――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
シルメア・サガ
episode.1 「旅は道連れ「ハテンコウ?」」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「ふんふん、ふふふ~ん、ふふん~ふ~♪」
隣を歩くリルは、音程の外れた鼻歌を上機嫌に歌いながら街道を行く。
「はぁ・・・」
これで何度目だろうか、私は呆れたように溜め息をつく。
「まったくもぅ・・・この子は」
ふぅっ、とまたひとつ。
「んーどうしたの、キャラってば。悪人はやっつけたし、お宝もそこそこ確保出来たし、捕まってた村娘も無事帰れたんだし、今回のお仕事はいいことずくめじゃない!」
「・・・・・・・・・」
私は無聊、と言っていいだろうか?そんな表情をしていると・・・思う。
「山賊をやっつけたってとこまではいいでしょう。でも、財宝のほとんどはおじゃんになって、捕まってた娘たちは軽いとはいえけっこう怪我しちゃってるし・・・村長にはどう説明すればいいっていうのよ・・・気が重くなるのは当然でしょう?」
リルは「ん~」と小さく唸って、
「まぁ、いつもの通り何とかなるでしょ!」
リルは爽快に、あっけらかんと言い放った。
そのいつも通りってのは、私が苦労するって意味なんだけどなぁ。
また、私は深い溜め息をついた・・・
いちおう説明しておくと、事の成り行きは至極簡単だった。
昨日の夜のことだ。旅の途中で立ち寄った村で私とリルが晩御飯を食べていた時、柄の悪いチンピラ三人がお店で飲んでいた。
柄の良いチンピラがいるかは知らないけど、見るからにそんな感じだ。
リルは山盛りに積まれた食事に集中してまったく気付かず、私も面倒臭かったので無視を決め込んでいた。
そうこうしていたら、チンピラの一人がお店のお姉ちゃんにからんで口説きはじめた。こいつはチンピラAとしておこう。
そして、よせばいいのに――そう、本当によせばいいのに、残りの二人が私とリルに声を掛けてきた。
「よう! おねえちゃんたち、見ねぇ顔だな。ちょいとオレたちに酌でもしてくれや」
と、チンピラB。なんてお決まりのセリフだろう。まぁ、この手の手会いにオリジナリティなんて求めてないけどさ。
私はガン無視して、酒場にしては上々の料理に舌鼓を打っていた。リルは・・・言わずもがなだった。
「オイっ! なんか言えよガキっ! 」
ただ、この時、リルに声を掛けてたもう一人が、声を荒げた。リルは気にせず目の前の料理を片付けていく。
リルの食事時の集中力はものすごい。本当に声掛けられていることに気付いてないだけなんだけど、チンピラには分かるまい。
「チビ」のセリフがリルに聞こえてたらジ・エンドだったろう。時間の問題かも知れないけどね。
「クソッ! 舐めてやがんのか? オレたちはこの辺りを仕切ってる『鷹の爪団』のモンなんだぜっ!」
・・・なんか辛そうな名前だなぁ、と明後日のことを考えつつ無視を続ける私。チンピラBはそんなにしつこくなさそうだ。
「テメェ!」
もくもくと食べ続けるリルにブチ切れて、彼女の肩を掴むチンピラC。スローモーションのように手からフォークが落ちる。「あっ・・・」とリル。
あっ、これはヤバイ・・・私は直感的に悟ったがもう遅いのも分かっていた。
ピキーン!
・・・と、音が聞こえそうなほど急速に凍りつくその場。
リルの両手が腰に提げている双剣にかかる。そしてゆっくりと立ち上がる。
私は退避しつつ、周りの客を避難させようとしたが、他の客は既に遠巻きになっていた。至極賢明なことね。
「アタシの・・・」
ふるふると震えている。
「アタシのじゅーしぃお肉ちゃんを返せーーーーーーーーーー!!!」
リルが本気の涙目で斬りかかる。
剣を抜く事も出きずに切り伏せられたチンピラC。
巻き添えを食ってぶっ倒れたチンピラB――これは私に声掛けてたヤツ。
店の娘にセクハラしてたチンピラAはさすがに剣を抜いてはいたが、訳の分からないリルの気迫に押されて数瞬後には床に這い蹲っていた。
「はいはい、おかわり頼んであげるから、落ち着きなさい」
そう言って、リルを宥める。
「キャラ、ホント?」
キラキラと目を輝かせて私を見つめる。
私がこくりと頷くと、いそいそと自分の席に戻り食事を続ける。
「お騒がせしました。ごめんなさいねー」
と、周囲を取り巻く客と店の娘に軽く会釈して私もテーブルに戻る。
わぁぁぁっっ!!
