少子化が進むなか、生き残りをかける全国の大学が力を入れているのが魅力ある環境づくりだ。
兵庫県西宮市の武庫川女子大学で９月にリニューアルオープンした中央図書館はスイーツが味わえるカフェを設置し、女子大生がおしゃべりしながら学習できるサロン的な雰囲気を打ち出し、注目されている。またハイテク機器を完備したスタジオや華道などができる文化ゾーンも配置。解放感と情報機能を併せ持つ、これまでの大学図書館のイメージを一新する内容になっている。大きく変貌を遂げた関西の名門女子大の図書館を訪ねた。（上阪正人）
キャンパスの正門近くにある中央図書館は地下１階、地上６階建て。蔵書数は約５５万冊で、地下１〜地上５階に通常の開架スペースが配されている。
中に入ってまず目を引いたのは、１階の入り口すぐの場所にある「ライブラリー・カフェ」のスペース。生活環境学科でデザインを学ぶ学生らが内装デザインに参加した約１００席の大型サロンだ。
オープンは１１月１６日とまだ少し先だが、食物栄養学科の教員や学生が作った体に優しい「薬膳パウンドケーキ」など、スイーツが提供されるという。店員は同大の学生がアルバイトで務める。その制服のデザインも学生の意見を取り入れ、リボンやレース部分の細部にもこだわったスタイリッシュなエプロンが採用された。
オープン前だが施設は開放されていて、すでに学生たちが休み時間に弁当やお菓子を持ち込んで、友人とおしゃべりができる自由なスペースとしてにぎわっている。日本語文化学科１年の大谷麻実さん（１９）は「カフェがオープンして、どんなケーキが出るのか楽しみ」と話す。
図書館といえば、飲食や歓談の禁止が常識だったが、ここでは空間を目的別に分ける『ゾーニング』の発想が取り入れられている。同図書館の川崎安子課長補佐は「館内すべてで食べてはダメ、大声で話してはダメ、というのではなく、『ゾーニング』の発想は今の学生たちの考え方にマッチしているのではないか。学生たちも禁止事項をきちんと守ってくれます」。
カフェで、学生たちが重宝しているのが、壁面のカウンターテーブルの１席ごとに備えられた電源コンセントだ。その大半にはスマートフォンの充電器が差し込まれていた。友人と待ち合わせていた短期大学部日本語文化学科１年の岡本真帆さん（１９）は「文化祭の準備のためクラスで集まったり、幹事からの連絡を伝えたりする時、ここでＬＩＮＥを使って友人とやりとりをすることが多い」と言う。スマホをこまめに充電できるだけでも、学生たちにとってはありがたい場所のようだ。
２階にも興味深い施設が並ぶ。１１０インチの大型ディスプレー３台を組み合わせたマルチモニターを設置した「グローバル・スタジオ」。ここでは、ＣＮＮなど海外のニュース専門テレビを放映している。その隣には畳敷きの「日本文化ゾーン」があり、華道や茶道のイベントが開けるようになっている。
６階部分の多目的研修用スタジオ「アクティブ・ラーニング・スタジオ」の設置も今回のリニューアルの目玉。いすや机、ホワイトボードがすべて可動式で、部屋を自由に仕切って講義や会議ができる。
このスペースを初めて使った日本語文化学科「上田ゼミ」の講義の様子を見せてもらった。この日は、中国で日本語教師として約１年半活動したゼミＯＢの報告会で、一昨年卒業生の清水早智さんと中村光さんが講師として赴任中の経験を語り、２３人のゼミ生と交流した。
スタジオには、マイクロソフトのプレゼンテーション用ソフト「パワーポイント」など最新のハイテク機器も完備。真っ白な壁そのものがホワイトボードとなり、そこに講師の２人がパワーポイントによる図と写真のスライドを映しながら、学生たちにわかりやすく話していた。
報告会の後はみんなでお菓子を食べながら、リラックスしたムードで意見交換。ゼミを担任する上田和子教授は「講義のプランに合わせて席の配置を自由に動かせるのがいい」と、使用する教室一つで講義の雰囲気も大きく変わる効果を指摘する。
講義を熱心に聞いていたゼミの３回生、中塚理子さん（２１）も「部屋のデザインも、これまでゼミで使っていた講義室よりも解放感がある。ずっとこちらの部屋を使いたい」と話した。
カフェなどを含む１１月の全面オープンに合わせ、図書館職員の制服も学生の意見を取り入れ、淡いピンクと青色のかわいいデザインの制服に変更するという。川崎課長補佐は「学内で発言力があるベテラン教授陣よりも、若手教員や学生の意見を積極的に吸い上げることで、本当の学生のための図書館ができあがったと思う」と話している。