'13/9/25
JR北海道への特別監査 民営化の影も見つめよ
秋の観光シーズンも盛りを迎えつつあるのに、イメージダウンは必至だろう。安全軽視としか思えないJR北海道の経営体質が浮き彫りになった。
先週、函館線の駅で貨物列車の脱線事故が発生し、その調査から多数のレールの異常を把握しながら放置してきた事実が判明した。きのう菅義偉官房長官が「極めて悪質性がある」と批判したのもうなずける。
国土交通省はすぐに特別保安監査に踏み切った。おととし石勝線のトンネルで起きた特急列車の脱線炎上事故も、記憶に新しい。その時に続く事業改善命令を視野に入れるという。この際、管理体制の不備を徹底的に洗いだしてもらいたい。
このところ不手際続きのJR北海道には嘆かざるを得ない。特急などの相次ぐ事故やトラブルは目を覆うばかりだ。運転士が自動列車停止装置(ATS)のスイッチを壊し、自分のミスを故障と偽るという前代未聞の事態も発覚した。社員のモラル低下を物語っていよう。
そして特別保安監査を招いた今回の不祥事は鉄道の基本であるレールの保全についてだ。本線や副本線の点検で幅が広がるなどの異常が分かっても最長で1年近く手を打たなかったという。どんな言い訳も通るまい。
リスクを最大限に想定し、万全の備えをする。その姿勢に欠けるなら鉄道事業者としての資質も疑われる。11月から安全対策で減便・減速を進めるというが、2年半後には北海道新幹線も部分開業する。果たして運行は大丈夫かと思いたくもなる。
経営陣の責任は重い。だがトップが交代すれば解決できる問題でもなさそうだ。2年前の炎上事故当時の社長は安全確保を社員に促す遺書を残して自殺したが、その後も根本的な状況は変わらなかった。ずさんな安全管理体制をきっちり検証するとともに、ここに至るまでの背景を見つめ直す必要もあろう。
旧国鉄の分割民営化から26年。不採算路線の多いJR北海道の経営は厳しい。本州3社が完全民営化を果たした中で、いまだ全株式を国交省所管の独立行政法人が持ち、鉄道事業の赤字は国の基金から補われる。
寒冷地ゆえに車両などの維持費が膨らむ事情もあると聞く。そうした状況の中で、安全対策に二の足を踏む雰囲気があったとすればゆゆしき問題だ。
マンパワー不足を指摘する声もある。民営化当時から社員数は半分に減り、中堅の40歳代が特に少ない。保守点検などの技術力が低下してはいないか。
いま資金力を生かし、リニア中央新幹線の開業へひた走るJR東海との差を、どう考えればいいのだろう。本州以外を島ごとに3社に分けた分割民営化の枠組みに、そもそも無理があった印象も拭えない。
だからこそ国は個別の安全対策への指導にとどまるべきではない。JR北海道の抜本的な出直しに十分な役割を果たす覚悟も求められる。かといって経営改善のために不採算路線を安易に切り捨てる発想でも困る。
北海道の鉄路は、日本全体の観光資源でもある。JRグループ、特に隣接の東日本が当面、国の橋渡しによって安全対策で積極支援していく方法が現実的だろう。列島はレールで結ばれていることを、あらためて思い起こしたい。