その瞬間、拍手と歓声が店を席巻した。
その後は店の奢りだと料理と酒が私達のテーブルへじゃんじゃん運ばれ、盛大な料理に気を良くしたリルが上機嫌になっていると、村長が呼ばれてきて「困った困った」と話し始め、あれよあれよという間に、この辺りを縄張りにしている辛そうな名前の山賊団退治を引き受けてしまった・・・
正直私は厄介事に首を突っ込むのには反対だったけど、どんちゃん騒ぎの中で村人の一人が言っていた「山賊団が財宝を貯め込んでいる」という一言に興味を持った。
そう、私たちの目的にはお金が必要だからだ。
しかし、だ。
いくばくかの報酬で依頼を受けた私たちは、山賊の根城まで村人Aに案内してもらった。
そのまま夜陰に紛れて奇襲するために、山賊の根城の裏手にそびえる崖の上で夜を待っていた。
じっとしているのに飽きたリルがふらふらしはじめたのは、いつものことなので放置した。こんなんでも剣については私よりも達人で、気配消したり臭いを嗅ぎ分けたりは獣並みなので、そうそう困った事にはならないからだ。
この時に予想外だったのは、リルがいつにも増して突飛な行動に出たからだった。
崖の上にあった大岩に興味を示したかと思うと、おもむろに〝押し出し〟た。人の背丈よりも全然大きい岩を小柄なリルが動かしたんだ。
「えっ」と、私が思った時にはもう遅い。大岩は崖を滑り落ち、ドーンという地響きと共に岩がゴゴゴッっと山賊の根城に沈んでいく。
たまに信じられんことをするリルだけど、これには驚いた。どんだけ馬鹿力なんだよ、とツッコミたかった。
眼下では山賊たちが蜘蛛の子を散らすという表現がぴったりにわらわらと散っていく。確かに奇襲にはなってるけど、これはどうなんだろう?
そんな私の気も知らず、リルは崖に生えている木々や窪みを器用に使って急斜面を滑り降りると、ババーンと右手を高く上げてポーズを決める。
「東大公に仕えし龍子騎(セア・ヴァルナ)が一子にして盗賊王(ロウ・エゼリス)が義娘、紅騎士(カレリア)の愛弟子にして、〝天才美少女剣士〟フィナ・リル・アルスヴェイ――推参!!」
堂々としたいつもの口上だ。何故かいつも「天才美少女剣士」を特に強調する。
まぁ、性格を置いておけば外見は可愛らしいので間違ってはいないけどね。
蜘蛛の子――もとい山賊たちはポカーンと間抜けな面でリルを見ていた。悪人に人権はないがモットーな私たちだが、これには同情を禁じえない。
私や山賊共にとっては「天才」というよりは「天災」なんだよね。本当に。
かくして奇襲は(私の計画は別として)成り行きに近い状態で成功した。
大岩が落ちた所に山賊の頭目がいたらしく、ぺしゃんこになっていた。状況はあんまり思い出したくないので伝えないでおこう。
トップがいない組織なんて烏合の衆。弓が得意な私も後方から支援はしたが、ほとんどはリルのひと暴れで片が付いた。
私もそれなりに剣にも覚えがあるが、非常識な強さってあの娘のみたいなのをいうんだろう。
ただ、問題は頭目がいた場所というのが宝物庫で、財宝もぺしゃんこになってしまったことだった。
潰れた財宝の中には、金銀財宝というよりは山賊の頭目とは思えないほど趣味のいいトルア朝ゆかりの品々や骨董品も多く、もったいないことこの上なかった。この辺りの貴族や商人ならそれなりの値段で引き取ってくれたことだろう。
お家再興のための資金にしようと考えていた私の目論見はご破算だ。
というか、再興したいのはリルがさっき口上たれてた盗賊王ことアイルソートのアルスヴェイ家なんだけどね・・・私の義父でもあるんだしさ。
そう、私とリルは他人だけど、義父であるアイルソートに引き取られてるから義理の姉妹だ。私の方が3つ年上で姉ということになる。
私とリルは同じく義理の娘とはいえ、立場上、私は継承権を持っていなかったので、義妹のリルが後継者にはなっている。まぁ、お家が潰れちゃった今となってはどっちでもいいけどね。
で、山賊討伐というありがちなクエストを片付けて、村に戻ってきた私たちを迎えたのは満面の笑みの村長と村人たち。
「うおっおっほっほー」
私達の正面で、村長は上機嫌でお酒を飲んでいる。
「いやー、すばらしい! おふたりはすばらしいっ! がはははははっ!」
私の右隣に陣取った宿屋のおっちゃんは、ベロベロに酔っぱらって同じ言葉を繰り返している。
