ミスター円:榊原英資氏インタビュー
株高は6ヶ月以内にバブル崩壊 ミスター円:榊原英資氏インタビュー
2013.03.04
榊原英資・青山学院大学教授
――アベノミクスをどう評価しますか?
日本経済が低迷する中、しっかりとした景気対策を打つということなので、アベノミクスはそれなりに評価している。
一つは金融緩和をしばらくは継続すること、もう一つは機動的な財政出動。補正予算は10兆円組んだし、次の予算でもきっと相当の公共事業をやるだろう。今、景気対策をすることは非常に重要なことであり、これは評価している。
――日本はデフレから脱却できますか?
安倍政権はデフレ脱却を旗印に掲げているが、2%のインフレターゲット実現はむずかしいと思う。今の日本のデフレは、景気が後退して物価が下がる伝統的なデフレではない。日本はもう過去20年間、ずっと物価が下がっている。2002年~2007年に平均で2%程度の経済成長をし、景気がよかったときでさえ物価は下がっていた。
今の日本のデフレは構造的なものだ。日本は東アジアと事実上、経済統合している。日本の最大の経済パートナーは今や中国だ。日本と中国の物価や賃金が非常に緩やかに収斂しているので、どうしても日本の物価や賃金は下がり、中国のそれは上がる。そう簡単にデフレ脱却はできない。
かつて日本経済が比較的、閉鎖経済だった頃なら、金融政策で物価はコントロールできた。金融を緩めればインフレになるし、金融を引き締めれば物価は落ちた。伝統的なマクロ経済学が通用した時代だ。
しかし今は閉鎖経済ではなく、グローバル経済。日本の金融政策だけで日本の物価はコントロールできない。そういう意味で、デフレ脱却というのはそう簡単ではない。経済のグローバル化を止めることはできない。むしろグローバル化が拡大することはあっても、縮小することはない。
もう一つは、デフレというのは本当にそんなに悪いのか? ということだ。私はあまり悪いと思っていない。消費者物価指数の中でも耐久消費財は大きく落ちているが、それを省けば、われわれが日常買うようなもの、たとえば食料品や衣類、娯楽などは必ずしも下がっていない。むしろ物価は安定している状況だ。
物価が安定すれば、消費者は困らない。企業もちゃんとそれに技術革新やグローバリゼーションで適応している。物価が安定して困る人はいない。どうして脱却する必要があるのか? というのが私の立場だ。
2%の物価目標達成は無理
――日銀総裁に黒田東彦氏、副総裁に岩田規久男氏が就任しそうですが、いわゆるリフレ策というものをどう考えますか?
私は黒田さんと非常に親しくて、大蔵省でも4~5年ほど一緒に仕事をした仲。彼は日銀総裁として非常にいい仕事をすると思うし、彼の能力は非常に尊敬している。
ただし私が黒田さんと違うのは、私は金融政策だけでデフレは脱却できないと思っていることだ。黒田さんはおそらく、金融政策でできると思っているし、実際、これまで日銀の金融緩和が足りないと、日銀を強く批判してきた。
黒田さんは日銀総裁になってさらなる緩和を進めるだろうが、それでデフレが止まるとは私は思わない。2%の物価目標達成は無理だ。
円はレンジ相場に、株は期待感がはげ落ちる
――今の円安と株高は続きますか?
円はおそらくしばらくは90円~95円のレンジで推移するだろう。アメリカが急に金利を上げるというようなことがない限り、さらなる円安にはならないと思う。あるいは欧州の危機が再び深刻化すれば、また状況は変わってくる。ただし、そうしたことがない限り、レンジ内の動きが続くだろう。
株高もどこかで終わるだろう。実体経済の回復が必ずしもついてきていないのに、今は期待だけで上がっている。株価はおそらく、あと6カ月以内のどこかでピークを打つ。
今の円安と株高は安倍政権に対する期待感で生じているだけ。円安は一服するので、円安を要因とする株高は止まる。企業業績がついてこなければ、市場の期待感ははげ落ちる。今の状況は、若干ミニバブル。期待先行の〝アベ・ミニバブル〟といってもいい。
欧州危機再燃の可能性も
――日銀が大量に国債を買い始めると長期金利はどうなりますか?
日銀が大量に買えば、それは国債価格が上がり、長期金利は下がる。今、すでに1%を切っているのでそんなに大きくは下がらないだろうが、若干下がる可能性はある。
直接引き受けはいけないが、市場から買うのは今までもやってきたことだ。日銀が政府のファイナンスをしているとみなされて長期金利が急騰するなどという心配はない。
――欧州経済に対する見方は?
危機はとりあえず一段落しているが、再燃する可能性はある。たとえばイタリアの選挙でも、その気配が出てきている。またイタリアの政局が混乱すれば、欧州危機が再燃するだろう。
欧州はまだ完全に問題が解決したわけではない。欧州危機の根本は、ユーロという共通通貨を使っていることにある。たとえば、ドイツとギリシャが同じフィールドで競争しなくてはいけない。かつてのように違う通貨を使っていれば、ドイツマルクはもっと切り上がっているだろうし、ギリシャドラクマは切り下がっているはず。その調整が今はできない。
結果、ドイツの一人勝ちになり、ギリシャやスペイン等、南欧の国が弱くなる。これはユーロの構造的な欠陥であり、欧州の問題が根本的に解決するのはむずかしい。だからといって今、ユーロを廃止し、元の通貨に戻すということはなかなかできない。
欧州はいわば半分統合した状態。財政も統合すれば一つの国、合衆国になるが、今は金融と為替だけ統合した中途半端で不安定な状況を抱えたままだ。
――米国経済の状況は?
今のところ、結構、好調だ。問題はこの好調が持続するかどうか。財政問題では民主党と共和党が揉めているが、民間経済は順調。私は、しばらくは米国経済の順調な状況が続くと見ている。
新興国投資ではインドとインドネシアに注目
――個人が資産防衛、資産形成で注意すべき点は?
今、株は上がっているので株式投資が増えているのだろうが、株はどこかで落ちる。どこで売るかということをきちんと考えておかないと、苦い思いをする可能性がある。海外の資産をもつにしても、欧州の状況は一応落ち着いているが、危機がいつ再燃するかわからない。そこは十分にケアしておかなければいけない。
新興国はここ数年、世界同時不況の影響を受けているが、中長期的にはポテンシャルが高い。特に注目すべきはインドとインドネシア。中国も高成長しているが、これからは人口減少に伴って成長率は次第に下がる。インドはこれから人口が急速に増えるので、6~7%の成長を維持するだろう。インドネシアもそれなりの成長を維持するだろう。個人の投資先としても有望だと言える。
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