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  エデン 作者:川津 流一
12.生還
 まどろむ意識。
 何か暖かい物で包まれている感覚。手足を動かすも何かゼリーのような感触を掻き分けるだけ。
 普段の寝床とははるかに違うその感触に違和感を感じながら、段々と意識がはっきりしてくる。

 そして自身がどこで寝ているのかを思い出した時、唐突に覚醒した。
 ガバリと身体を起こす。
 上半身に纏わりついていた粘液のような物が跳ねた。

「ぐっ……」

 同時に激しい頭痛が走り、思わず呻き声をあげてしまう。身体には何か重い物に圧し掛かられたのような倦怠感と筋肉痛のような痛み。
 先の死闘の傷痕だ。
 しばらく何もできずにジッと身体の悲鳴に耐え続けた。
 頭痛に苦しみながら自身の身体の状態を確認する。
 ヴァリトールを討ち取る為に起動した【烈牙】の影響で全身の傷から出血したのを覚えているが、どうやら既に血は止まっているようだ。何とか一命を取り留めた事に安堵する。
 そして、苦痛にある程度慣れてくると改めて周囲を見渡した。
 周囲は薄暗く血管のような物が張り巡らされ、今も下半身が浸る粘液のような物で満たされている。正面にはちょうど人が通れそうな穴が開き、そこから外の光が差し込んできている。
 段々と記憶が湧き上がってきた。

 あの時俺はヴァリトールの頭部に愛剣を叩きつけ、ヴァリトールを討ち取った。その直後、崩れ落ちるヴァリトールの身体に巻き込まれないように目の前の頭骨の中へ身を投げ出したはず。
 そこで意識を失ってしまったが……正面の穴、そして周囲の何か内臓を思わせる雰囲気。ここは恐らくヴァリトールの頭骨の中。身体に纏わりついてるこれは脳漿か。

 死体と化したヴァリトールの肉体が消えていないので俺が意識を失ってからそれほど時間が経っていないのかもしれない。こんな危険地帯で意識を失うという自殺行為に思わず身震いする。もし近くに他の竜がいたら俺は眠りながらこの世界を退場しているところだった。幸い、スキル【気配察知】によると周囲にモンスターの存在は感じられない。

 何者かに襲われる前に覚醒できたのはもちろん、ヴァリトールの死体が消える前に起きれて本当に良かった。唯でさえ竜種モンスターから獲得できる鱗や牙、骨などは最高級の生産材料なのだ。この巨龍ヴァリトールは竜種モンスターの巣窟の主と呼ばれる存在であり、今まで一度として討伐に成功したという話は聞かない。最も、ヴァリトールはユニークモンスターであり、誰かが倒したことがあるのならば二度と出現することは無いのでヴァリトールから得られる生産材料を獲得できるのは今この時をおいて他にはない。その鱗や牙等は一体どれほどの価値があるか……。

 ダンジョンの最奥に固定で出現し、例え倒されても一定の期間をおいて再出現するボスモンスターとは違い、フィールド上にはある決められた地域内でランダムに出現するボス級のモンスターが存在する。周囲のモンスターとは一線を画した存在であり、世界で唯一体しか出現しないそれらをユニークモンスターと呼ぶ。
 ここヴァリトール山の『巨龍ヴァリトール』、始まりの街ダラスより遥か北に位置するフェニキス雪原の『氷狼フェニキス』等が有名だ。

 この死闘のおかげで、元々の装備は消滅しアイテムも使いきった。予備の装備カード等を入れたポーチも当然戦闘の最中で失われている。始まりの街ダラスに帰れば多少なりともアイテムカードは残っているが、殆ど価値が無いものばかり。今現在ほぼ無一文と言って良い状態だ。せめて装備を新調できるだけの稼ぎは手に入れなければこの先辛い事が待っている。

 とりあえず外に出るか。

 そう考えて立ち上がろうとした俺は、右手に何かを握りしめたままだったという事に今更ながら気づいた。
 脳漿に塗れた腕を持ち上げ、握っていた物を見つめる。


 それは傷だらけの愛剣だったもの。刃を失った剣の柄だった。


 戦う力を失ったそれにかつての頼もしさの面影はない。 
 それを見て俺の頭は困惑に包まれた。ヴァリトールとの死闘の最中砕かれた俺の防具を見てもわかるように通常、装備というのは耐久度がなくなると破壊されすぐに消滅してしまう。こんな柄のような一部分はおろか欠片ですら残らないはずだ。

 何故消滅せずに残っている?

