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  エデン 作者:川津 流一
13.仲間達
 あれから、周囲を探索し野宿に適した広場を発見した俺達は焚き火を起こして食事の準備を始めた。

 広場の中心で燃える焚き火には鍋がくべられて、中から香ばしい香りが漂ってきている。激闘を潜り抜けて心身共に疲労していた俺はしきりに生唾を飲み込んでは、リンやミーナに笑われていた。
 鍋の中身は干し肉と数種類の香草、そして僅かな調味料を加えたスープだ。

 『エデン』内の様々なアイテムには耐久度というものが設定されているが、その中でも食材系アイテムは時間と共に耐久度が減少する。料理屋等を営むプレイヤー達は自分の店に長期保存用の専用設備を備え付けており、その中に保管したアイテムは耐久度の減りが遅い。
 だが、今回のような街から出てフィールドを長時間歩くようになると、食事の為に干し肉等の特別耐久度の減りが遅い食材系アイテムを持ち運ぶ必要がある。

 もちろん現在俺が所持している『巨龍の肉』も耐久度がどんどん減っているだろうが、アイテムランクが高いアイテムは総じて耐久度も高くなる。ユニークモンスターのドロップアイテムともなると相当なアイテムランクだろうから一週間程持ち歩いたとしても全く問題無いだろう。
 だとすれば高ランクの食材系アイテムを持ち歩けば良いともなるが、それも難しい。というのも、高ランクの食材系アイテムを調理できるのは調理術の師事者のみなのだ。それ以外の者が調理しても酷い料理が出来上がるだけとなる。そして調理術の師事者が戦闘系パーティに加わることは殆ど無い。

 一説では華麗な包丁捌きで調理はおろか戦闘すらこなし、ダンジョンの最奥で極上の料理を提供する露店を開く戦闘系調理術の使い手がいるとの話を聞いたことがあるが、その真偽は定かではない。

 そういうわけで、一般的には調理術の師事者ではなくても調理可能な程アイテムランクが低く、長期所持可能な食材系アイテムを持って旅に出ることになる。


 今晩の料理当番はレオンのようで、鍋に食材を放り込んだ後に時折覗いては掻き混ぜている。当初懸念したレオンからの干渉だが、最初にリンに注意されて以来全くなかった。というより、俺が存在しないものとして無視しているようだ。
 今も鍋を掻き混ぜた後は、焚き火を挟んで向かい側にいるレオンとつるんでいるメンバー達と談笑している。
 あれだけ俺を敵視していたレオンの意外な引き際に若干拍子抜けしていたりするが、俺としては揉め事が起きて場が乱れるよりかはずっと良いと思って気にしないことにしていた。


 リンとミーナは広場の隅で何事か作業をしている。【心眼】を介して見れば、ミーナが水晶のような材質で作られた細い杖の先を地面に突き立てて何かを描いており、リンはそれをじっと見届けていた。
 先日、ミーナが『紋章式』の魔術士だと言っていたので恐らく今やっているのは【結界魔術】だろう。

 【結界魔術】とは、指定した領域内に様々な効果を生み出す補助系魔術の一種だ。その起動方法、効果は流派毎で様々なものがある。だが一般的に【結界魔術】というと、とある効果を持つ『紋章式』の魔術の事を指す。
 すなわち領域に対する認識遮断、侵入に対する物理抵抗を備えた所謂安全地帯を生み出す魔術の事だ。
 そしてなぜ『紋章式』の魔術に限定されるかというと、『紋章式』魔術特有のあるスキルに起因する。
 『紋章式』の魔術はある程度ランクが上がると、【刻紋】というスキルを覚えるようになるのだ。
 文字通り何か物質に『紋章式』魔術の紋章を刻むことが可能になるスキルであり、それによるメリットは効果時間及び効果範囲の増大。

 【刻紋】が発見された当初、紙等に【刻紋】して魔術士ではない者でも魔術が使えないかいろいろと試された。だが、結果として刻まれた紋章は刻んだ本人しか起動出来ず、さらに紋章も刻んでから時間を経ることで魔術が起動できなくなる事が判明する。【刻紋】については様々な研究がされているのでいずれそういったアイテムが作られるかもしれないが、現時点では成功例を聞いたことはない。

