いいえ。
逮捕歴、犯罪歴を公開されないと言う利益は、法的保護に値するものです。
最高裁判所は、「前科及び犯罪経歴(以下「前科等」という。)は人の名誉、信用に直接にかかわる事項であり、前科等のある者 もこれをみだりに公開されないという法律上の保護に値する利益を有する」と判示しています (最高裁昭和56年4月14日第3小法廷判決)。
「犯罪者に人権はない」という全く非常識なことを言う人もいますが、犯罪者に対する制裁は、その犯罪に見合った制裁のみが許されるのであって、どのような制裁でも正当化される訳ではありません。
犯罪に見合った制裁というのは、国家による制裁としては、刑罰であり、社会的制裁としては、勤務先からの懲戒(懲戒免職、休職、減給)、学校からの処分(退学、休学)などです。
これに加えて、その人が犯罪を犯したことが、いつまで経っても世間の人に分かってしまう、というのは、行き過ぎた社会的制裁と言わざるを得ないでしょう。
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いいえ。
逮捕歴、犯罪歴の公開が、常に名誉毀損となるというわけではありません。
一定の条件を充たした場合は、違法性が阻却され、名誉毀損とはなりません。
◆名誉毀損とならないための条件
人の逮捕歴、犯罪歴の公表が名誉毀損とならないための条件は、次の2つです。
@その人の逮捕歴、犯罪歴が「公共の利害に関する事実」であること
A公表が「専ら公益を図る目的」でなされたこと
◆@「公共の利害に関する事実」とは
例えば、国会議員が収賄罪で逮捕された、という事実は、多くの人が関心を持つことであり、立法権を有する国会議員の適格性に関わる事実であり、「公共の利害」に関する事実と言えます。
◆A「専ら公益を図る目的」とは
例えば、新聞社が国会議員の逮捕の事実を報道することは、民主政治にとって欠くことのできない国会議員の適格性に関する情報を国民に提供するものであって、一般に「専ら公益を図る目的」があると言うことができます。
◆違法阻却の根拠
刑法上の名誉毀損罪については、刑法230条の2で、違法阻却のための条件が規定されています。
他方、民法上の名誉毀損(不法行為)については、そのような規定はありません。
しかし、刑法の規定と同様の要件の下に、違法性が阻却されるというのが、確立した判例です。少し長いですが、以下に引用します。
【民事上の不法行為たる名誉棄損については、その行為が公共の利害に関する事実に係りもつぱら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、右行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当であり、もし、右事実が真実であることが証明されなくても、その行為者においてその事実を真実と信ずるについて相当の理由があるときには、右行為には故意もしくは過失がなく、結局、不法行為は成立しないものと解するのが相当である(このことは、刑法二三〇条の二の規定の趣旨からも十分窺うことができる。)。】(最高裁昭和41年6月23日第1小法廷判決)
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いいえ。
「公共の利害に関する事実」というには、無理があります。
国会議員の逮捕となれば、誰もが関心を抱く事柄です。しかも、国家議員は、立法権を有する国会の一員なのですから国会議員が逮捕されたという事実が「公共の利害に関する事実」であることは、誰もが認めることです。
これに対して、無名の一私人が逮捕されたという事実は、「公共の利害に関する事実」と言うのは一般には困難です。
ただ、刑法230条の2第2項は、「公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実」は、「公共の利害に関する事実」とみなす、としています。そして、単に「公訴が提起されるに至っていない人」とされているだけで、その人が、国会議員が無名の一私人かを問題にしていないのですから、たとえ無名の一私人であっても、その人が逮捕されたという事実は、公訴が提起されるまでは、「公共の利害に関する事実」ということになります。
もちろん、この規定によって「公共の利害に関する事実」とみなされるのは、あくまでも、公訴が提起されるまでのことです。
裏を返せば、犯罪行為に関する事実であっても、公訴が提起された後は、当然には、「公共の利害に関する事実」とは言えないことを意味します。
ところで、犯罪に関する事実関係は、時の経過とともに、以下のように進んで行きます。
@犯罪行為
A逮捕
B起訴(公訴の提起)
C公判手続
D判決の言い渡し
E判決の確定
F刑期の満了、または、執行猶予期間の満了
