アングル:黒田総裁が異次元緩和の効果に強気姿勢、正念場これから
[東京 4日 ロイター] - 日銀が4月に導入した異次元緩和が半年を迎えた。黒田東彦総裁は4日の会見で、日本経済に前向きな循環メカニズムが働く中、異次元緩和の効果が着実に市場や経済、物価にあらわれていると強調、強気の姿勢を貫いた。
先行きも日銀が掲げる2%の物価安定目標の実現に自信を示した。一方、足元では円安・株高は一服しており、異次元緩和が狙いとする期待インフレ率の引き上げに成功するのか、これから正念場を迎える。
<経済・物価に強気、実質金利低下が民需を刺激>
黒田総裁は4日の記者会見で強気な姿勢を貫いた。景気が回復過程に入る中で、日銀が重視する設備投資や雇用・賃金に改善の動きが出ているためで、日本経済には「前向きな循環メカニズムが働いている」との認識を示した。物価動向についても足元の消費者物価指数(除く生鮮食品)がプラスに転じ、上昇幅を拡大させており、物価上昇率は日銀が目標に掲げる2%に向けて「想定される道筋を着実に進んでいる」と強調。先行きも「こうした傾向が続いていく」との見通しを示した。
総裁の強気な発言の背景には、4月に導入した異次元緩和の効果が着実にあらわれているとの自信がある。市場で発行される国債の約7割を吸い上げる大規模な緩和策は、導入当初こそ市場が混乱して長期金利が乱高下したが、その後は景気回復、海外金利の上昇と逆行するように足元で0.6%台に低下している。総裁は、長期金利が安定推移を続けるとともに、期待インフレ率は上昇傾向にあるとし、「実質金利が低下し、住宅や設備投資を中心に民間需要を刺激している」と説明。緩和効果の波及ルートの1つであるポートフォリオリバランスについても、大手行を中心に「徐々に進んでいる」との認識を示した。
<消費増税決定、異次元緩和と歯車かみ合う>
大規模な国債買い入れを通じて長期金利に低下圧力をかけ続けるには、日本財政への信認が大前提となる。これまでも総裁は政府の財政規律維持の重要性を繰り返してきたが、安倍晋三首相が1日、来年4月からの消費増税を表明。「意義ある大きな決断」と評価した。同時に政府が決定した5兆円規模の経済対策も「成長率のプラス要因」。アベノミクスの「第一の矢」と位置づけられている異次元緩和と政府の取り組みの歯車が噛み合い始めたことも、総裁の自信につながっているとみられる。
<期待転換に綱渡り続く>
4日の会見では多くを語らなかったが、9月20日の講演で総裁は、金融緩和を通じて期待インフレ率を引き上げることについて「世界的にも過去に例のない課題に対する挑戦」と語った。15年近くデフレ状況が続く中、人々のデフレ期待を変えるのは「容易なことではない」というのが本音だ。
期待上昇の重要なポイントとなる賃上げは、政府と経済界、労働界による政労使協議を含め、来年にかけて、これから本格化する。その実現には現在の景気回復基調が継続し、企業収益が増加していく環境が維持されることが前提となるが、回復持続に不可欠な外需は、新興国を中心に海外経済の改善がもたつき気味だ。市場では、これまでマインド改善をけん引してきた株高・円安も一服している。総裁は会見で、現行の異次元緩和の継続によって、物価目標の達成は可能との見解をあらためて示したが、根強いデフレマインドの転換に向けて金融政策運営も綱渡りが続きそうだ。
(伊藤純夫 編集 橋本浩)
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