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【モータースポーツ】

【今宮雅子のGPテラス】韓国、ソチ、ニュージャージー…

2013年10月3日 8時49分

 22戦という、2014年のカレンダーが発表されました。第5戦の韓国は契約上の問題から、第8戦ニュージャージーと第21戦メキシコはサーキットの承認が必要という条件がついていて“暫定”ではありますが…読者のみなさんは、どんなふうに感じておられるでしょう?

 F1の開催地は、商業権を掌握しているバーニー・エクレストンがほとんど“個人的に”商談し、決定していきます。彼がヨーロッパのレースを切り捨て、どんどん新規開催を目指していくのは、伝統的なグランプリより多くの、何倍もの開催権料を要求できるから――この開催権料はテレビ放映権料と合わせて各チームに分配されるため、チームにとっても新規開催地は大切な収入源です。ただし、過去のコンコルド協定に“年間20戦を超える場合には全チームの承諾を必要とする”という条項が存在したのには理由があります。

 あるレース数を超えると、チームは通常の人員で全レースをカバーすることが体力的にも物理的にも不可能になり、人員の増加が必要になります。来シーズンから導入される新しいパワーユニットに関しても「年間5基」という基本でチームとエンジンメーカーが契約を結んでいて、その前提として20戦という枠がありました。2015年には使用基数が「年間4基」に制限されるため、メーカーはもともと1基で5グランプリを走れるための設計を行っており、2014年の5基は“4基+新規則初年度のマージン1基”ですが…5基ルールが変更されないと、このマージンは消えることになります。2015年に関しては規則変更も必要です。

 コストを削減するため、シーズン中のテストが禁止になった時点で各チームのなかにあった“テストチーム”は消滅しました。その一方で、ヨーロッパから遠く離れた“フライアウェイ”がどんどん増えている今日、ファクトリーでは「レースチームから離れてファクトリーベースに異動したい」と希望する人が多く、しかるべき経験を備えたレースチームを維持していくのは簡単なことではありません――若さと体力があれば世界中を転戦するのも楽しいけれど、旅費を抑えるため、連戦でなくとも現地近くに滞在して1ヵ月以上も自宅に帰れないスタッフが多数。家族を持つとそれが家庭内の問題にも発展します。暑さと睡眠不足の現場仕事や長距離移動の連続はベテランになるほど体に厳しく、サーキットからは貴重な経験を備えた“レース屋さん”が姿を消していきます。

 例えばニュージャージーは暫定でカレンダーに載っていますが、もし実現するとモナコ、ニュージャージー、カナダの3連戦。実質上、F1界のメンバーはその大半が4週間、1日も休みのない連続労働を強いられることになります。ドライバーも3戦すべてを100%のコンディションで走ることは不可能――レース前の月曜〜水曜は移動と、時差解消のためのトレーニングプログラムに消えてしまうため、リラックスする切れ目がなく、精神的にも体力的にもベストを維持することが非常に難しくなります。

 F1がこんなに厳しいスケジュールで“巡業”するのには、スポンサーの減少というチームの経済事情が関係しているとはいえ、事実上はエクレストンひとりが決めていることで、新規開催による利益も半分はエクレストンのもの。彼がシンガポールGPには必ずやって来てご機嫌でパドックを闊歩(かっぽ)するのも、シンガポールがもっとも大きな開催権料を支払っているレースだから。バーレーン王室による人権問題をスルーして王室との契約によってグランプリを続けるのも、巨額の開催権料を受け取っているから。そのバーレーンをはじめ、新規開催グランプリが本当に地元の支持を得て発展している例は少なく、グランプリのたびに赤字がかさむと批判されている筆頭が韓国GPです。

 エクレストンの選択に、グランプリ開催地に何かをもたらす、開催国におけるモータースポーツの発展を促すという意識はありません。開催権料がすべて――新しいサーキットの設計は必ずヘルマン・ティルケに委ねられ、意匠重視の、F1だけを考えた巨大な施設が建設されます。結果メンテナンスは大変、地元レベルのレースを行うには大がかりすぎて動線が悪かったり、ひどい場合にはトランスポーターが入らない例もあります。韓国の長いストレートは“市街地の一部”となるフレコミでしたが、2010年以来、周辺の殺伐とした風景に一切変化はありません――サーキットはF1だけを考えて建設したにもかかわらず、まったくフラットで水捌(は)けの悪いストレートでは、小雨でもF1が走行不能になります。巨額の建設費を負わせ、高額の開催権料を要求したのだから、このイベントを大切に育てていこうという意思は、エクレストンにもティルケにもありません。F1マシンがどれくらい盛大に水煙を巻き上げるかも知らず、メーンスタンドでさえお客さんが雨をしのげない設備を建設してしまった富士スピードウェイも、同様の例。

 韓国は回収の見込みのない開催権料と、グランプリを放棄した場合のキャンセル料のはざまで悩み、市街地のニュージャージーはサーキットとして必要な施設とセキュリティーを含めた巨額の開催費用が集まっておらず、プーチン大統領の約束のもと、すんなりカレンダーに入ってしまったロシアのソチもF1よりはるかに大切なのは、冬季オリンピックのための設備を完成すること…22戦が実現するかどうかは甚だ怪しいのですが、チームはいまからそのための対策にあたらなくてはならない、というのが現実です。

 ことあるごとに“キャンセルのおそれ”“開催不可能か”と報道されても、どんどん新規開催を目指すエクレストン。彼がF1を今日のスケールまで成長させた功績は誰もが認めるところですが、ある時点から、F1は彼個人の利益や趣向だけを優先して成り立つ大きさではなくなったと感じます。実際にグランプリをキャンセルしたのはトルコだけでも、採算の合わない開催地は多数。ニュージャージーとメキシコが実現すれば、去年始まったばかりのオースティンにも決して協力的とは言えないカレンダーになります。高額のチケット代を支払って、年間何戦も観戦できるファンの層は限られているのですから…。

 韓国GPを見ていて、セクター2〜3のコーナーを把握できるファンの方はきっと少ないですよね――どこも同じような風景のなか、臨場感が得られないのも新規サーキットの難点。2台がサイド・バイ・サイドの接戦になっても、次のコーナーが右なのか左なのかがつかめないと、ドライバーの勝負を楽しむのはずっと困難です。最近では映像上だけ、ランオフエリアの舗装に実際には描かれていないロゴを載せる手法も発達していて、同じコーナーでもカメラによって広告が載っていたりいなかったり…これも、真剣に観戦している視聴者のことを考えていない一面。

 スパのプーオンやモンツァのレズモ、鈴鹿のスプーンなら広告が映ったり消えたりしても惑わされないですが、ティルケコースではせめて、空いたスペースにコーナー番号を大きく書くくらい、テレビで観戦するファンのことも考えてほしいものです。“世の中、そんなに真剣にF1を見ているファンなんて少数派”と、エクレストンは他を目指しているのかもしれないですが…そうだとすれば、彼自身のビジネスに矛盾が生じるはずです。

 

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