 頭を傾げて考える。そして思いついた。もしやこれが+10の恩恵なのだろうか。例え耐久度0を迎え、破壊されたとしても修理が可能……なんて想像が頭をよぎる。

 とりあえずヴァリトールを倒したことで『真バルド流剣術』入門の条件もクリアした事だし、一度姐さんの所に顔を出して見てもらおう

 この脳漿塗れの場所でカード化するのは気が引けた俺は、柄を手に頭骨の穴から外に出る。

 外に広がっていたのは先の死闘の激しさを物語る傷痕だった。
 まるで空爆を受けた後かのようにクレーターが点在し、薙ぎ倒され引き裂かれた木々や粉々に砕かれた岩石の欠片等があちこちで見受けられる。
 最初に見た風景とは似ても似つかぬ様だった。

 振り返って倒れ伏す『山』を見る。命の輝きを失ってなお、強大な存在感を発する威容。黒く輝く鱗はとても頑丈そうで、今でもあの龍鱗に剣を弾かれた感触を思い出す事ができた。
 光を失った巨龍の瞳を見つめながら未だに俺がこいつを討ち取れたことに実感を持てないでいた。

 死を受け入れかけたあの時からヴァリトールに止めを刺した瞬間まで……夢現ではあるがなんとなく覚えている。

 刃を突き立てられる女性の姿……ドクンと一瞬心臓が大きく鼓動する。思わず胸を押さえるが、もうあの時ほど心は乱れなかった。
 一体あの光景は何なのだろうか。『エデン』ではもちろんリアルも含め思い出す限りあんな光景は今まで見たことはない。
 それにあれ程感情に呑まれる事も初めての経験だった。あんなに苦しい、悲しい、そして悔しい気持ちは知らない。

 そして、俺がまるで時間の縛りから解き放たれたかのようなあの世界……【神脚】。

 それを起動する為のスイッチは今でも俺の頭の中でイメージできていた。まるで元々そこにあったかのように俺のイメージにしっくりと馴染む感触。
 確かあの時……

 ――――――【神眼】へと至る道。

 そう俺には聞こえた。それに『奥義の壱』とも。
 【神眼】とは【心眼】の先にあるもの。つまり『真バルド流剣術』? 何故未だ入門していない『真バルド流剣術』のスキルが使える? 俺は一体どうなってるんだ?

 ゾクリと背筋に悪寒が走る。何か得体の知れないものが俺の内に潜んでいる気がした。

 それに意識を失う直前に見たあのウィンドウ。特殊アビリティ【龍躯】とは一体……。

 ……いくら考えてもわからない。とりあえずはやるべきことを優先しよう。 

 俺は横たわるヴァリトールの身体に手を触れ、カード化のイメージを行う。山のような巨体が白く輝いて周囲を照らし、次の瞬間には巨体が消失。同時に俺を汚していたヴァリトールの体液も消え、俺の手元にはカードの束が残った。
 カードの表示を眺める。

 『巨龍の鱗』、『巨龍の牙』、『巨龍の骨』、そして『巨龍の肉』

 そのラインナップに満足する俺。このカードの束だけで相当な財産になるだろう。『エデン』でここにあるだけしか存在しない生産材料。もし換金などすれば莫大な財産と引き換えにかなり悪目立ちしそうな気がする。
 既に高価な『生命の実』を買い漁って変に注目を集めてはいたのだ。巨龍ヴァリトールが打倒されたという情報はいずれ明るみに出るかもしれないが、それを成したのが始まりの街ダラスの笑い者である俺だと判明するといろいろと怪しまれたり、付きまとわれたりするかもしれない。これ以上騒がれるのは避けたい所。

 ……どうするかはダラスに戻ってから考えよう。

 それにしても『巨龍の肉』か。ドラゴンの肉って美味いのだろうか。帰ったらブラートに料理してもらって少し食べてみよう。
 でもこれ見せたらまたブラートの奴騒ぎそうだな。まあでも仕方ないか。

