〔別紙〕
1 当事者の概要
(1) 被申立人法人は、昭和30年に学校法人武蔵工業学園と学校法人東横学園とが合併して設立された学校法人である。法人は、従前、武蔵工業大学及びその付属校、並びに東横学園短期大学及びその付属校を設置、運営していたが、平成21年4月、武蔵工業大学と東横学園短期大学を統合し、その校名を東京都市大学に変更した。
法人は、東京都渋谷区に本部を置き、東京都市大学の外、東京都市大学付属中学校・高等学校などを設置、運営している。
(2) 申立人組合は、昭和47年6月に結成され、法人が設置する学校のうち、東京都市大学付属中学校・高等学校(以下「本件学校」という。)の教職員によって組織され、本件申立時、本件学校の教職員129名のうち、組合員は29名(教員27名、非常勤講師1名、事務職員1名)である。
(3) 申立人東京私立学校教職員組合連合は、東京都内の私立小中高校・幼稚園・専門学校の教職員によって組織された労働組合の連合体であり、本件申立時、申立人組合を含め、約100の労働組合が加盟し、組合員数は約2,500名である。
2 事件の概要
申立人組合と被申立人法人との間では、入試手当、賞与を含む賃金、その他労働条件について、その都度団体交渉を行っていた。
平成21年末、法人は組合に対し、基本給のうち、職能給の決定に査定結果を反映させる新人事制度の導入を提案したが、組合は、組合員に経済的な不利益が生ずることを懸念し、十分な協議が必要と考え、新人事制度の交渉が妥結しないまま推移した。
22年3月5日以降の22年度の入試手当の交渉において、組合と法人とは、新人事制度の団体交渉を継続しており、合意に至らなかったため、法人は、組合員に同手当を支給しなかった。その後の22年度6月期賞与及び2月期賞与並びに23年度入試手当及び6月期賞与の団体交渉でも同様の状態が続き、法人は、上記入試手当及び賞与(以下「賞与等」という。)を組合員には支給せず、組合が法人に賞与等の仮支給を求めても、賞与等の交渉の未妥結を理由にこれを拒否していた。
その後、本件結審直後までに、組合は、法人と合意をして、22年度入試手当、6月期賞与及び12月期賞与については支給を受けたとして請求する救済内容の一部取下げを行った。
本件は、22年度及び23年度の入試手当及び賞与を含む給与改定に係る団体交渉における法人の対応が不誠実な団体交渉に、また、組合との団体交渉が未妥結であることを理由に、法人が組合員に対し、妥結していない23年度入試手当及び6月期賞与の仮支給をしないことが不利益取扱い及び支配介入に、それぞれ当たるか否かが争われた事案である。
3 主文の要旨
(1) 文書の掲示
要旨:当法人が、貴組合との間で行った、平成22年度及び23年度の賞与を含む給与改定に係る団体交渉に誠実に応じなかったことが不当労働行為と認定されたこと。今後、このような行為を繰り返さないよう留意すること。
(2) 前項の履行報告
(3) その余の申立ての棄却
4 判断の要旨
(1) 入試手当に係る団体交渉について
1) 入試手当に係る団体交渉は、組合からの説明要求や資料等の要求に対し、法人は、組合が要求する説明や資料ではないものの、法人の財政状況に関する資料を提示し、入試手当を増額できない理由の説明を行っており、必ずしも十分とはいえないが、それ相応の対応はしているといえる。
2) 一方、組合は、法人が21年度に入試手当の見直しを行った時の交渉では、異議を表明しながらも結果的には妥結をしたにもかかわらず、その1年後、22年度の入試手当については、年度末手当という新たな枠組みで要求し、組合の妥結方針の転換と相まって妥結には至らず、その後も給与改定を含めて妥結できない状況が約2年続いた。このような状況に至った要因は、新人事制度を導入した法人だけではなく、同制度導入後の組合のやや硬直的ともいえる対応にも少なからずあると考えられる。
3) 以上のことを勘案すると、入試手当に係る団体交渉について、法人の対応が不誠実であったとまではいえない。
(2) 賞与を含む給与改定に係る団体交渉について
1) 組合は、法人に対して再三にわたり国立学校の年間給与総額と本件学校の教職員の年間給与総額との比較資料を求めていたが、これは、組合が諾否を検討する前提として、法人における国立学校の年間給与総額の試算方法や、法人の年間給与総額との比較方法について疑問を抱いていたためと考えられる。一方、法人は、年間給与総額の比較は、法人の内部資料としてあることを認めながら、組合に対しては、法人が提示した資料や、国の人事院勧告などの資料をもとに、組合自ら試算することが可能であるとして、組合の要求する年間給与総額の比較表を提示しなかった。
組合にとって、法人が提示した資料などをもとに、法人と国立学校との年間給与総額を試算、比較することは必ずしも容易ではなく、法人の行った試算方法と比較とが明らかにされる必要があった。一方、法人にとって、年間給与総額の比較表を組合に提示することは、難しいことではない。
実際に、法人が組合に提示した資料は、組合の要求する国立学校と法人との年間給与総額の比較表ではなく、8年前の基本給の比較表であり、肝心の国立学校が入っていない年収比較表であったため、これら提示資料から、組合自らが、年間給与総額の比較表を作成するのは困難であると考えられ、法人の資料提示は不十分なものであったといえる。