犯罪行為が行われた直後であれば、一般の人の関心は高く、「公共の利害に関する事実」と言えても、BC・・と進むに従って、「公共の利害に関する事実」とは言うことは難しくなっていきます。
もちろん、単に時の経過だけが問題なのではありません。
犯罪行為を行ったのが誰か(政治家か、裁判官か、警察官か、大企業の社長か、零細企業の従業員か、フリーターか)、また、どのような犯罪か(殺人、強盗、窃盗−三億円事件も本屋での万引きも、罪名としては窃盗です−、占有離脱物横領−落とし物の猫ばば−、条例違反、軽犯罪法違反)なども、「公共の利害に関する事実」かどうかを判断するに当たって、重要な要素です。
このように考えると、1年前に無名の一私人が軽微な犯罪で逮捕されたという事実は、どう考えても「公共の利害に関する事実」とは言えません。
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なります。
「コンピュータが機械的に表示する」と言っても、人の意思と無関係に表示するわけではありません。
コンピュータが世界中のウェブサイトの情報を収集し、その中から検索語に相応しい情報を選択、表示するのは、グーグルが、そのようなプログラムを作成し、そのプログラムをコンピュータに実行させているからです。コンピュータ自身が意思を持って情報を表示しているのではありません。
そして、そのプログラムに人の名誉を毀損するような事実については表示させないような機能を持たせることは、グーグルの優秀なプログラマーにしてみれば、たやすいことであり、そのような機能を持っていない検索プログラムを用いて検索サービスを提供しているのがグーグルなのです。
こんな例を考えて下さい。ある企業が全自動化された工場で石油化学製品の生産を行っているとします。その工場の煙突からは大量の硫黄酸化物が排出され、近隣の住民が公害に苦しんでいます。最新の脱硫装置を設置しておけば、このようなことは起こりません。この場合、工場は全自動化されているのだから、企業には公害に対する責任がないと言えるでしょうか。
グーグルは、自動化された検索サービスによって、一方では、社会に有益な情報を提供しているのですが、他方では、名誉毀損という公害を垂れ流しているのです。公害を防止するには、脱硫装置の代わりに、名誉を毀損する事実を表示しないような機能を検索プログラムに組み込めば足りるのです。
グーグルは、そのような機能を備えることなく、人の名誉を毀損する内容であっても機械的に表示しているのですから、グーグルが名誉毀損をしたということは、どんなに詭弁を弄しても、否定しようのない事実なのです。
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そのようなことは、ありません。
「社会の期待と信頼」とは何でしょうか。仮に、個人の実名で検索した場合その個人の逮捕歴、犯罪歴を全て表示してほしいという要望を一定数の人が持っていたとしても、そのような要望に応えるために個人の社会的生命を根こそぎ奪ってしまうようなことが正当化されることは、絶対にありえないことです。
少なくとも、次の記事を読む限り、グーグルは「社会の期待と信頼」に絶対的な価値を認めているわけではないようです。
【例えば「六四天安門事件」を検索すると、米国と台湾のGoogleでは1989年の天安門事件について解説したサイトが出てくるのに対し、中国版では事件について直接記したサイトは表示されず、検索結果のリンクの大部分は機能していないか存在しないWebサイトにつながっていたという。】(ITmedia ニュース)
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可能です。
今回の訴訟で求めているのは、原告が逮捕された事実を表示することの差し止めです。
特定の検索結果を表示しないというのは、特別に難しいことではありません。並のプログラマーであれば、簡単にできることです。
これと違って、人の名誉を毀損するような事実を一切、表示しないようにするという機能を検索プログラムに持たせることは、簡単なことではありませんが、グーグルの優秀なプログラマーであれば、できないことではありません。
ところで、今回の訴訟と異なり、およそ人の名誉を毀損するような事実を表示してはならない、という訴訟は、特定個人の利益を超えた多数の人の利益の実現を目的とするものであって、現在の民事訴訟法の枠組みの中では、認められていません。
もちろん、特定個人の利益を超えた多数の人の利益の実現を目的するものであっても、例外的に、適格消費者団体が消費者契約法違反などを理由に、業者に対して、不当な契約条項の使用の差し止めを求めることが、制度として認められています(消費者団体訴訟制度)。