 その【刻紋】の影響を最も受けるのが【結界魔術】というわけである。高レベルのパーティに必ず一人は『紋章式』の魔術士がいるのはこれが理由だ。
 ただ、『詠唱式』の魔術でも『バラッド流魔術』の習得者は【歌唱詠唱】という特有のスキルを使用することで長時間の効果発現を可能にしていると聞く。



 こうしてレオン達は勿論リンとミーナも俺から離れている為、必然的に残るもう一人の男、名はキースというらしい、と俺は話し込むことになった。

「俺に感謝しろよ~? あのままだったら確実にダラスで笑い者になってたぜ」

 ガハハと笑いながら俺の肩を叩くキース。懐の大きさを感じさせる話していて気持ちの良い男だ。俺が始まりの街ダラスの笑い者、『バルド流剣術』の『師範代』だと知っても態度を変えることはなく、「ガッツのある男は好きだぜ」とウィンクをしてみせた。それを見た瞬間、何故か背筋に悪寒が走った気がするがきっと気のせいだろう。

「本当にありがとうございます。どうしようか途方にくれてたんですよね。服はおろか剣まで貰えるなんて……帰ったら新品をお返しします」

 そう、俺はもう先程のようなみすぼらしい格好をしていなかった。一般的な布の服。街中での普段着として愛用される一品であり、キースが所持していた物だ。勿論、キース自身普段着用に所持していたのだが、俺のあまりに酷い格好を見て快くアイテムカードを差し出してくれた。防御力等は全く期待できないが、先程までの格好に比べれば十分マシだと言える。

「新品だなんていいってことよ。お前アイテムカードほとんど失って無一文なんだろ? 服なんて大した値段しないし、剣だってこの辺の雑魚のドロップだからな。お前の生還祝いってことで貰っとけや」

「……そういうことでしたら頂きます。ありがとうございます」

 剣はこの周辺によく出没するモンスターゴブリンのドロップアイテムだ。『ブロンズロングソード』という名のこの剣は、見ての通り俺のかつての愛剣『スチールロングソード』の下位ランクアイテム。強化も何もされてないので武器としては最低ランクだが、無手でいるよりは良い。
 この周辺のモンスターには脅威がないとはいえ、リン達に持ち込まれた情報にある強盗プレイヤーがいつ出てくるかわからない。
 準備はしておくに越したことは無かった。

「それにしてもドラゴンに襲われたって言ってたが、どのドラゴンだ? レッサードラゴンか?」

「いえ、あれはレッドドラゴンでしたね。あいつの咆哮とブレス攻撃には肝が冷えましたよ」

 ヴァリトールと戦う直前にレッドドラゴンと戦っていたのは事実なのでそう告げるが、キースの顔に驚愕の表情が浮かぶ。

「レッドドラゴンだと!? お前よく生き延びれたな! 以前『シルバーナイツ』の精鋭で狩りに行ったことがあるが、一匹倒すのに何人も重傷者が出たぞ」

 興奮するキースに、予想外の反応をされて焦る俺。

 『シルバーナイツ』の精鋭が何人も重傷者を出す? そこまでレッドドラゴンは強かったか?

 ブースト系アイテムを使用していたとはいえ俺一人ですら無傷で優勢に戦い、あわや止めをという所までいったのだ。
 トップギルド『シルバーナイツ』の精鋭がそこまで梃子摺るとはとても思えなかった。
 ……もしかしたらレッドドラゴンの中でも個体毎で強さが違うのかもしれない。
 キースの発言に戸惑いながら、ごまかす為に慌てて口を開く。

「戦おうなんて考えずに逃げに徹しましたからね。おかげでアイテム全て失っちゃいましたけど」

「……確かに最初から逃げに徹すれば逃げ切れるかもしれんな。実際お前を見つけたときはボロボロだったし」

 うんうんと無精髭の生えた顎をさすりながら頷くキース。なんとか納得はしてもらえたようだ。
 ホッと安堵してる所で俺達に近づく足音。
 視線を向ければリンがこちらへ向かってきていた。

「随分仲良くなったのだな」

 微笑みながらそう口にしたリンは、俺達に傍に座る。銀色の鎧が擦れてガシャリと音をたてた。通常鎧の脱着には時間がかかる為、フィールド上やダンジョン内では例え野宿や休憩中であっても鎧を脱ぐことはない。