「そーでしょう! そーでしょう! アタシはすごいんだぞー! にゃはははははははーーー!」
右隣では、酒も飲んでないリルが酔っ払いたちと同じテンションで高笑いをしている。
「にゃははははー」って、猫かあんたは・・・
場の雰囲気についていけない私は、クピクピと杯の酒をあおる。地酒の産地だけあって美味かった。
「ふぅっ・・・」
私はまた溜め息をつく。
「いやー、フィナさん、すごかったですねー。どこからか颯爽と現われたと思ったら、素晴らしい口上を一声、あとは山賊共をバッタバッタと斬りまくりでしたね!」
と、私らを道案内した後は見守っていた(監視も兼ねていたと思われる)村人。
「そうでしょう、そーでしょーーーーとも! にゃはは、にゃははははははーーーーーーーー♪」
彼はリルの岩落としの所行を見ていなかったらしく、それを好機と見た、賢いリルが飛び込んで山賊を潰したというストーリーになった。
私たちにとっては幸いなことに、岩落としは天災扱いになってしまった。
「ほんにのぉ、ほんにのぅ、ありがたいのぉ、うおっほほほほっ、ほうっっっ、ゲホゲホ・・・」
咽る村長。年を考えたらどうなんだろう。
まぁ、気持ちは分からないでもない。村人にとっては困り者の山賊団を退治してくれたのだから、小さな英雄の誕生だ。
お家再興のためには名声もあって困るものじゃないから、これはこれでいいのだけど、やっぱり私は潰れたお宝が悔しくてたまらない。
「はぁ、もったいなかったなぁ・・・」
ぺちゃんこになった金額を頭の中で計算し、つい呟いてしまう。
「んー? にゃにか言ったー、キャるぁ♪」
お酒は入ってなかったわよね? この娘・・・
「なんでもないわよ。アンタは楽しんでなさい」
「あーいっ♪」
馬鹿な娘ほど可愛いってのも、あながち嘘ではないらしい・・・
山賊退治から数日後、村人たちに惜しまれつつ村を後にした私たちは、街道を南下していた。
何度も言うように、お家再興の資金を得るためにはちょっとやそっとの金額じゃどうにもならない。一攫千金くらい考えないとね。
そんな時、先ほどの村で一人の青年がいい情報をくれた。
南方のトルア公国は昔から武威を尊ぶ風習で、首都で毎年開催している御前試合がある。
これは聞いたことがあったのだけれども、昨年に南大公が他界し、大公位が継承されて新大公の最初の御前試合となる今年は恩賞は思いのままらしい。
実際、崩御された前大公の時には優勝者は貴族になったとも聞いている。これは私たちにとってはお家再興の大きなチャンスだ。
私もそれなりに腕に覚えはあるけれど、リルのデタラメな強さなら優勝も充分狙えるだろう。そう、おばかなことさえバレなければ・・・
カサッ
街道を進む途中、さほど大きくはないだろう林の中ほど・・・木立の擦れる音に混じって、ちょっとした違和感を感じた。
「リル?」
「うん、どうぶつたちじゃない。気配は小さいけど、消しきれてない」
リルが私の言葉を察して頷く。
「もうバレてるわよ! さっさと出てきなさい!」
私はリルが見つめる違和感のある方向に向かって叫んだ。
ガサガサッと草木を分けて現われたのは・・・
→ 赤と黒の服装の二人組。
→ 浅黒い肌をした異邦人。
→ 気のせいだった。
投票画面へ移動します。(投票期間:公開日から3日間)
http://www.yuruwota.jp/vote/silsaga/
この物語りに未だ主人公が不在でも『セカイ』は動いていきます。
さて、みなさんはどの勢力に志願しますか?
→ 北方のカルデアス公国、イレオ旗下に志願する。
→ 西方のシオン公国、ロクト旗下に志願する。
→ 南方のトルア公国、エメンティス旗下に志願する。
投票画面へ移動します。(投票期間:公開日から3日間)
http://www.yuruwota.jp/vote/silsaga2/
―――――――――――――――
くろぬこ 著
イラスト tetsu
企画 こたつねこ
配信 みらい図書館/ゆるヲタ.jp
―――――――――――――――
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません。
- 会員限定の新着記事が読み放題!※1
- 動画や生放送などの追加コンテンツが見放題!※2
-
- ※1、入会月以降の記事が対象になります。
- ※2、チャンネルによって、見放題になるコンテンツは異なります。