消費税の増税は、社会保障の安定財源を確保し財政再建を図るためにやむを得ない決断だとしても、増税に伴う景気悪化を防ぐ経済対策には疑問がある。
増税でかさむ暮らしの負担を軽減してしかるべきなのに企業優遇策ばかりが目立つ。生活者軽視と言わざるを得ない。これで国民が納得できるだろうか。
安倍晋三首相はきのう、来年4月から消費税率を8%へ引き上げることを正式に表明した。内閣は経済対策を決定。予算措置に企業向けが中心の減税を加え6兆円規模となる。
むろん、経済の回復基調を増税による消費の落ち込みなどで腰折れさせてはなるまい。
企業を起点に、その好業績を設備投資や賃上げにつなげ経済の好循環を生む。それでデフレ脱却と、成長に伴う税収増で財政再建をも図るというのが「アベノミクス」の狙いであろう。
だが、あまりにも企業支援に偏ってはいないか。
予算措置には若者・女性・高齢者の雇用拡大、中小企業の設備投資を支援する補助金といった項目が盛り込まれた。景気回復の実感に乏しい地域経済、中小企業対策は充実させるべきだ。ただ、事業の内容が決まるのは年末のことで、いま明らかなのは企業向けの大減税措置だ。
税を減らすからには、目的と政策効果が明確でなければならない。設備投資を促すための減税、賃上げに対する減税は理解できる。だが、最終結論は12月に出すとはいえ目的も効果も不確かなのは、1年前倒しとなる復興特別法人税の廃止方針だ。
その目的について首相は記者会見で、廃止を検討するのは「賃上げにつなげるため」と説明した。だが、減税分を賃上げに回すか否かは企業の判断いかんであり、どれほど効果があるかは分からないというしかない。
復興の臨時増税は個人も法人も「オールジャパン」で被災地を支えようという連帯の印だ。その絆を首相自らが断ち切ろうとすれば、減税分の代替財源を確保したとしても「復興軽視」との批判は免れまい。消費税増税の趣旨から言えば代替財源があるなら、むしろ財政再建のために使うべきではないか。
消費税は、モノやサービスを購入した消費者が最終的に負担する。所得が低い人ほど負担が重くなる税であり、光熱費や食品の値上げが相次ぐ中、生活再建の途上にある被災者の肩にも重くのしかかってくる。
予算措置の中には低所得者に1万〜1万5千円の現金支給策が盛り込まれ、住宅購入の支援策もある。だが、企業向けと比べれば、大きく見劣りする。
目先のことを言えば、生活者が負担させられる消費税で、あたかも企業の減税分が賄われるようにさえ映る。負担を負うのは独り生活者のみの観が強い。
消費税増税は社会保障制度改革と一体だったはず。復興法人税を廃止するのであれば、政府は年末までに、社会保障の再構築とともに賃金上昇に道筋をつけ、大方の家計に恩恵が及ぶ仕組みづくりに腐心すべきだ。