将来的には、情報サービスによる名誉、プライバシー侵害を根絶するためには、インターネットの世界においても、消費者団体訴訟制度に類似した制度を導入することも考えられるところです。
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リンクも名誉毀損に該当します。
◆ 「リンクを表示する」ことの意味
一口に「リンクを表示する」と言っても、厳密には、次の2種類があります。
例えば、このグーグル監視委員会へのリンクを表示する場合を例にとると、以下のようになります。
@ ウェブサイトへのハイパーリンクを設定する場合 グーグル監視委員会
http://google3defame.nobody.jp
A ウェブサイトのアドレスを表示するに過ぎない場合 http://google3defame.nobody.jp
@の場合、ユーザーは、ハイパーリンクが設定されている文字列をクリックするだけで、リンク先のサイトの内容を見ることができるのですから、このようなリンクを設定する行為自体を、自ら他人の名誉を毀損するような事実を表示したものと評価することが可能です。
Aの場合、アドレスをクリックするだけでは、リンク先のサイトの内容を見ることはできませんが、アドレスをコピーし、ブラウザーのアドレスバー(閲覧中のウェブサイトのアドレスが表示されている箇所で、ここに別のウェブサイトのアドレスを記入して、エンターキーを押すと、そのウェブサイトが閲覧できる)に貼り付け、エンターキーを押す、という一手間をかけるだけで、リンク先のサイトの内容を見ることができるのですから、@と同様に、評価できます。
名誉を毀損する事実を直接に表示しているのは、リンク先の各サイトであっても、このように、ユーザーが直ちにリンク先のサイトの内容を認識できる状態にしているのですから、自ら表示したのと同視しても何ら差し支えないでしょう。
◆ 名誉毀損記事を見るためにワンクリックを要することの意味
インターネットのリンクとは違いますが、こんな例を考えたら、どうでしょう。
出版社が書籍を印刷、製本し、取次店に引き渡すために、倉庫に保管していたとします。この書籍には、作家Aの名誉を毀損する内容が記載されており、事前に、このことを察知したAからクレームが入り、出版社は発行を断念し、社員Bに書籍の廃棄を指示しました。ところが、Bは、大半の書籍は廃棄したものの、50冊だけは自宅に持ち帰り、これをマスコミ関係者50人に郵送しました。
この場合、誰しも、BがAの名誉を毀損したと判断するのではないでしょうか。
書籍を郵送しても、それだけでは受け取った者は書籍の内容を見ることができない、書籍は出版社が作成したものであり、郵便物を受け取った者は「開封」という作業を経て初めて書籍を見ることができるのだから、書籍を郵送した行為は、名誉毀損とは言えない、こんな主張をするとしたら、それこそ、詭弁以外の何ものでもないでしょう。
「郵便物の開封」と「クリック」または「コピーアンドペースト」、両者に違いはあるのでしょうか。
◆ リンクについての裁判例 東京高裁平成24年4月18日判決
プロバイダ責任制限法に基づく発信者情報開示請求を認めるか否かの前提として、名誉毀損があったと言えるか、という点に関し、次のように判示して、ハイパーリンクによる名誉毀損を認めています。
「本件各記事にはハイパーリンクが設定表示されていてリンク先の具体的で詳細な記事の内容を見ることができる仕組みになっているのであるから、本件各記事を見る者がハイパーリンクをクリックして本件記事3を読むに至るであろうことは容易に想像できる。そして,本件各記事を書き込んだ者は、意図的に本件記事3に移行できるようにハイパーリンクを設定表示しているのであるから、本件記事3を本件各記事に取り込んでいると認めることができる。」
◆ リンクについての裁判例 最高裁昭和24年7月9日第3小法廷決定
この判決は、名誉毀損の成否ではなく、児童ポルノ公然陳列罪の成否に関するものですが、児童ポルノが公開されているウェブサイトへのリンクを表示する行為も、自ら陳列したものと言えるとの判断を下しています。
なお、この最高裁決定には、反対意見があり、その内容から推察すると、この事案での「リンクの表示」は、前記の「@ハイパーリンクの設定」ではなく、「Aアドレスの表示」だったようです。
罪刑法定主義の観点から厳格な判断が要求される刑事事件において上記のような判断がなされたわけですから、民法上の不法行為としての名誉毀損に該当するか否かの判断において、リンクが自ら表示する行為と同視されることになるのは間違いないことでしょう。
◆ 共同不法行為者としての責任
ここまで、リンクの表示が、自ら名誉を毀損したことになるか、という点を論じてきました。
しかし、翻って考えると、リンクの表示が、自ら名誉を毀損したことにはならないとの見解を採用したとしても、リンクの表示が、もともとのウェブサイトによる名誉毀損を容易にしていることは明らかです。