2) 法人は、組合から賞与等の金額を提示する理由や根拠を求められた場合も、それ相応の理由や根拠を提示して説明していれば十分であると主張する。しかし、本件の場合、法人の資料提示が上記のとおり不十分であり、それを補足すべき法人の説明も、この後、組合が法人に対して、再度年間給与総額の比較表の提出を求めていることからも、組合が納得していないことは確かであり、法人が組合に対し、年間給与総額の比較表を提示し、その算出根拠や試算の方法等について、組合が納得できるよう説明すべきであったといわざるを得ない。
3) 本件審査手続において、法人は、法人と国立大学法人の附属高校及び都立高校の教職員との年収比較ができる試算表を当委員会に提出し、本件審問において、法人側証人が、上記試算表と、組合で試算する数字とで違いが生ずるのであれば、その試算数字の違いについて組合と議論する旨証言した。このような、団体交渉の際に提示可能であった試算表をあえて審査手続まで提示せず、組合に試算を行わせて、その違いを議論すればよいとする法人の態度は、組合の理解を得ようと努めているとはいい難い。また、法人が、このような試算表を団体交渉の際に組合に提示していれば、組合の疑問点もある程度解消され、交渉が前進する可能性があったにもかかわらず、それまでに提示した資料等で組合に試算させようとした法人の対応には、問題があったといわざるを得ない。
4) 賞与を含む給与改定に係る団体交渉における法人の対応は、組合からの要求にある程度答えていたと評価することができる面もあるが、年間給与総額の比較資料の提出及び説明については不十分であり、また、法人は、団体交渉時に提示可能な資料も、本件審査手続に入ってから提示するなど、自らの主張を組合に納得させ、交渉を前進させようとする態度に欠けていた。よって、当該団体交渉における法人の対応は、不誠実なものであったといえる。
(3) 入試手当及び賞与の仮支給について
1) 組合員に対する賞与等の支給は、法人が支給前に支給要領を策定し、支給予定日前の団体交渉の時に、法人が、支給要領の内容について説明し、その後の交渉で妥結した内容に基づいて支払われており、22年度の入試手当の前までは、組合は異議を表明しながらも、法人の提示どおり妥結していた。
2) しかし、22年度の入試手当に係る団体交渉以降、組合は、賞与等の仮支給を要求し、法人と何度も団体交渉を行ったものの妥結には至らなかったため、賞与等が支払われず、組合員の年収は、少ない者でも年間約200万円の減収となった。組合は、賞与等は、生活給的要素が強く、年間で約200万円の減収という大きな経済的不利益により、住宅ローンの返済等に困窮し、組合員だけではなく、その家族にも生活不安の影響が生じたと主張する。さらに、法人が賞与等の未払金を含めた金額に基づき源泉徴収票を発行したため、組合員には、住民税等の負担が発生するなどの事実があった。
3) 確かに、賞与等の不支給により、組合員が年間で約200万円という大きな経済的不利益が生じ、それが生活面や納税面など様々なところに影響を及ぼしていることが認められる。このように、経済的に厳しくなっていくことは、組合としても容易に推測できたものであるにもかかわらず、組合は法人と妥結をせず、その結果、賞与等の不支給状態が続くことによって、組合員が多大な経済的不利益を被ることになったのである。法人は、妥結すれば支払う旨を一貫して述べており、実際に、22年度の賞与等については、双方で妥結をし、法人は、組合員に対し、上記賞与等を支給している。また、法人は組合に対し、賞与の月数について妥結するなら、新人事制度導入前の旧基本給に基づいて賞与を支払うことを提案するなど、一定の妥協案を示して支払う方策を考えていたことが窺われる。
4) また、本件の場合、入試手当に係る団体交渉は、不誠実とまではいえず、賞与を含む給与改定に係る団体交渉は、不誠実なものであったとはいえ、一定の妥協案を示して支払う方策を考えていたことなど、法人の対応によって、組合が妥結できないような状況に追い込まれていたとまではいえないのであるから、組合が法人の提案に同意しなかったことによる結果であるということができる。
5) 約2年間、法人が組合員に賞与等を支払わなかったため、組合員に多大な経済的不利益が生じたことは確かであり、それにより組合員が心理的に動揺し、組合員の家族に影響が及んだものと思料される。しかし、これは、組合が法人の提案に同意しなかった結果生じたことであり、法人が未妥結を理由に、組合員に対し賞与等を仮支給しなかったことをもって、組合員に経済的打撃を与え、組合を弱体化させることを意図したものとまではいえない。
6) 以上のとおり、法人が、団体交渉における組合との未妥結を理由に、組合員に対して賞与等を仮支給しなかったことは、組合員であるが故の不利益取扱い、又は組合の運営に対する支配介入には当たらない。
5 命令交付の経過
(1) 申立年月日 平成23年6月17日
(2) 公益委員会議の合議 平成25年8月6日及び8月27日
(3) 命令書交付日 平成25年10月2日