 『巨龍の肉』を見せた時のブラートの反応を想像して少し笑ってしまう。そのままカードの束は纏め、腰のポーチに……と思ったが、腰のポーチも消滅していたことを思い出す。
 今俺が纏っているのはボロボロの肌着だけだ。この肌着は『エデン』にログインした時から装着している装備で、数ある装備の中で唯一耐久度が0になっても消滅せず、肌着としての機能が失われない。今回の俺のような惨状になっても裸になるという事にならない為の措置だと思われる。
 しかしそうは言っても耐久度が減るに従って汚れたり、多少破れたりするので酷い有様ではあるのだが。

 ポーチがないのは仕方が無いので、とりあえず上着の裾を縛って物を入れられるスペースを作りカードの束を放り込む。

 そして未だ手に持つ愛剣の残骸を眺めた。
 これはカード化できるのだろうか。とりあえず試しにと、カード化のイメージをする。
 すると愛剣の残骸も白く輝きだし、一瞬の間をおいて一枚のカードと化した。
 何気なくそのカードの表示を見て、俺はまたしても困惑し頭を傾げる。
 そこに表示されていたのは、普段見慣れた直剣の絵柄と『スチールロングソード+10』の表記ではない。

 『エレメンタルソウル』。光り輝く宝石のような絵柄と共にそう記されていた。

 思わずカードを手に即具現化をしてしまう。カード化と同様に白く輝きながらカードが形を変える。
 直後、俺の手にはカードの絵柄と全く同じ光り輝く丸い宝石が転がっていた。
 野球ボール程度の大きさのそれは自身が光を放っているようで周囲を優しく照らしている。同時に宝石を乗せる手にはまるで小動物を乗せているかのような暖かさが感じられた。

 何だこれは?

 今日何度目かわからない疑問の声。どう見ても俺の愛剣の面影はどこにもない。正直、今何かとてつもないイベントにぶち当たっているのではないかという思いはある。
 だが、あまりにいろいろな事が起こり過ぎて俺の頭は少々パンク気味だった。身体も休息を訴えている。

 とりあえず安全な場所まで移動して休息を取ろう。そして始まりの街ダラスまで帰ろう。

 そう結論付けた俺は輝く宝石を再びカード化し、懐に放り込む。そして軋む身体を動かし、来た時と同様周囲を警戒しながら帰路についた。


 
 神経をすり減らしながらヴァリトール山のエリアを抜け出すと、俺は地面へと崩れ落ちた。ここまで来れば例え裸でも何とかなるモンスターしか出現しない。さすがに全く装備がない状態であの山を歩くのは自殺行為だ。
 道中何度かレッサードラゴンやブルードラゴン等を見かけたが、幸いにして彼らは俺に気づくことなく立ち去ってくれた。せっかく巨龍ヴァリトールを討伐したのにレッサードラゴンなんかにやられてしまっては目も当てられない。【気配察知】と【心眼】をフル活用し、来た時以上に慎重に移動してきたのだ。
 そのプレッシャーから解放された俺は、安全であることを大いに満喫していた。

 神経は磨り減ったものの、身体のほうは大分調子を取り戻していた。ヴァリトールの頭骨の中で目覚めた時は指を動かすのでも苦痛に苛まれたものだったが、今では多少倦怠感は残るものの身体を動かすのに何も支障は無い。

 回復アイテムの使用どころか、ヴァリトール山の竜達に気づかれない為の隠密行動のせいでろくに休憩も取っていないというのにこの回復力……少々疑問を覚えなくもないが、クエストという重圧からの解放と装備を全て失った事によって心身共に身軽になったせいかと適当に見当付けていた。

 しばらく地面に大の字になって張り詰めた神経をとぎほぐし身体を休めると、俺は立ち上がってゆっくりと始まりの街ダラスへの道を歩き出す。
 空を見れば大分太陽も西に傾き、もうしばらくすると辺りは闇に包まれるだろう。【心眼】のおかげで夜の闇の中でも普段通り動けるとはいえ、無理をして夜中を歩く事はない。この近くで野宿の場所でも探すか。
 そう考えていた所でスキル【気配察知】に複数のプレイヤーの反応。場所は俺の遥か後方。こんな場所に複数のプレイヤーがいるとは珍しい。もしかして強盗プレイヤーだろうか。そうだとするとこの状況は非常に危険だ。
 俺は慌てて近くの森に身を潜め、近づいてくるプレイヤー達を【心眼】で窺う。緊張感が高まるが、先頭を歩く特徴的な二人組みを見て俺は警戒心を薄れさせた。

