- 決断力 (角川oneテーマ21)/角川書店
- ¥720
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 ぼくの評価
 (一流棋士の目線から見た思考から選択、決断に至るプロセスがわかる一冊。情報に踊らされている、迷ってなかなか選べないなど、頭を一度整理したいと感じている人におすすめ)
 羽生善治。職業「棋士」。
 将棋のプロである。
 本書は羽生善治氏の棋士としてのスタイルを通じて、限られた時間で集中する力、考えぬく力、決断する力に迫った一冊である。
 将棋の知恵と創造の戦いは仕事にも通じる。
 これはウェブ進化論でも有名な梅田望夫氏も提唱している考えである。
 将棋とビジネスの接点や、棋士がどのように盤面と向き合っているかや決断に至る思考プロセスが本人によってリアルに描かれている貴重な一冊である。
 本書を読む上で意識すべきは将棋における知略がビジネスに通じているところである。
 将棋は歩から王までの20個の駒を交互に指していくシンプルなルールだ。
 成駒といったルールもあるが、交互に一手一手指していく姿は実にシンプルでわかりやすく、そして奥が深い。
 その交互のやりとりはビジネスのやりとりや交渉などに似ており、一手指すごとに相手は次の一手を考え、先の展開を読んでいくのである。
 手駒と9×9の盤面、決められた時間という限られた同じ条件下で相手を追い詰めていく。
 こうした将棋独特のルールと戦法をビジネスの世界に当てはめて考えることができる一冊なのである。
 まず紹介したいのは目次だ。
 これを読めば将棋界史上最強とまでいわれた羽生善治氏が本書を通じて言わんとしていることがわかるだろう。
 第一章 勝機は誰にもある
 1 勝負の土壇場では、精神力が勝敗を分ける
 2 勝負どころではごちゃごちゃ考えるな。単純に、簡単に考えろ!
 3 知識は、「知恵」に変えてこそ自分の力になる
 4 経験は、時としてネガティブな選択のもとにもなる
 5 勝負では、自分から危険なところに踏み込む勇気が必要である
 6 勝負では、「これでよし」と消極的になることが一番怖い
 7 勝負には周りからの信用が大切だ。期待の風が後押ししてくれる
 第二章 直感の七割は正しい
 1 プロの棋士でも、十手先の局面を想定することはできない
 2 データや前例に頼ると、自分の力で必死に閃こうとしなくなる
 3 一回一回の対局には、新たな航海に乗り出す充実感と新しい発見がある
 4 決断は、怖くても前に進もうという勇気が試される
 5 最先端の将棋は、集中から拡散へと進歩している
 6 常識を疑うことから、新しい考え方やアイデアが生まれる
 7 事前の研究が万全な人は、私にとって手強い人だ
 第三章 勝負に生かす「集中力」
 1 深い集中力は、海に深く潜るステップと同じように得られる
 2 集中力を発揮するには、頭の中に空白の時間をつくることも必要である
 3 人間はどんなに訓練を積んでもミスは避けられない
 4 私が対戦する相手はいつも絶好調で、やる気を引き出してくれる
 5 プロの将棋は、一手の差が逆転できる想定の範囲内である
 6 感情のコントロールができることが、実力につながる
 7 わき上がる闘争心があるかぎりは、私は現役を続けたい
 第四章 「選ぶ」情報、「捨てる」情報
 1 パソコンで勉強したからといって、将棋は強くなれない
 2 最先端の将棋を避けると、勝負から逃げることになってしまう
 3 私は、敢えて相手の得意な戦型に挑戦したいと思っている
 4 創意工夫からこそ、現状打破の道は見えてくる
 5 将棋は駒を通しての対話である。お互いの一手一手に嘘はない
 6 将棋上達法――近道思考で手に入れたものはメッキが剥げやすい
 7 スポーツ観戦の七割は趣味だが、三割は将棋に役立つ
 8 コンピュータの強さは、人間の強さとは異質なものだ
 第五章 才能とは、継続できる情熱である
 1 才能とは、同じ情熱、気力、モチベーションを維持することである
 2 子どもは「できた!」という喜びが、次の目標のエネルギー源となる
 3 「真似」から「理解する」へのステップが創造力を培う
