社説:TPP交渉 政府の独断専行は困る
毎日新聞 2013年10月04日 02時30分
環太平洋パートナーシップ協定(TPP)交渉は、8日の首脳会合で「大筋合意」する公算が大きい。ところが、参加国間の秘密保持義務もあって、交渉の実態はほとんど表に出てこない。
国内にはTPPを巡ってなお、根強い不安がある。アジア・太平洋地域の貿易・投資ルールを決める交渉であり、国民の生活や経済活動に大きな影響を与えるからだ。大筋合意は、大きな節目といえる。政府の独断専行は認められない。
交渉は2日までの首席交渉官レベルに続いて6日まで閣僚会合を行い、7、8両日の首脳会合で大筋合意を目指す。もっとも、焦点である関税分野や医薬品の特許期間等に関する知的財産分野など、各国の利害対立が深刻なために本格交渉が今後に持ち越されそうな分野も多い。その意味で今回は、あくまで各国首脳が最終合意への決意を確認し合う意味合いが強いようだ。
それでも首脳同士が「合意」する意義は大きい。日本政府は交渉参加に際して、「国益を損なう場合は離脱できる」と説明してきた。しかし、参加12カ国中で米国に次ぐ経済大国である日本が離脱する影響は大きい。「合意」後に離脱する選択肢は事実上、取り得ないだろう。
一方で、国民の間には農業はじめ医療保険制度や食の安全への悪影響、外国に進出している企業がその国の政府を訴えられる「ISDS条項」の乱用などを心配する声が根強く残っている。
ところが、交渉に参加して以降、政府からそうした不安に応える情報はほとんど出ていない。閣僚会合に先立って甘利明TPP担当相は「攻め込まれたら『倍返しだ』という場面もあろうかと思う」と述べた。しかし、「倍返し」の決意で何を攻め何を守るのか、基本的な戦略は明らかにしていない。
与党自民党などはコメ、麦、乳製品などの農産5項目を「聖域」として、その関税を守り抜くよう求めている。政府は「最大限の国益を追求する」という方針は示しているものの、何が「国益」なのか、国民には判然としないままだ。
確かに、秘密保持義務の壁はある。各国の思惑が交錯する外交交渉で、手の内をさらすわけにはいかないことも理解できなくはない。
しかし、今回の首脳会合で「大筋合意」を目指す背景には、来年秋に中間選挙を控える米オバマ政権が、経済政策での実績を強調したいという政治的な思惑がある。
何の説明もなしに合意し、対米追従との批判を受けては、今後の交渉にも支障が出るはずだ。政府に国民の理解を得る努力を求めたい。