そうすると、リンクを表示した者は、幇助者としての責任(民法719条2項))を負うことは疑う余地のないことです。
前記の 最高裁昭和24年7月9日第3小法廷決定 の反対意見は、下記のとおり、正犯が成立するとの多数意見に反対しながらも、幇助犯の成立の余地があるとして、原審に差し戻すべきであるとしています。
【被告人の行為については児童ポルノ公然陳列罪を助長するものとして幇助犯の成立が考えられるのであり、その余地につき検討すべきであって、あえて無理な法律解釈をして正犯として処罰することはないと考えられる。】(大橋正春裁判官の反対意見)
確かに、刑事事件であれば、正犯か幇助犯(従犯)かは刑罰の違いに影響する(刑法63条:従犯の刑は、正犯の刑を減軽する。)のですが、民法上の不法行為の場合、「正犯」であれ幇助であれ、同じ責任を負うのですから、前記の議論は、あまり実益のないことと言えるでしょう。
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そのようなサイトに責任があるのは当然ですが、だからと言って、グーグルが免責される根拠はありません。
新聞社のウェブサイトに記事が掲載されると、犯罪、芸能と言ったジャンル毎に記事を収集して、自分のウェブサイトに転載しているサイトが多数、存在しています。
こういったサイトは「ニュースまとめサイト」と呼ばれ、その時々に話題になった言葉で検索をすると、新聞社のウェブサイトと同じくらい上位に検索結果が表示されます。検索結果の上位にあるサイトほど、ハイパーリンクが設定されている記事見出しがクリックされる確率が高くなります。すると、上位に表示されたサイトには、多くのユーザーが閲覧に来ます。
そして、ニュースまとめサイトを訪問した人の何%かは、サイトに貼り付けてあるバナー広告をクリックして、広告を出している企業のサイトを訪問します。さらに、そのうちの何人かは、その企業の商品を買ったり、会員登録をすることになります。そうすると、その企業から、バナー広告を貼り付けてあったニュースまとめサイトの主宰者に、ご褒美として一定の金銭が支払われます。ニュースまとめサイトの主宰者は、こうした収入(アフィリエイト収入)を目的としてサイトを開設しているのです。
これらのサイトは、アフィリエイト収入を得ることを目的としているのであって、より多くの人が自分のサイトを見に来てくれることを期待して、新聞社のウェブサイトの記事を手当たり次第、自分のサイトに転載しているのですから、名誉毀損の違法性が阻却されるための第2の要件「専ら公益を図る目的」を具備しないことは明らかです。
ところで、新聞社のウェブサイトは、報道価値があるとして掲載した犯罪報道記事であっても、いつもまでも放置するのではなく、名誉、プライバシーに配慮して、一定期間後には削除しています。もちろん、犯罪の軽重、被疑者の属性などによって、削除されるまでの期間は様々ですし、事件によっては、いつまで経っても削除されることはありません。
ところが、「ニュースまとめサイト」は、新聞社が名誉、プライバシーの点で問題があると判断して記事を削除した後も、半永久的に、転載した記事を掲載し続けているのです。
そうはいっても、一般のユーザーは、このような「ニュースまとめサイト」のアドレスを知っているわけではないので、グーグルのような検索サービスがない限り、一般ユーザーの目に触れることはないので、名誉毀損による現実的な被害は、極めて僅少です。
そこで、登場するのが、グーグルなどの検索サービスです。これによって、大量の情報が一般ユーザーの目に触れることになり、甚大な人権侵害を引き起こすのです。このような、いわば、グーグルと、「ニュースまとめサイト」の共犯関係があってこその、名誉毀損なのですから、一方だけに責任があるとは言えないのです。
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個々のサイトに対する削除の請求は、行いません。
今回の原告の方が来られるまで、多数の方の依頼に応じて、そいういったサイトに対し、メールなどで削除請求をしてきました。ほとんどは、素直に削除に応じるのですが、中には、応じないところもあり、そういう場合は、裁判で削除させることになります。
このように個別の削除を続けていても、ネット上の世界から全てを削除することは現実には不可能です。
けれども、検索結果の上位100番以内に、問題の記事が出てこないようになれば、ほぼ、問題は解決したと言ってもいいでしょう。たいていのユーザーは、上位10番〜30番くらいしか見ませんし、上位100番より下の結果まで見る人は極めて稀と考えられるからです。