 長い黒髪とゆるくウェーブした茶髪の二人組みの女性。確かギルド『シルバーナイツ』のリンとミーナ。そうすると他のメンバーは『シルバーナイツ』のギルドメンバーだろうか。
 有名ギルドのメンバーであり、一応知り合いでもある彼女達を確認したことで懸念していた強盗プレイヤーとの遭遇という不安が解消された。安堵しながら俺は身を潜めるのを止め、森から出ようとする。
 彼女達ほどの高レベルプレイヤー相手だと俺のような特別な隠密用のスキルを持ってない身では隠れてもすぐ発見されるのがオチだ。変に警戒される前に姿を見せた方がいいだろう。
 だが、森を出たところで自身の酷い有様にハッと気づく。ボロボロの肌着だけの男……どう見ても不審者だ。事実、俺に気づいたらしい彼女達はすごい速さでこちらに駆け寄ってきている。今更ながら気づかれる前に逃げれば良かったと後悔するが、もう遅い。

「待ってくれ! そこの君!」

 よく通る声を張り上げるリン。かなりの勢いで走ってるのにも関わらず息を乱している様子は無い。さすがは『ヒテン流剣術』の師事者。ミーナ以下他のメンバーは彼女に遅れまいと必死に追い縋っている。

 わずかな間をおいてリンが俺の目の前に立つ。相変わらず美しい髪が風に揺れる。以前見た時は普段着なのか軽い装いだったが、今日はしっかり装備を着込んでいた。武士の甲冑を思わせる銀色の鎧を身に纏い、腰には朱鞘の長い日本刀を佩いている。その凛々しさは誰もが振り返らずにはいられないほどだろう。

「驚かせて申し訳ない。君の姿が目に入ってね、見た所随分と酷い有様だが……差し支えなければちょっと事情を聞かせて欲し……い? 君は……」

 予想外の相手に大きく目を見開くリン。どうやら彼女は俺が『師範代』だと気づいたらしい。
 そこに遅れてミーナや他のメンバーが辿り着く。息を乱しながらミーナがリンに怒鳴った。

「リン! また何も言わないで急に行っちゃうの止めてよ!」

「いや、すまないミーナ。ちょっと彼の尋常じゃない姿が目に入ってね」

 そこで初めて俺へとミーナの視線が向けられる。途端に心配そうな顔つきへと変わった。

「ちょっとあなた、どうしたのよ!? こんな場所でそんなボロボロになるだなんてそうはないわよ?って、あら……あなた『師範代』さん?」

 ミーナにとっても意外な相手だったようで目を丸くする。周りのメンバーからも驚きの声が漏れた。

「間違えてヴァリトール山に迷い込んでしまったみたいでして、ドラゴンに襲われて命からがら逃げ出してきたんですよ」

 リンが辿り着くまでに考えていた言い訳を口にする俺。納得してもらえるかはわからないが、ヴァリトール山にいたことは事実だし、この周辺で俺がここまでボロボロになれる場所は他にない。ここで巨龍ヴァリトール打倒という大きな事実を語る程リンやミーナはともかく、他のメンバーを信用してなかったし、俺が無防備な状態でレアアイテムを抱えている事に気づかれたくなかった。
 リンの鋭い視線が俺を貫く。内心冷や汗を流すがしっかりとリンの視線を受け止める。

「ドラゴン相手というのは本当か? ……他のプレイヤーに襲われた、なんてことはないか?」

 他のプレイヤー? 一体どういうことだ? 予想外の返答に思わず首を傾げる。その反応に脈はないと悟ったのか、ホッと安堵の息を吐くリン。

「実は……「だっせえ! ドラゴン相手なんて嘘だろ。お前みたいな弱い奴が逃げ切れるわけないじゃん。そこらへんのゴブリンにやられたんじゃねーの?お前弱いんだからこんなとこ来るなよ」

 俺の背後から響く声を聞き、リンが溜息をつきながら眉間を押さえる。俺はゆっくりと振り返った。
 ツンツンの金髪に銀色の全身鎧。左右の腰には二本の長剣。見るまでもなくわかる、レオンだ。
 相変わらずニヤニヤ笑いを顔に貼り付けながら俺を見下ろしている。