 4 「これでいい」という勉強法も、時代の進歩によって通用しなくなる
 5 プロらしさとは、力を瞬間的にではなく、持続できることだ
 6 将棋の歴史には、日本が世界に誇れる知恵の遺産がある
 ※第二章の直感については本ブログの第57回でも取り上げたことがあるが、主張している内容は共通している部分が多い。
 本書にたびたび登場する羽生善治氏の先輩棋士に印象的だった人物がいる。
 米長邦雄棋士である。
 エピソードをひとつ紹介しようと思う。
 -本書40P10行目より-
 先生の名人への思いは人一倍強いものであった。
 1993年(平成5)、米長先生は名人挑戦者になり、中原誠先生に挑んだ。お二人は、実績、実力ともにほぼ互角だったが、名人戦にかぎっては、米長先生は中原先生にどうしても勝てなかった。名人に六度挑み、ことごとく敗れたのである。
 当時、米長先生は50歳を目前にしていた。周りからは、年齢的にも名人になるための最後の機会と思われていた。
 その最後と思われていた機会に米長先生は勝ち、名人位を獲得したのだ。
 名人戦は素晴らしい内容であった。年齢を感じさせない将棋で、力強く勝負強い将棋は一貫している。当時、実際に名人になった瞬間、米長先生がどんな表情をするか、ファンとして興味があった。
 名人になった先生がその就任式で、私を、
 「来年春の名人戦の対局相手として、待っている」
 と名指しで話したというのを聞いて、驚き、うれしく思ったのを思い出す。その年に名人に挑戦できるA級に上がったばかりで、翌年にまさか先生に挑戦することになろうとは考えてもいなかった。
 先生は、名人への夢を実現するためにとんでもないことをした。
 名人を獲得する4、5年前に、自分の将棋を一新させたのだ。今まで培ってきたものをすべて捨て、まさに一から変えた。「泥沼流」といわれたのが先生の将棋であった。その将棋を捨て、若手に教えをこうて、最先端の将棋を一から学び直したのだ。フルモデルチェンジ。こんなことが50歳に近づいた人のできることだろうか。
 だが、米長先生はそれに成功した。
 目的を達成するために年齢に関係なく、プライドや固定概念を捨てられる。
 これはあらゆる分野のプロと言われる人でもできる人は少ないのではないかと思う。
 年齢を重ねるほどプライドが邪魔をしてしまうからだ。
 これができるのはプロの中でも相手を素直に認め、貪欲に学びたいという純粋な思いから実際に行動に移すことができる人たちだ。
 本書が書かれたのは2005年。
 現在でも売れ続け、ぼくが購入したのは35刷。
 すでに50万部を突破している名書だ。
 本書のように長期間で売れ続け、重版を重ねている書物はハズレが少なく学べることが多い。
 ビジネス書にまだ馴染みのない方は最初そういった本を探して購入することをおすすめする。
 本書は文庫本で気軽に読破できる上に、内容が深い。
 深く集中する方法や決断に至る思考プロセス、直感やリスク、継続する大切さなどを将棋の世界を通じて学ぶことができる。
 将棋界の歴史400年。
 史上初の七冠制覇。
 将棋界の歴史を塗り替えた男、羽生善治氏のすごさを改めて知ってほしい。
 埋め込みが無効になっているため、YouTubeからどうぞ。
 http://youtu.be/oKTpJRlTBOc
 ※告知※
 これまでタイトルに「Googleを愛してやまない」と表記するなどブログ開設時からGoogle好きを公言しておりましたが、本ブログをさらに公的な存在へと昇華させる意味も込めまして削除することにしました。
 それでもぼくのGoogle愛は変わりませんし、ブログの趣旨にも変更はありません。
 Google愛はぼくの心の中だけにそっと閉まっておこうと思います。
 何卒ご理解の上、これからも変わらぬご愛顧のほどお願いいたします。
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テーマ:意思決定
第81回となる今回は、羽生善治氏の決断力に迫るこちら
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