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消える灯火〜海文堂書店閉店〜

(4)「海の人」集い育った

写真:2階にある海事書のコーナー。船や航海に関する本が並ぶ=神戸市中央区、諫山卓弥撮影 拡大2階にある海事書のコーナー。船や航海に関する本が並ぶ=神戸市中央区、諫山卓弥撮影

 海文堂書店の入り口から階段を上がると、壁には直径1メートルほどの木製の舵(かじ)や大漁旗、世界中の海図が所狭しと飾られている。その先に、「海の本」コーナーがある。

 海文堂は名前の通り、海事関連の専門書店だった。総合書店となった今も、航海士になるための参考書や法令書、気象、無線、貿易などの専門書、軍艦の写真集や航海記など1千種類、5千〜6千冊をそろえ、海事書の出版もする。

 前店長の小林良宣(63)は、1980年ごろまで、海事書の棚の前にノートが置いてあったことを覚えている。「○月△日上陸。××君、元気か?」。店を訪れた船員たちがメッセージを残していった。

 60年、航海士の資格「甲種船長」に合格した鈴木邦裕(76)は、ノートに「俺も船長の免状をもらったよ」と書き込んだ。商船高校生だった53年、練習船で神戸港を訪れ、初めて海文堂に立ち寄った。「教科書が全部棚に並んでいる!」と感激したのを覚えている。その後も神戸を訪れるたび、長期間の航海に備えて文庫本や海事書を買い込んだ。鈴木は「海文堂は船乗りの集う場所。日本中の海にまつわる人を育ててくれた」と語る。

 航海に必要な日常生活品などを船に届ける船具店も、海文堂の得意先だ。「○○万円分用意してくれ」と電話が入ると、週刊誌や雑誌を段ボールに詰める。「新造船ができると、1隻で100万円分ほどの本を頼んだこともあったよ」。神戸市中央区の「神戸船用品」前社長の西田次輝(71)は振り返る。沖合に停泊する船には、ボートに乗って本を届けた。

 社長の岡田節夫(63)が小学生のころ、海事書が並ぶ2階は住居だった。元町駅で汽車を降りて神戸港から船に乗る客が、途中で海文堂に立ち寄り、船中で読む雑誌を買っていった。「遅くでも客が来るもんだなぁ…」。夜でもにぎわう店の様子が印象的だった。小学生の頃から海文堂を訪れる西宮市の自営業國松直哉(52)は「店でセーラー服を着た船員をよく見かけたよ」と話す。

 しかし、オイルショック以降、外国人の乗組員が増え、コンテナ船の登場で船の停泊時間が短くなった。ポートアイランドの完成で、船の停泊場所も元町から遠ざかっていった。

 幼い頃から船乗りに憧れて海文堂に通ったという東灘区の設計士中尾健一(50)は、「昔は淡路に行くにも四国に行くにも船だったが、最近は船が身近でなくなった」と語る。「特色ある本屋がなくなるのは残念だけど、時代が支えきれなくなったんだろう」

 神戸の街からまたひとつ、潮の香りが消えていく。(敬称略)

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