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17年ぶり消費増税―目的を見失ってはならぬ

 安倍首相が、消費税の増税を決めた。5%の税率は来年4月から8%に上がる。

 97年4月に3%から5%になって以来、17年ぶりの消費増税だ。これまでは所得税などの減税とセットだったが、今回はない。金額にして8兆円余り。わが国の税制改革史上、例のない大型増税である。家計への負担は大きい。

■一体改革の原点

 それでも、消費増税はやむをえないと考える。

 借金漬けの財政を少しでも改善し、社会保障を持続可能なものにすることは、待ったなしの課題だからだ。

 「社会保障と税の一体改革」という原点に立ち返ろう。

 国債を中心とする国の借金の総額は国内総生産(GDP)の約2倍、1千兆円を突破した。今年度の一般会計では、新たな国債発行が40兆円を超え、予算の半分近くに及ぶ。

 最大の原因は、高齢化に伴う社会保障費の伸びだ。医療や年金、介護の財源は、保険料や窓口負担だけでは足りない。国や自治体が多額の予算を投じており、国の社会保障費は年に1兆円ほど膨らみ続ける。

 将来の世代に借金のツケを回しながら、今の世代の社会保障をやりくりする――。こんなことをいつまでも続けられるはずがない。社会保障を安定させ、財政の危機を未然に防ぐには、今を生きる私たちがもっと負担するしかない。

 では数多い税金のうち、なぜ消費税なのか。

 社会保障による給付は高齢者向けが中心だ。お年寄りの割合は上がり続けており、所得税など働く世代の負担だけに頼るわけにはいかない。

 しかも、現役組は賃金が増えないなか、子育てや教育、住宅など多くの負担を抱える。支援を強化しないと、人口減少に拍車がかかりかねない。

 こうした点を考えれば、国民が幅広く負担し、税収も安定している消費税が、社会保障の財源に最もふさわしい。

 あわせて豊かな人たちを対象に、所得税や相続税を強化する必要がある。格差を縮めるためにも不可欠だ。ただ、これだけで消費増税に匹敵する財源を確保するのは難しい。

■法人税減税への疑問

 政府の責任は、規制改革などで経済を成長させつつ、税金をしっかり集め、むだ遣いせず効果的に配分することだ。この三つの課題に向き合わなければ、増税への理解は得られない。

 ところが、安倍政権は増税で予想される景気悪化への対策を理由に、これに反するような政策を打ち出した。

 5兆円の経済対策である。

 所得の少ない人の負担が重い消費増税では、低所得者への支援策が必要だ。補正予算にその費用を盛り込むのはわかる。

 しかし、対策の柱がなぜ、法人税の減税なのか。

 政権は、与党内の根強い反対を押し切り、法人税の減税方針を打ち出した。東日本大震災の復興費にあてる上乗せ増税を予定より1年早く今年度で打ち切ることや、その先の税率引き下げの検討を急ぐという。

 企業は経済成長の担い手であり、雇用の場でもある。国際的に法人減税の競争が続いているのも事実だ。

 ただ、日銀の統計では、企業(金融を除く)は現金・預金だけで220兆円も抱え込んでいる。多くの企業は、収益が上向いても使おうとしない。

 まず、こうした現状を改める必要がある。安倍首相は税率引き下げをテコに賃上げを迫る構えだが、財政への影響が大きい一律減税の前に、賃金や雇用、投資を増やした企業の税負担を軽くする手立てに集中すべきではないか。

■政権に自覚はあるか

 経済対策は支出面でも疑問がある。代表例が公共事業だ。

 老朽化した社会インフラの更新は急ぐべきだが、公共事業が足もとの景気を支える効果に飛びつき、「金額ありき」で上積みする姿勢がありありだ。バブル崩壊後、毎年のように補正予算を組んで財政を悪化させてきた愚を繰り返すのか。

 消費税の制度そのものにも課題が残る。

 国民が払った税金がきちんと税務署に納められることは税制の大原則である。業者の手元に一部が残る「益税」対策を徹底することが欠かせない。

 業者間の取引に、税額を明示したインボイス(明細書)を導入すべきだ。商品やサービス自体の価格と消費税分の区分けがはっきりすれば、取引時の転嫁がしやすくなり、立場の弱い中小事業者が泣き寝入りすることも減らせる。

 税金は安いにこしたことはない。それでも納税するのは、政府が暮らしに必要な政策に取り組むと信じるからだ。

 消費増税の目的をはき違えていないか。安倍政権は、国民の厳しい視線が注がれていることを自覚すべきだ。

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