「ああ、お嬢か。こいつ中々面白い男だぜ。そっちは【サンクチュアリ】の設置終わったのか?」

「ついさっき【刻紋】が終わった所さ。今最後の仕上げをやってるよ」

 【サンクチュアリ】というのが『カイン流魔術』の【結界魔術】らしい。ミーナへと視線を向けると、空中に杖先で輝く紋章を描いている所だった。
 少しの間をおいて完成する『紋章』。同時に広場の周囲八箇所で輝きが生まれる。【心眼】視界では今ミーナが書き終えた『紋章』と同じ物が周囲で輝いているのが見て取れた。
 そして、『紋章』が一際大きく輝くと周囲に刻まれた『紋章』を結ぶようにオーロラのような薄い光のヴェールが現れる。

 その幻想的な光景に見とれて間抜け面を晒していたのだろう。リンが笑いながら俺に声をかけてきた。

「【サンクチュアリ】を見るのは初めてかな?」

「ええ。綺麗なものですね……」

「【サンクチュアリ】は数ある【結界魔術】の中でも一、二位を争う美しさと聞くからね。私も初めて見たときは思わず見とれてしまったものさ」

 切れ長の瞳を細めて光のヴェールを眺めるリン。
 そんなリンの横顔を眺めていると急に影が差す。

「【サンクチュアリ】はただ綺麗なだけじゃないわよ」

 いつの間にかミーナがリンの脇に立っていた。狩猟服のような動きやすそうな服に身を包み、片手には先程【刻紋】を行っていた杖を握っている。

「ミーナ、お疲れ様」

「ありがとう、リン。……【サンクチュアリ】は【結界魔術】としての基本性能の高さは元より、領域内では回復速度が速くなるし、回復アイテムなんかの効果も大きくなるのよ」

 小柄な身体で精一杯胸を張っているのが可愛らしい。俺がなるほどと神妙に頷くと満足したのか、リンと俺の間に座った。
 だが座るのも束の間、大きな瞳をクリクリと動かして俺の顔を覗き込んでくる。

「でも、確かに【サンクチュアリ】は綺麗だけどあそこまで見とれる人は珍しいわね。もしかして【結界魔術】見たことないとか?」

「……その通りです。パーティ組んだことなんて初期に数回のみですから。『バルド流剣術』師事者だってわかると皆パーティ組むの嫌がりますからね~」

 参ったとばかりに頭に手をやり笑う俺を見て、無言のリン達三人。

 場が重くならないように明るく返したつもりだったが……滑ったか。

 内心冷や汗を流すも、やがてミーナが苦笑いを浮かべてくれる。

「正直まずいとこ突いたかと思ったけど、意外と明るいわね。じゃあずっと一人で戦ってきたわけ? 狩場はどの辺り?」

「そうですね。もうずっと一人で戦ってます。狩場はダラス周辺のフィールドか、ダンジョンですね。一応一人でも十分戦える相手を見繕って戦ってます」

 それを聞いてミーナ達の表情が曇る。トップギルドに身を置き、常に誰かとパーティを組んで戦うことで死へのリスクを軽減してきた彼らにとって俺の戦い方は異質に映るのかもしれない。

「……私にはちょっとわからないんだけど、師範代さんが一人で戦うのは日々の生活費を稼ぐ為? それとも強くなりたいから? 前者ならダラスの中にたくさんバイトがあるから戦わなくても生活費に困ることは無いわよ。別にコミュニケーションが取れない人ってわけでもないようだし」

 と、そこで一旦言葉を切るミーナ。大きな瞳が真剣に俺を見つめている。

「そして、厳しいことを言うかもしれないけど後者なら『バルド流剣術』は捨てた方がいいわ。流派スキルや型の効果はあなたが思ってる以上に大きい。スキルや型がほとんどない『バルド流剣術』はかなりのハンデを背負っていると言っても過言ではないわ。……師範代さんもレオンとの試合でそれを実感したでしょう? 今じゃスキルも型も多い剣術がたくさん見つかってる。強くなりたいなら少しでもスキルや型が多い流派に師事すべきよ」