ただ、上位の記事を削除しても、当然、その分、空きができるので、そこに、下から上位に表示されてくるサイトについても問題の記事を削除させる必要が出てきます。
なお、実際に問題の記事を削除した場合、それがグーグルの検索結果に反映されるには一定の時間がかかる(グーグル検索のタイムラグ)ので、削除したら下位の記事が即座に上位に上がってくる、というわけではありません。
さて、いずれにせよ、下位の記事が上位に上がってくるので、それを削除しなければならないのですが、一体、どれだけの記事を削除すればいいのでしょう。
たとえば、10件に1件の割合で、問題の記事が出てくるとします。この場合、上位100件に問題の記事は10件あるわけですから、この10件を削除します。そうすると、上位100件に10件の空きが出るので、そこに下位の10件が上がってきます。問題の記事は、10件に1件の割合というのですから、その1件を削除します。すると、1件だけ空きが出て、その下の1件が上がってくるのですが、この1件が問題の記事でなければ、目的達成、となるのです。
ところが、問題の記事が、10件に1件でなく、10件に9件出てくるとしましょう。そうすると、上位100件中、90件を削除する必要があります。そこで、その90件を削除すると、空きが90件出てきて、下位から90件が上がってきます。そして、この90件の中に、90×0.9=81件の問題の記事が出てきて、今度は、この81件を削除する必要が出てくるのです。
こうして、全体として削除しなければならない件数は、90+90×0.9+90×0.9×0.9・・・ という等比数列の和になります。
結局、 90÷(1−0.9)=900 件の記事を削除する必要が出てくるのです。裁判までやらなければ削除できないサイトが3%としても、27件の裁判をしなければならない計算です。
しかも、この裁判も、いきなり削除請求の裁判をすることはできず、発信者情報開示の仮処分などが必要なのです。
そう考えると、個別に削除の請求をするのは、時間、費用、労力の点を考えると、現実的ではないのです。
結局、検索結果として出てくる記事中で、問題となる記事の密度が低ければ、個別の削除で対応できますが、密度が高ければ個別の削除では対応し切れないということです。
今回の原告の方は、この8月に相談に来られたときに個人名で検索すると結構な密度で逮捕歴が記載された記事が出てきたため、グーグル、ヤフーに対する削除請求の裁判を行うことになったわけです。
なお、上記の「密度」の問題ですが、同姓同名の有名人がいれば、検索結果として出てくるのは、その有名人の記事ばかりで、問題の記事は上位100件には一件も入ってこない、ということもあります。この場合は、放置していても、現実的な被害はないといってもいいでしょう。また、ありふれた氏名で、全国に同姓同名の人が何人もいる場合は、問題の記事の密度は低くなり、個別の削除で対応できることになります。
今回の原告の方は、このいずれの類型にも当たらなかったために、結果的に、密度が高くなったという事情があり、グーグルの表示を差し止めるほかには現実的な救済手段がないのです。
なお、事前の交渉を経ることなく、いきなり提訴となったのは、サジェスト機能(サジェスト機能の解説へ)の削除ですら争っているのですから、交渉をするだけ、時間の無駄と判断したためです。
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問題と言えば問題ですが、法的責任を問えるかとなると、現時点では、かなり困難だと思います。
この問題は、報道の自由、知る権利と個人の名誉・プライバシー、更生の利益との緊張関係の元に決せられる問題なので、社会一般の見方が変われば、法解釈、法制度としても変わる可能性があります。
例えば、飲酒運転に対する社会の見方は、15年前と一変しています。
1999年の東名高速飲酒運転事故をきっかけとして、2001年の刑法改正で危険運転致死傷罪が新設され、さらに、2006年の福岡海の中道大橋飲酒運転事故をうけて、2007年の道交法改正で飲酒運転の罰則が強化されました。これに伴い、飲酒運転をしただけでも懲戒免職といった事例も増えてきました。
また、報道機関の報道も、以前は飲酒運転をしたというだけで新聞報道されることは極めて稀でしたが、今では、教師、警察官といった人達による飲酒運転の記事を頻繁に目にするようになりました。
無名の一私人が軽微な犯罪で逮捕されたという事実を新聞記事に掲載することは、現時点では名誉毀損にならないとしても、(方向は逆ですが)上記の酒気帯び運転に対する社会の見方が変わったように、事件の軽重、被疑者の属性によっては名誉毀損と判断される時代が来るかも知れません。
それはともかく、単に新聞記事にするのに止まらず、それを自社のウェブサイトに掲載することは、また、次元の違った問題を孕んでいます。
