さまよう入試:/2 私大の半数、学力試験なし 形だけの儀式に
毎日新聞 2013年10月01日 東京朝刊
以下を漢字に直しなさい。「『カンシン』した」
今春、関西の私立大入試で出された問題だ。答えは「感心」。「感」は小学3年、「心」は小学2年で習う。別の関西の私立大は英語の問題で「Solve(解決する)」の意味を答えさせた。ある高校教諭は「中学2年の定期試験並み」とあきれる。
問題の中身だけではない。北海道大の佐々木隆生名誉教授の調査によると、2009年度入試では学力試験を課す私立大のうち、2科目以下が半数を占める。建築学科で数学を課さない、「グローバル人材育成」をうたいながら外国語を受験しなくても合格できるなど「僅少科目受験」は拡大の一途。科目を減らせば受験生が集まる。4割が定員割れしている私立大は志願者増に躍起なのだ。受験料は1試験当たり3万円ほど。1000人志願者を増やせば3000万円の「増収」も見込める。
しかも、私立大入学者の半数は学力試験を経ない。文部科学省によると12年度の入学者に占めるアドミッション・オフィス(AO)入試利用者は10・2%(4万7210人)。推薦入試(40・3%、18万7361人)も合わせると5割を超す。
AO入試は「偏差値偏重」を見直そうと1990年代以降、私立大を中心に広がった。面接、作文など「人物重視」の入試とされてはいる。
だが−−。
「学力が厳しい生徒にはAOや推薦を勧めている」。関西の私立高の男性教師は打ち明ける。数年前、こんなことがあった。不登校気味の生徒の進路指導に悩み、いくつかの大学に電話をした。すぐに飛んできた入試担当者は開口一番「AOなら大丈夫です」。中には電話口で合格をほのめかす担当者もいた。
AO入試はローマ字読みして「青(青田買い)」とやゆされる。大学ジャーナリストの石渡嶺司さんは「少子化で、早く学生を確保したい大学と一人でも多く現役合格させたい高校の思惑が一致した結果」と言う。「入試はもはや選抜でなく形だけの儀式だ」
大学は学生の学力低下に直面する。文科省の調査では、高校までの内容を教える補習授業の実施大学は09年度で全体の35%。「入学前教育かリメディアル教育(中学高校レベルの学び直し)に取り組む大学は11年度で7割超」。研究学会はそう報告している。=つづく