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【被災地の住宅整備】地元目線が足りない(9月30日)

 東京電力福島第一原発事故で避難する住民の帰還への意欲が弱まっている。全町避難する富岡町の住民意向調査は道のりの険しさを示した。郷里へ愛着がありながら、戻らないと考える人が増えている。他市町村も帰還のペースが遅い。復興策が要望に十分応えていないからではないか。被災者の目線を忘れず、施策に反映させるべきだ。
 富岡町の調査は復興庁が27日に発表した。「現時点で戻りたいと考えている」は12・0%で、昨年12月の前回調査より3・6ポイント低い。「現時点で戻らないと決めている」が46・2%に達し、前回より6・2ポイント高くなった。
 放射線量、原発の安全性への不安が依然大きい。医療や買い物などの環境は戻りそうにない。子どもが転入先の学校になじんだ、避難先で新たな仕事を見つけたなど家庭の事情もある。「戻りたくても戻らない」苦渋の選択を為政者は重く受け止めてほしい。
 東日本大震災の被災地全体で「住民本位の復興」が問われている。中でも住宅整備は切実な問題だ。津波被害の大きかった宮城県石巻市では、仮設住宅から出るのを不安がるお年寄りが目立つ。経済的な蓄えが少なく、災害公営住宅に移った後の生活費の捻出が難しい。仲良くなった隣近所との付き合いを失いたくないとの声も大きい。
 南三陸町は災害公営住宅の建設先が決まらない。「仮設住宅で死にたくない」との声が上がり、町外移転希望者が増えている。
 行政の都合で進める復興は行き詰まる。本県では、県や市町村が主体となり、原発事故や津波被災者向けに災害公営住宅を各地に建設する。場所の選定や間取りはもちろん、周辺住民との交流の場確保など、暮らしに密着した希望をできる限りかなえたい。
 不慣れな土地での暮らしは誰でも心細い。災害公営住宅は長引く避難に終止符を打ち、安心して暮らせる生活の基盤となる。入居を願うお年寄りにも、健康な人、体の不自由な人、一人暮らしなど実情はさまざまだ。農作物や花の栽培を生きがいとする人も多い。耕作地や庭園を周囲に用意するなどの配慮が求められよう。要望をくみ上げ、施策に生かす仕組みが大切だ。
 参考になるのが阪神大震災後に兵庫県で試みられた復興計画作りの手法だ。被災者が計画作りの段階から参加し、建築士ら都市計画の専門家が行政との橋渡しを務めた。誰のための地域づくりか-を問い直し、「何としても戻る」住民が一人でも増えることを望む。(鞍田 炎)

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