとめた隊もあるようだ。

「と、あんま無駄口も叩いてられないな。始まるぞ」

 ギンの声に前線へと目を向けると、先陣を切ったジーク達が拠点入口に到達しようとしていた。

 敵拠点からは慌てたように武器を携え、飛び出してくる幾人ものプレイヤーの姿。武器を持ってここに来るという事は強盗プレイヤーの一味なのだろう。それに監禁しているプレイヤー達を逃げ出しやすい入口付近に置くとは考え難い。
 彼らは飛び出したものの巨大な矢として目前に迫る一番隊のプレイヤー集団と、先頭で『轟剣グラムスレイブ』を振りかぶるジークの姿を目にして驚いたように身体を硬直させる。

 ジークはそんなプレイヤー達へと無慈悲に攻撃を開始した。

 掲げる『轟剣グラムスレイブ』の剣身の周囲が光を吸い込むように歪む。と、同時にジークの身体から青白い炎に似た何かが吹き出し剣身に灯る。
 Sランクユニークアイテムの特性とレアアビリティ【闘気】の特性。『エデン』屈指の特殊攻撃が『アレクト流剣術』の達人の腕で振るわれた。

 ゴウッ!!

 噂に違わず、離れたここまで聞こえる轟きと共に放たれた横薙ぎの斬撃。
 強盗プレイヤー達はかろうじて防御をするも『轟剣グラムスレイブ』の刃を受けた途端、特殊攻撃の効果範囲に触れてしまった頭部や足が切り刻まれる。
 宙に舞う血飛沫と悲鳴。
 ジークは構わず大剣を振り切り、強盗プレイヤー達を文字通り木端の如く蹴散らした。
 一振りで数人のプレイヤーを絶命させたジークの所業に、目を丸くする残りの強盗プレイヤー達。そんな彼らへと一番隊のプレイヤー達が津波の如く襲い掛かる。

 阿鼻叫喚は一瞬だった。

 あっという間に敵の第一陣を蹴散らしたジーク達は陣形を広げ、拠点入口を制圧する。そこへ次々と乗り込む後続のパーティ達。
 敵の第二陣が現れるも乗り込んだ後衛集団からの遠距離攻撃で一気に削られ、ジーク達によって殲滅される。
 その鮮やかな手並みと連携に思わず俺の喉がゴクリと鳴った。

 これがトップギルドか。……だが敵のあの慌て様、この襲撃は予期されてなかったようだが本当に油断していただけなのか?

「流石ジークさん達だな! おい、俺達もそろそろ出るぞ! 遅れるなよ」

 俺達に声をかけたハヤトが森から飛び出した。それに連れられ他のパーティメンバー達も次々と後を追った。
 俺も慌てて走り出すが、一抹の不安が胸の内で燻る。

 だがもう襲撃は始まってしまった。後は俺のやれる事をやるしかない。

 覚悟を決め、俺は戦場を目指した。


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