 あの敗北の日が思い出されて俺の胸に鈍い痛みを残す。黙る俺に今度はキースが声をかけた。

「確かにミーナの言う通りだな。まあ、俺はスキルや型の数が必ずしも強さに繋がるとは思わんが少なくとも選択肢にはなる。フィールドに出るなら強さは必須だ。最近は低レベルのフィールドも物騒だしな。初期こそバラバラに動いていた強盗プレイヤー共が最近は必ず徒党を組むようになってやがる。見るからに大金もレアアイテムも持ってない低レベルのプレイヤーが悪戯に襲われて玩具にされてるっていう情報も入ってる。そんな奴らから見ればお前は格好の的だぜ」

 ミーナもキースも厳しい事を言っているが、それも俺の事を心配しての発言だ。短時間の付き合いながらもそれくらいは判るほど彼らの人柄を理解出来てはいた。
 ミーナとキースが言っている事も最もな事だ。『バルド流剣術』に固執する事のデメリット、他流派に師事する事のメリット。レオンに負けた直後ならば俺の心を大きく掻き乱したかもしれない。
 だが、今はもうぶれることはない。あの巨龍ヴァリトールを打倒したことで俺の中に確かな自信と希望が生まれていたのだ。
 思案する俺を見つめるミーナ達三人。そんな俺に何かを感じたのか、今度はリンが口を開いた。

「……師範代君。君にとって『バルド流剣術』とは何なのかな? 他のプレイヤーにあれだけ馬鹿にされても修練を続ける理由。踏み込んだ質問かもしれない。だけど、私は君の心を知りたいんだ」

 ミーナとキースがリンを見て意外そうな顔をする。俺もリンがこんなことを聞いてくるとは思っていなかったので少々面食らった。
 だが、リンは真っ直ぐに俺を見つめている。ただそれだけで場の雰囲気が引き締まる。
 世間話をしていたはずなのにいつの間にか張り詰めた空気になってしまっていた。だが、俺は不快感を感じてはいなかった。
 他の人だったらリンが発したような質問をされても冗談で返しただろう。だが、何故かリンには俺の本心を告げてもいい気がする。この真っ直ぐな視線は、凛とした佇まいは俺の中で誰かを彷彿とさせた。

 だからだろう。気づいた時にはするりと俺の口から言葉が零れていた。

「俺にとってのバルド流は生き方……そして戦う力です。ミーナさんやキースさんが言ったように他流派に師事することのメリットは重々承知しています。でも最初に『エデン』で『バルド流剣術』に出会った時に決めたんです。この流派を極めてやるってね。それでずっと3年間生き抜いてきました。ここで折れて他流派に浮気したら決意を覆しちゃいますからね。……俺、負けるの実は嫌いなんです」

 そう笑って答えた俺に、リンは眩しそうに目を細めた。

「君は強いな。……それに比べて私は……」

 目を伏せながら微笑むリン。最後は何と言ったのだろうか。小声で囁く様に呟いたので聞き取れなかった。
 と、そこでリンが顔を上げ大きくミーナとキースに振り返る。

「さあ、二人とも。男がこうまで言ってるのだ。ここは素直に応援してあげようではないか」

 リンの笑顔で張り詰めた空気が一気にとぎほぐされる。ジッと今まで俺達を静観していたミーナとキースは顔を向き合って苦笑いを浮かべた。
 そのままミーナが俺に声をかけてくる。

「それなら仕方ないわね。……そうだ、じゃあ今度私達とパーティ組んでどこかダンジョンに挑戦しましょうよ! ダラス周辺なんかでちまちま弱い敵狩るよりパーティで強い敵どんどん倒す方が良いわ。きっとすぐ強くなれるわよ。どうせならレオンを倒せるくらい強くなっちゃいなさい!」

「それは良い案だな! 守りなら俺に任せておけ。お前への攻撃は全て俺が防いでやるから安心して攻撃に専念できるぜ」

「じゃあ、どこがいいかしらね。……ブース霊洞なんてどうかしら。あそこなら……」

「いや、流石にいきなりあそこは駄目だろ。もっと段階を踏んでだな……」

 何やら盛り上がった二人はそのまま何処其処のダンジョンが良いだの、パーティポジションはどうだの熱く語り始めた。
 そんな二人を微笑みながら眺め、時折口を挟むリン。
 展開に付いていけずボーっとしてた俺をキースが引っ張り込んで無理矢理会話に参加させる。あたふたする俺を見てリンとミーナが笑った。キースは落ち着けとばかりに俺の背中を叩き、ガハハと笑う。
 自然と皆に笑顔が溢れていた。
 こんな暖かい気持ちになったのはいつ以来だろう。共に戦える仲間というのがこんなに良い物だとは久しく忘れていた。
 彼女らに出会えたのも姐さんのおかげだ。帰ったら報告も兼ねてお礼を言っておこう。



