毎日新聞 9月22日(日)11時43分配信
地域に根ざして活動する「ご当地アイドル」が全国各地に誕生し、ブームとも呼べる盛り上がりを見せている。名古屋を拠点にする「SKE48」は今や全国区の人気アイドルグループに成長した。その躍進に刺激を受けたのか、東海3県でも多彩なご当地アイドルが生まれている。アイドルやその仕掛け人、そして彼女たちを追いかけるファンの思いに迫る。
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◇全国区目指す「寿司ドル」 「アイドル教室」
ホールに足を踏み入れると、約70の客席はファンで埋まっていた。ほとんどが常連客といい、10人ほどの立ち見客もいる。女性客の姿もチラホラ。ここは名古屋市中区新栄のすし店「寿司処(すしどころ)五一」4階。「寿司ドル」を売り文句にするグループ「アイドル教室」のライブの拠点だ。
華々しい音楽とともにミニスカートのメンバーたちがステージに現れ、約1時間にわたりオリジナル曲を中心に歌い踊る。息の合ったダンスに合わせ、ファンたちが声を合わせてお決まりのエールを送る。独特の熱気が会場を包んでいた。
メンバーは16〜25歳の女性10人。店の3代目オーナー、梅村紀之さん(36)が2009年に結成した。それまで梅村さんは自ら路上で弾き語りをしていたが「家業を継ぎつつ、好きな音楽を続けたい」とグループ結成を思い立ったという。
4階ホールで毎週日曜に行うライブ(前売り1000円)が活動の中心。また、店内でメンバーが接客する食事会(3800円)を開き、メンバーがファンにダンスの振り付けを教える(3000円)ほか、メンバーが握ったすしをファンに販売するイベントもある。
仕掛け人の梅村さんは「他の飲食店との競争が激しい中、今やイベント関連の収入は売り上げの大きな柱」と盛況を喜ぶ。アイドル人気が店を支える形だが「全国区のグループに育てたい」と店外進出に思いをはせる。
12年9月のデビューシングルは「約700枚しか売れなかった」が、梅村さんやファンたちの思いが通じたのか、今年8月発売の2枚目シングル「僕は君に恋をした」はオリコンのデイリーチャート42位を記録した。「次回作では30位以内に入りたい」と梅村さん。メンバーの佐藤明咲(あさき)さん(21)は「知名度を上げ、ナゴヤドームでコンサートをしたい」と夢を語った。
ライブが終われば店の1階で握手会だ。ファンたちはメンバー全員と握手しながら、激励したりライブの感想を語ったりする。常連客が多いせいか打ち解けた雰囲気で、メンバーとファンの距離感の近さが印象的だった。
ファン歴3年の名古屋市西区、派遣社員、青木直也さん(31)は「みんな一生懸命で元気なところが好き。毎日レベルアップしているところもすごい」と喜ぶ。1年ほど前からイベントに通っているという愛知県東郷町の30代主婦は「妹のように思って接している。もっと売れてほしいけど、メジャーになって手が届かなくなってしまったら寂しい」と複雑なファン心理を語った。メジャーとマイナーの境界線で「寿司ドル」はさらなる飛躍を目指している。【安達一正】
◇街おこしが基本 「4−sails」
「大好きな四日市の魅力を地元の人にもっと知ってもらいたい」。こう話すのは、三重県四日市市のご当地アイドルグループ「4−sails(フォー・セイルズ)」のリーダー、前田花乃子(かのこ)さん(24)。グループは2011年10月のオーディションで誕生した。現在は前田さんら17〜24歳の女性3人で活動する。
オリジナル曲は、地元の伝統工芸品として知られる万古焼(ばんこやき)をテーマにした「土鍋deごはん」、コンビナート地区の美しい夜景を歌った「私だけの工場夜景クルーズ」など、四日市に関係する5曲。プロデューサー役は地元でイベント企画やラジオ番組の制作などに携わる藤生(ふじお)善一(よしかず)さん(50)で「歌を通して地元の観光地や物産品などをPRしたい」と話す。
主な活動は、四日市市内のショッピングモールで月1回行う無料ライブ。市内でのお祭りや大きなイベントに登場して楽曲を披露することもあるが、ほとんど「手弁当」での活動が続く。
各地のご当地アイドルに注目が高まる中、最近は市外へのイベント出演の問い合わせも増えてきた。年内のCD発売を目指しており、活動の幅が広がりつつあるが、藤生さんは「三重県や四日市市のPRに役立つイベントなら出演したい」と、あくまで街おこしを基本に据える。【安達一正】
◇歌とダンスで天下取り 「天下布舞 岐阜姫軍団」
名古屋市中区栄のライブハウス。岐阜県のご当地アイドルグループ「天下布舞(てんかふぶ) 岐阜姫軍団」の7人の歌と踊りに、ファンから大きな歓声があがった。
岐阜姫軍団は2010年9月に結成された。「天下布武(てんかふぶ)(武力をもって天下を制す)」を旗印に天下統一を目指した戦国武将・織田信長から「岐阜県を日本一面白き場所にせよ。そして日本を盛り上げよ」との命を受けた姫たち−−という設定だ。武力に代わり歌とダンスで天下を制すとの思いが「舞」の一字に込められている。
メンバーは岐阜県在住で14〜24歳の中学生、高校生、フリーターなど。岐阜市内のスタジオで週1回のレッスンを重ね、週末は名古屋のライブハウスや各地のイベント会場でステージに立つ。7〜8月だけで約30回のステージをこなした。
ファンの愛知県大治町のタクシー運転手の男性(41)は「アイドルとしてのかわいらしさと、ロック調の楽曲の躍動感が魅力」。ライブではメンバーのサインが書かれたTシャツを着て声援を送る。
メンバーの橋本美憂(みゆ)さん(15)は「ステージでは笑顔を心がけているけど、振り付けのことで頭がいっぱいになることがある」とあどけない表情で語る。リーダーの三輪純子さん(22)は「私たちの活動で岐阜県を盛り上げたい。全都道府県を回り、信長公に代わって天下を目指す」と意気込む。【梶原遊】
最終更新:9月22日(日)16時29分