社説
教科書選定 許されぬ現場への圧力(10月4日)
教科書選定は本来、各学校の教育理念や地域の実情に即して行われるものだ。
教育現場の意向を無視して特定の教科書を押しつけたり、排除したりする権限は誰も持ち得ない。
ところが、地元の採択地区協議会の決定と異なる公民教科書を中学で単独使用している沖縄県竹富町に、文部科学省が是正要求をする方針を固めた。
公立小中学校の教科書選定の権限は市町村教育委員会にある。地方教育行政法の規定の趣旨から明らかだ。国の強権発動は権力の乱用と言うしかない。
竹富町が独自採択した背景には、石垣市などとともに構成する八重山採択地区協議会が「新しい歴史教科書をつくる会」系の育鵬社を選んだことへの反発がある。
育鵬社の「公民」「歴史」教科書は復古色が強く、戦前、戦中の日本の植民地支配や侵略行為を批判する姿勢を「自虐史観」として否定するところを出発点にしている。
沖縄戦で民間人も含めておびただしい犠牲者を出した沖縄県民には特に戦争への抵抗感が強い。竹富町の判断は極めて自然である。
是正要求は、自治体の違法行為などに発せられるが、教育行政ではこれまで出たことがない。それだけ国が地方の教育行政への介入に慎重な姿勢を取ってきた証しと言える。
それが一転したのは、教育に保守的なスタンスを取る安倍晋三政権の誕生と無縁ではあるまい。
各校に事実上、任されてきた高校の教科書選定をめぐっても、以前は考えられなかった動きが出ている。
目に余るのは実教出版の高校日本史をめぐる神奈川県教委の対応だ。
「(日の丸掲揚と君が代斉唱をめぐって)一部の自治体で公務員への強制の動きがある」との記述を保守系団体が問題視したのを受けて、採用しないよう県教委が各校長に口頭で促した。
その結果、当初、28校あった採択予定校がすべて取り下げた。
実教出版の記述は、教職員への通知で君が代斉唱を命じた県教委にとっては不都合だろうが、検定に合格した教科書を排除するのは権限逸脱の疑念を拭えない。
東京都教委は「使用は適切ではない」と全校に事前通知した結果、採択した高校は一校もなかった。
大阪府教委と埼玉県教委は条件つきで使用を認めることにしたが、それでも教育現場に圧力をかけたことに変わりはない。
国や県教委が学校などに圧力をかけて手続き上、問題がない決定を変えさせる事態は異常だ。今後繰り返されることがあってはならない。
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