債券市場は「壊れた温度計」、日銀は2%目標修正が最良-水野元委員
10月3日(ブルームバーグ):日本銀行の審議委員を務めた、クレディ・スイス証券の水野温氏副会長は、国債市場について「表面的には安定している」としながらも、景気の先行きや財政規律の有無を測る機能は低下しており、「壊れた温度計だ」と語った。また、人々が望んでいるのは景気の持続的回復であり物価上昇ではない、とした上で、日銀は2%の物価目標をいずれ修正するのが「ベスト」との見方を示した。
水野氏は2日行ったインタビューで「長期金利は円安、株高、米金利高という上昇要因にかかわらず、日銀の毎月7兆円の長期国債買い入れが勝る形で低下している」と指摘。「本当に景気が先行き良くなって物価が上昇するのであれば、本来は中長期債利回りは上がるはずだが、むしろ最近下がっているのは需給相場になっているからだ」と語る。
さらに、「日銀が長期金利を安定させていることをいいことに、政府は消費税率を3%引き上げる引き換えとして2%分の財政支出を行おうとしているが、日本の財政状態を考えるとそんな余裕はないはずだ」と指摘。その上で「今の債券市場は財政規律の有無も反映しなくなくなっている。これは量的・質的金融緩和の大きな副作用だ」と語る。
日銀は4月4日に黒田東彦総裁の下で、「消費者物価の前年比上昇率2%の物価安定の目標を、2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期に実現する」として、量的・質的金融緩和を導入。マネタリーベースを新たな目標として、今年末までに200兆円(日銀当座預金は107兆円)、来年末までに270兆円(同175兆円)まで増やすと表明した。
マネタリーベース目標の実現に疑問符当座預金を積み上げるためには、金融機関が国債を日銀に売って、同預金に資金を置いておかなければならない。しかし、法定準備額を超える超過準備を当座預金に抱える金融機関にとって、超過分に適用される0.1%の付利よりも、「もっと良い運用資産があるため、機会損失が生じる」と水野氏は指摘。「量的・質的金融緩和における国債買い入れオペについて、長い目でみると執行リスクが出てくる」という。
さらに、2年程度で2%物価目標が達成できない場合、「この政策を何年も続けていけるか、やってみなければ分からない」と言明。「4、5月のように金利の先高観が強まれば日銀に国債を売る動きも増えるだろうが、金利の低下ないし低位横ばいが続けば、資金供給が思うように進まず、当座預金の積み上がりが遅れる可能性もある」と語る。
水野氏はまた、量的・質的金融緩和の「より重要な問題点」として、波及経路のあいまいさを挙げる。「金融市場への影響については、資産価格上昇に伴うマインド改善や資産効果、緩和的な金融環境、実質金利の低下などポジティブな効果はみえるが、実体経済への波及経路として力強さに欠ける」という。
黒田総裁は2%実現に自信その上で「米国では、長期金利やモーゲージ金利を引き下げ、過去と同じように住宅、個人消費を刺激することで景気が回復してきた。やっていることは非伝統的だが、伝統的な波及経路だ」と指摘。「量的・質的緩和が実体経済にどのような波及経路で影響を与えるか、いまだにはっきりしていない。住宅が売れているのも長期金利が下がったからというより、消費税前の駆け込みの方が大きいだろう」という。
8月の生鮮食品を除く消費者物価指数(コアCPI)前年比はプラス0.8%と事前予想を上回る伸びを示した。黒田総裁は9月20日の講演で、2%の物価安定目標について「実現に向けた道筋を順調にたどっている」と自信を示した。しかし、水野氏は2%の物価目標の是非に対しても疑問を投げ掛ける。
「日銀は2%を目標を掲げているが、欧米諸国で消費者物価 上昇率が1%台前半というディスインフレが定着していることをみても、2%の物価目標はもはやグロバール・スタンダードだとは言えない」と指摘。「家計にとって賃金上昇を伴わずに物価が上がることが一番辛い。既に電気料金が10%上がっていて、生活費も上がっている」と語る。
この政策で皆が幸せになるのかさらに、「ほとんどの人は、デフレ脱却イコール2%の物価上昇だとは思ってないはずだ。『え、デフレ脱却って2%の物価上昇という意味だったの? 不況脱出のことだと思ってました』という人がたくさん出てくるだろう」という。
その上で「仮に1%か、1%から1%半ばくらいの物価上昇が定着し、政府も日銀はよく頑張ったと言って、最終的に2%という『物価安定の目標』を修正し、1%か1-2%にすることができれば、日銀にとってはベストだろう」と言明。「日銀が2年で2%の物価目標の実現を目指して、日本経済が良くなるのか、この政策をやることによって皆が前よりも幸せになるのか、これらを答えられないと、この政策は難しくなってくる」としている。
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更新日時: 2013/10/03 13:22 JST