「ああ? なんか文句でもあんのか?」

「レオン! ……それ以上彼に何か言えばさすがに私も怒るよ」

 レオンを鋭く見つめるリン。レオンは顔を歪めると、バツの悪そうに顔をそむけた。

「ッチ! ……わかりましたよ」

 そう呟くとレオンは後ろに下がり、他のメンバーと話しながらこちらを静観し始めた。よく見るとあの試合の日にレオンとつるんでいたメンバー達だ。
 大きな斧を持つ大柄な男、弓矢を持つ線の細い男、灰色のローブに大きな杖を持った糸目の男、日本刀を腰に差す武士のような格好の男、そしてレオンの計五人。
 そんな彼らを嫌悪の目で見るミーナともう一人、大きな盾と槍を持つ銀色の全身鎧の男。それにリンを合わせると総計八人のパーティ。だが、レオン達五人とリン達三人とは溝があるようだ。

 再び溜息をつきながらリンが俺に話しかける。

「またしてもすまない。君には不快な思いをさせてばかりだな……今度本格的にお詫びをさせてもらうよ」

「いえいえ、別に気にしてないから大丈夫です。それより何かあったんですか? 皆さんどことなく気が立ってるように見受けられますけど。それに他のプレイヤーに襲われたというのは……」

「ああ、そうだった。実は、この付近に強盗プレイヤーの隠れ家があるという情報が入ってね。可能ならば殲滅、規模が大きいならば情報を得ようと探索していたところだったのだよ」

 真剣な目で俺に語るリン。『シルバーナイツ』のようなトップギルドにはこのような強盗プレイヤーの情報が入ってくることは珍しくない。弱者を守る為、特に生産系のプレイヤーをという利己的な理由も隠れてはいるが、討伐隊が組織され、強盗プレイヤーを駆逐する。こうして始まりの街ダラス周辺では治安が保たれてきたのだ。
 そうなると、リンが先程言った言葉の意味がわかった。

「そこでボロボロになった俺を見つけたと」

「そう、つい強盗プレイヤーに襲われたプレイヤーかと思ってね。探るような真似をしてすまなかった」

 そう言ってリンが頭を下げる。それを見て俺は慌ててしまった。

「そんな、皆の為に動いてくれてるのに俺なんかに謝る必要なんてないですよ! 一応、この辺りにしばらくいましたけど強盗プレイヤーはおろかプレイヤーの姿自体全く見かけなかった……いや、一人いたか」

 一人怪しいプレイヤーに心当たりがあった。俺の【気配察知】を掻い潜って俺の背後にいた男。黒いローブを纏った顔を隠す怪しいプレイヤー。

「そのプレイヤーは?」

「真っ黒なフードとローブを着た男で、フードは恐らく認識遮断の効果持ち。なので顔はわかりません。俺にヴァリトール山は竜が繁殖期で凶暴化してるから近づくなと伝えて立ち去りました」

「ふむ……ヴァリトール山か……。あのエリアの情報は少ないし、竜が繁殖期で凶暴化というのも初耳だな」

 顎に手をやり、俺からの情報を思案するリン。

「もしかして隠れ家はヴァリトール山にあるんじゃない? その男は強盗プレイヤーの一味で、隠れ家に近づかれたくなかったからそんなことを師範代さんに吹き込んだとか」

 ミーナが思慮にふけるリンに声をかける。

「……その可能性は有り得るね。だが、ヴァリトール山を探索するにしても場所が場所だ。強力な竜種モンスターがうようよしてる場所だし、巨龍ヴァリトールなんて規格外のモンスターも出現する。もし、その男が強盗プレイヤーと全く無関係で凶暴化という情報が本当だったならば目も当てられない。……これは一度この情報を持ち帰って作戦を練る必要があるな」

 リンがぐるりと皆を見渡す。

「一度ダラスへと帰還する。この情報を元に作戦を練り直そう。だが、この付近にまだ強盗プレイヤーがいないと決まったわけではない。帰路でも周囲の警戒は怠らず行って欲しい」

 口々に皆が了承の返答を口にする。溝はあるもののリンはよくこのパーティを纏め上げてるようだ。リンは最後に俺へと向き直る。

「良ければダラスまで送るがどうかな? 師範代君」

 レオンの事が若干気になるが、強盗プレイヤーがいつ出てくるかもわからない現状願ってもない提案だ。

「ありがとうございます。是非ともよろしくお願いします」

「うん! ではダラスへ帰ろう! ……と、言いたいところだがもう暗くなってきた事だし野宿の準備だな」

 そうして俺達は野営の準備を始めた。


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