染色体とは

人間を含む様々な生物の体は、たくさんの細胞からできています。細胞のひとつひとつには核(細胞核)という部分があり、核の中にはその生物を形作ったり生きていくために必要な情報が入っています。その情報を担っているのがDNA(ディーエヌエー)です。DNAはとても長いので、小さな核の中に納めるには、特殊なタンパク質と一緒に折りたたむ必要があります。折りたたまれたものは普段見ることが出来ないのですが、細胞が分裂して新しい細胞が生まれる際に凝縮してX型の紐のような形になり、特殊な薬品で染めると顕微鏡で観察することができます。
これを染色体と言います。

染色体は核の中に複数個ありますが、普通2本で1組となり、またその数は生物種毎に決まっています。ヒトの細胞の核には、23組、46本の染色体があります。そのうちの1組、2本の染色体を性染色体と言い、その人が女性になるか男性になるかを決めています。因みに女性はXX、男性はXYと表現されます。

染色体異常

何らかの原因によって、染色体の数や形が変わってしまうことを染色体異常といいます。染色体異常には、生まれつき染色体に異常を持つ場合と後天的に染色体異常が発生する場合があります。後天的に染色体異常を引き起こす原因には、放射線や化学物質、活性酸素や喫煙など様々な要因が考えられています。

放射線には染色体を切断する性質があります。しかし細胞には切れた染色体を修復する働きが備わっていて、切れた染色体のほとんどは元の正常な形につなぎ直されます。ところが、希に間違った場所につなぎ直されてしまう場合があり、結果として異常な染色体を生ずることになります。

染色体異常のなかでも特に放射線の影響を受けて生じ易いものに二動原体染色体があります。細胞分裂のとき、染色体はくびれを持ったX型の紐状の形態をとります。このくびれの部分を動原体と呼び、ひとつの染色体に1箇所あります。図のように、放射線によって切断されたDNAが間違った場所につなぎ直されてしまうと、二つの動原体をもった異常な染色体と動原体を持たない染色体断片が生じてしまいます。

二動原体染色体が発生する頻度は、放射線をどのぐらい浴びたかという被ばく量に伴って増加し、二動原体染色体の発生頻度と被ばくの量には一定の相関関係がある事が知られています。そのため、人の体に強い放射線が当たってしまったような被ばく事故があった際に、白血球を調べ、二動原体染色体の発生頻度から逆に被ばくした放射線の量を推定することが行われています。

低線量放射線と染色体

私たちは、普段の生活の中でも様々な放射線にさらされています。宇宙からは宇宙線と呼ばれる放射線が常に降り注いでいますし、大地からも放射線を受けています。
また食品の中にも放射性物質は含まれており、私たちは食事をするたびに放射性物質を体内に取り込んでいます。
このような日常的に身の周りに存在する放射線を自然放射線と呼んでいます。

自然放射線の量は、土壌の成分や高度などによって違ってきます。
その量の世界平均は年間で2.4ミリシーベルト程度ですが、世界には自然放射線が非常に高い「高自然放射線地域」が存在します。例えば、中国広東省の陽江地域には、自然放射線の量がその他の地域よりも3~5倍も高い地域があります。これまでに様々な研究機関がその影響を調査しましたが、この高い自然放射線が健康に影響するという証拠は得られていません。染色体の異常頻度についても調査を行ったところ、二動原体染色体と環状染色体(異常染色体)が高自然放射線地域ではその他の地域に比べて多く検出されました。

ただし、放射線や化学物質、活性酸素や喫煙など、ほとんど全ての要因でおこるとされる別の染色体異常(転座)を調べたところ、二動原体染色体よりもはるかに多くの染色体異常が見つかり、また個人差も非常に大きいことが判りました。よって、高い自然放射線による二動原体染色体の増加は、別の染色体異常(転座)の個人差の範囲内であると考えられています。

【参考論文】
Tao, Z., et al. Cancer and non-cancer mortality among inhabitation in the high back ground radiation area of Yangjiang, China (1979-1998) Health Phys. 102(2): 173-81 (2012)

Jiang, T., et al. Dose-effect Relationship of Dicentric and Ring Chromosomes in Lymphocytes of Individuals Living in the High Background Radiation Areas in China. J. Radiat. Res. 41: suppl.63-68 (2000)

Zhang, W., et al. Effect of smoking on chromosomes compared with that of radiation in the residents of a high-background radiation area in China. J. Radiat. Res. 45(3): 441-6 (2004)

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