いわゆる「ニュースまとめサイト」は、皆、報道機関のウェブサイトに掲載された記事を取り込んでいるのですから、報道機関の報道が新聞紙上に止まる限り、ネット上での拡散という問題は起こらないのです。アフィリエイト収入を得るために、新聞紙をくまなく読んで、それをデータ化して、自分のウェブサイトに載せる、というのでは、とても、「副業」として割に合うものではないのです。
報道機関自身は、一私人の軽微な犯罪の記事がネット上にいつまでも存在することは、名誉、プライバシーの観点から問題があると考えていて、自社のサイトからは、一定期間経過後に削除しているのですが、一度でもネットに掲載されたら、瞬く間にネット上に拡散して、これをコントロールすることは不可能なのです。
そう考えると、報道機関が、このような事情を知りながら自社のサイトに記事を掲載すること自体を名誉毀損と評価することも、あながち、荒唐無稽な話ではないように思います。
報道機関の皆様には、このようなインターネットの現実を踏まえて、インターネット社会における報道方法を真剣に検討していただきたいと考えます。
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求めていません。
◆サジェスト機能とは
検索語の入力を始めると、グーグルが先回りしてユーザーの意図を推測し、「あなたが検索したいのは、この言葉ではないですか」と、検索語の候補を示唆(サジェスト)してくれる機能です。
たとえば、「グ」と入力しただけで、「グーグルマップ」とか「グーグル」とかの候補が表示されます。
検索語の文字を最後まで入力する手間が省けるのですが、別の語を検索したいときには、少し、鬱陶しく感じることもあります。
便利と言えば便利な機能には違いないのですが、ないから困るというほどの機能でもありません。
でも、グーグルは、「遅いよりも速いほうがいい」という企業理念を掲げている会社なのですから、今後も、サジェスト機能の提供を続けるでしょうし、ますます、便利な機能を提供してくれるのでしょう。参考までに、グーグルの企業理念を以下に掲げます。
【Google は、ユーザーの貴重な時間を無駄にせず、必要とする情報をウェブ検索で瞬時に提供したいと考えています。ユーザーが一刻も早く自社のホームページから離れることを目標にしている会社は、世界中でもおそらく Google だけでしょう。Google は、Google
のサイトのページから余計なビットやバイトを削ぎ落とし、サーバー環境の効率を向上させることで、自己の持つスピード記録を何度も塗り替えてきました。検索結果の平均応答時間は
1 秒足らずです。Google が新しいサービスをリリースするときには、常にスピードを念頭に置いています。】 (Google が掲げる 10 の事実)。
◆サジェスト機能の弊害
意図した検索語と違う結果が表示されて鬱陶しい、というだけなら、我慢もできます。
問題は、「鈴木○○」という人のことをし検索しようとして、「鈴木○○」と入力した段階で、グーグルが、「鈴木○○ 犯罪者」とか「鈴木○○ 逮捕」といったネガティブな言葉をセットで表示することです。
検索者は、こう言った言葉がセットで提示されると、そのうちの何%かは、興味本位で、セットで検索をすることになります。そうすると、「鈴木○○」が、犯罪を犯したとの記事が検索結果として表示されることになります。
「鈴木○○」で検索しただけでは、そういった記事は、遙か下位にしか表示されていなくても、グーグルのサジェスト機能に誘導されることによって、こう言った記事が、多くの人の目に触れることになります。
◆サジェスト機能の差し止め訴訟
この春に、サジェスト機能の差し止めを求めた訴訟で、相反する判決が東京地裁で言い渡されました。
一つは、平成25年4月15日判決で、グーグルに対し、サジェスト機能の差し止めと損害賠償を命じました(産経 2013.4.15)。グーグルの対応が注目されたのですが、結局、グーグルは、判決を不服として控訴しています(日経 2013.6.14)。
その後、別の事件に関する平成25年5月30日判決では、グーグルに対する請求は棄却されています(産経 2013.5.30)。
◆今回の訴訟
今回の訴訟では、サジェスト機能の差し止めは求めていません。
というのは、第一に、今回の訴訟の原告の場合は、ことさらに「実名+逮捕」といったセットで検索をしなくとも、単に実名で検索しただけで、逮捕などの記事が上位に表示されるため、サジェスト機能の差し止めを求める意味がなかったからです。
第二に、サジェスト機能の差し止めについては、既に上記の2件の訴訟が先行しているので、今回の訴訟の争点を徒に増やして訴訟が長期化することを回避し、サジェスト機能については先行訴訟に委ねるのが得策と判断したからです。
◇目次へ◇