同相は「児童の性的虐待とネット上のポルノ的なマンガに関連があることをはっきりさせたい」とし、さらに「ひどい内容のコンテンツがネット上に存在し、これに対しEU内でも努力してきた。今回米国との間で新たに合意されたこの協定によって、国境を越えた警察権力と監視体制が強力になる」と話している*3。
こうして欧州では、ネット上のコンテンツに対する監視と検閲が強化されるかに見えた。
エッチなマンガは犯罪を誘発するのか
「児童の性的虐待とマンガの絵には関連がある」「ネット上のポルノ的なマンガは犯罪を誘発する」というのは本当だろうか。児童のポルノ的なマンガの絵を見た人が、実際に児童への性犯罪を犯しているのか。ネット上のコンテンツに対する検閲と監視を強化し、エッチなマンガを全部この世から抹消すれば幼児虐待がなくなるのか?
上記の米・EU間の協定締結に対し、直ちに憂慮の声を上げたのは同じデンマークの前法務相ラース・バルフォロ氏だ。同氏は「想像上の産物と児童への性的虐待に関連があるという科学的な証拠はない。2010年に法務省が依頼して行った調査での結論は、マンガと性的虐待に明確な関連はないということだ」と発言した。
また、この調査を行った医師のエリズ・クリステンセン氏も、マンガを禁止することは全くの見当外れだと話している。
「社会の管理体制をそれほどまでに強化することが、子供への虐待を減じることになるだろうか。マンガに害があるということは証明されていないので、私の意見はマンガという表現の自由をより尊重しなければならないということだ」*4
マンガと犯罪の関連性について、他にも多くの国で研究成果が発表されているが、これまでのところ明快に両者の関連を証明したものはない。
欧州各地でこの問題に関する係争中の事件があったが、今年に入り、次々と「マンガ絵は児童ポルノと同一視はできない」という判決が下っている。
オランダ最高裁も「マンガを児童ポルノと見なすことはできない」
オランダでは今年3月12日、仮想児童ポルノ刑法に抵触するとして係争中だった39歳に対して、最高裁が「『児童ポルノ』の定義は、実在しない児童の写実的でない画像に対してはあてはまらない」とし、被告を無罪としている。
被告が所持していたとされる、問題のマンガの描写を判決文から一部抜粋すると、「推定9歳から13歳の少女が成人男性の前にしゃがみ込み、その際、その男性の勃起した陰茎がその少女の口の近くに保持され、かつ、その少女が自分の右手を自分の膣部に置いている線描画」「推定8歳から12歳の裸の少女が長いすに横たわり、その際、少女は自分の右の肘で体を支え、かつ、少女の左手は膣部に置かれている線描画であり、その際、吹き出しに書かれている文は、『あーっ! マイキーのpee-pee(おちんちん)が大きく硬くなったわ!』というものであり・・・」という内容だ。
*3=http://www.dr.dk/Nyheder/Politik/2012/06/21/0621141217.htm
*4=http://www.avisen.dk/redegoerelse-tegnet-boerneporno-skader-ikke_177620.aspx