「リンさ~ん、ミーナさ~ん夕飯できましたよ~」

 しばらくリン達3人と談笑していた所でレオンから声がかかった。
 相変わらずリンとミーナ、女性プレイヤー以外を無視する言動にリンは困った顔、ミーナは露骨に顔をしかめ、キースはやれやれとばかりに掌を上に掲げていた。
 レオンのあの行動は俺の前でなくても同じだったようだ。
 一先ず談笑を中断し、スープを貰う為に焚き火の元へ集まる。
 焚き火にくべられた鍋の上ではレオンが椀にスープを注ぎ、皆に手渡していた。
 リン、ミーナ、キースと来て俺の順番が来る。
 何か嫌がらせでもされるかと覚悟していたが、意外にもレオンは無言で椀を俺に差し出した。
 俺は思わずそのまま椀を受け取る。
 椀を渡し終えるとレオンは鍋を見つめて、中身を掻き回し始めた。
 そのレオンの態度に若干拍子抜けしながらも、一応礼を口にする。

「ありがとう」

「……」

 俺のお礼の言葉にも一切反応を見せないレオン。やはり無視されたわけだが、別に俺は気にしてなかった。このまま何もないのであればそれが一番良い。仮にも同じパーティ内でいがみ合うのは馬鹿らしい事だ。
 椀を手に俺は焚き火を離れ、リン達の元へ向かった。
 俺が座った所で三人がスープに手をつけ始める。どうやら俺を待ってくれていたようだ。

「あっ!」

 と、そこでキースが何かを思い出したかのように大きな声をあげた。
 何事かと俺やリン達、レオンも含めた全員がキースを見る。
 キースは皆が見てる中で何やら腰のポーチをがさごそと漁り、やがて一枚のアイテムカードを抜き出した。
 そのままカードを具現化するキース。
 現れたのはフランスパンのようなパンに野菜と肉を挟んだサンドウィッチだ。

「今朝、村出るときに昼飯を一個多く買ったけど結局食わなかったの忘れてたぜ」

 頭をバリバリと掻きながら笑うキースに皆がそんなことかと興味をなくす。

「もう、びっくりさせないでよ~」

 呆れ顔のミーナに手を合わせてキースが謝る。

「いや、すまんすまん。……そうだ、師範代。お前が良ければだが、俺の分のスープも飲まねえか? 俺はこの昼飯の残りを片付けなきゃならん」

 見た所それほど大きなサンドウィッチではないので、キースの体格ならスープもそのまま食べれそうだと思ったが意外と小食なのだろうか。
 不思議に思いながらも腹が猛烈に減っていた俺は快諾する。

「キースさんが食べないのであれば是非頂きます! でもそのサンドウィッチだけで足りるんですか?」

「……実は、俺このスープ苦手なのよ。どうも俺にはさっぱりしすぎてて食った気がしないんだわ。お前が苦手とかじゃなければ食べてくれ。頼む」

 俺の耳元に顔を寄せ、そう囁いたキースは拝むように手を上げた。

「そういうことでしたら遠慮なく頂きますよ。もう腹へってかなりきついんです」

「お、なんだそうなのか。なら、ほら。遠慮なく食ってくれ!」

 取引を終えた俺達は手元の食事に齧り付く。
 俺は勿論、キースも空腹だったようで猛烈な勢いで食事を掻き込んでいく。
 そんな俺とキースの行儀の悪さにまたもリンとミーナがクスクスと笑っていた。
 久しくなかったフィールド上でのキャンプのような仲間との触れ合い。今までの孤独が癒されるかのような楽しさに俺はすっかり油断してしまっていたのだろう。



 楽しそうに笑う俺達を暗い笑みを浮かべて見つめるレオンに俺は気付くことが出来なかった。


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