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とある魔術の禁書目録外伝 とある科学の超電磁砲『俺の“みこうと”がこんなに暴れ回るわけがない』第四話
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とある魔術の禁書目録外伝 とある科学の超電磁砲『俺の“みこうと”がこんなに暴れ回るわけがない』第四話

2013-09-26 00:00
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      1

 策を練る事はできる。
 最大の問題は、逃げようと思えばどこにだって逃げられるアリシアを、上条達がどうやって追い詰めるのかという点だ。それは、大海原を自由に泳ぐ魚を、人間が手掴みに挑戦するにも等しい。
 これに対して、上条は『問題ない』と答えた。
 こちらから無理に追わなくても、アリシア=マクスウェルの方からやってくるから、と。
「……、」
 誰もいない無人の立川。まるで滑走路のように真っ直ぐ伸びる幹線道路。道が十字に重なる巨大な交差点の中央に立つ上条当麻は、その場でぐるりと周囲を見回す。
 いつの間にか、風景の中に白い少女が立っていた。
 ツインテールの銀髪に控え目なワンピース。
 画像写真の情報が正しければ、彼女がアリシア=マクスウェルだ。
「結局、お前はどっちの人間なんだ?」
 先に声を掛けたのは、上条の方だった。
科学サイド、それとも魔術サイド?」
「それ、分かっていて聞いているよね? これでも科学者の端くれだよ。生憎と、あまりに時代が古すぎて学問と宗教が癒着してしまっていた頃の話だが」
「俺達を巻き込んだ理由は?」
「『エーテル概論』は君が考えているよりずっと不安定でね。純粋過ぎるものは大抵、外部からの刺激には脆弱だ。そしてそういう時は少量の異物をわざと混入させるに限る。突沸を防ぐために塩を混ぜるようにな」
「それだと御坂達を襲った理由が説明できない」
「ある程度の推測はできるが、詳細なデータは実際に『エーテル概論』の中へ投入してみない事には分からない。そして、投入した異物が必ずしも好ましい変化を生み出すとは限らない」
「……つまり、勝手に放り込んだ挙句、邪魔になったから捨てようとしたって訳なのか?」
 ワンピースの少女は軽く肩をすくめた。
 気に病んでいる様子はない。
「大変なんだよ。本当に大変な事なんだ。一度でも完全に安定してしまえば、『ここ』を起点に『エーテル概論』は全てを覆い尽くす。だが、そこに至るまでが難しい」
「……、」
「そんなに簡単に行くのかって顔をしているね? 行くさ。エーテルの存在が否定されているのは、エーテルが存在しなかったからじゃない。アインシュタインを始めとした、何人かの学者が『ない』と言ってしまったから、みんなが『ない』と信じてしまった。だから消失した。それだけの事なんだ。全く新しい世界を一から作ろうって話じゃない。元あった世界を思い出させるだけで良い。きっかけさえあれば、後は勝手に広がってくれるさ」
「そこまでして、何故?」
「理由の開示を求める方が疑問だね。元々、これは、純粋な科学の世界の話だった。何かがねじれて私は胡散臭いオカルトの世界へと締め出された。……UFO信者がUFOの存在を頑なに喧伝する理由は何だ? ネッシーやビッグフットを今でも撮影したがっている連中の熱意の源泉は? そう、認めてもらいたいんだよ、正当に。眉唾の『あるかもしれない』ではなく、厳密に文句のつけようのない『ある』に、だ」
「なるほど」
 上条は一度呟いてから、
「でも、もうほとんど自分で認めてしまっているようなもんだ」
「何が?」
「アンタが今振りかざしているものの正体は、所詮、この右手で打ち消せる程度の『胡散臭いオカルト』の領域から出られない、って」
 わずかに。
 アリシアの頬が、引きつる。
「立体駐車場でアンタは自分から退避した。何故? 俺や高坂桐乃は殺しちゃまずい『有用な異物』だったから? それもあるんだろうけど、もっと単純な理由の方が大きい。アンタは、俺とはぶつかりたくなかった。この右手の持ち主とな。だから、俺が顔を出した時点で迅速に撤退した。……少なくとも、明確な対抗策の準備を終えるまでは」
「思い上がるのがお前の得意技か? その右手は別に万能じゃない。現に、『エーテル概論』の中へと放り込まれている。お前の力は世界を正しく均すものだ。突出した異能や超常を叩いて平たくするものだ。従って、世界そのものの緩やかな変化には対処できない。人類は火を得て、火薬を作り、銃を発明し、飛行機で空を飛んだが、お前の右手では世界を石器時代には戻せない。これはそういうスケールの話だ」
「つまり?」
「新しく世界を作った訳じゃない。世界は、元へ、戻った。お前は赤ん坊に触ったところで、赤ん坊の魂を無に戻す事はできない。それと同じで、あるべき形へ戻る世界をお前は止められない。……魔術結社だの学園都市だのが闊歩する世界なんて『おかしい』だろう? メルルマスケラなんて作品はどこを探したって『見つからない』だろう? だから、私は、世界を、元へ、戻した。この統一された世界には、もうご都合主義のオカルトや架空の娯楽作品の入り込む余地はない。ただ純粋に、残酷なほど純粋に、逆転の可能性なんてどこにもない退屈で安定した現実が続いていくだけだ」
「そうか」
 上条は小さく笑った。
 笑って言った。
「だとしたら、何でお前はそんなに饒舌なんだろうな?」
「……、」
「私は今とても焦っていますって口に出しているだろ、そんなもん。すでに変わった世界は打ち消せなくても、これから変わろうとする世界なら何とかなる。それが幻想殺し(イマジンブレイカー)ってもんだ。そしてアンタは自分で言ったぞ。何の理論武装か知らないが、『エーテル概論』は不安定だから、今、それを安定させるための調整の真っ最中ですってな。……だったら、逆転の目は残っているんじゃないのか? ひょっとすると、ここが最後のチャンスなのかもな」
「……なら、やってみろ」
「そしてこいつは根拠のない仮説なんだが、どう考えたって事件の核はお前にある。大空を泳ぎ、ビルを倒し、人の体をすり抜ける、そんなお前が異能の力に関わっていませんなんて言われても困るだろ。何を使ってどんな理論で世界を変えようとしているかなんて知らないが、お前を倒してお前が宿している『何か』を打ち消せば、この『エーテル概論』とやらも崩れるかもな! 俺達は、元あった『歪んだ世界』へそれぞれ帰れるかもしれない!!」
「ならやってみろ!! どのみち、私がここへ来た時点で勝負は決している!!」

      2

 その瞬間。
 御坂美琴はビルの屋上に立っていた。首を軽くコキコキ鳴らし、自分の能力の『限度』を改めてチェックする。派手にあちこち飛び回るように移動していたが、どうやらガス欠のような事態に陥る心配はなさそうだった。
 強大な磁力はまだまだ自由に操れる。
 そして、それが必要な事態が迫っている。
(……でもまあ、不思議な話よね。世界の組成にエーテルなんて訳の分かんないものが混じっているなら、私の能力だって万全には振るえなかったかもしれないのに。そもそも、ニュートンの頃の科学なら量子論だって機能しないリスクはあった)
 この『エーテル概論』の世界について、細かく実験を繰り返している余裕はない。
 経験則で推測するしかない。
 そして、彼女は知っている。
(……少なくとも、『あれ』が私の磁力で動かせる事は実証済み。それだけ分かっていれば十分か!!)


 その瞬間。
 高坂桐乃は浮かれまくっていた。ビルの陰にこっそり隠れ、大きな『袋』を担いだまま、彼女は兄の京介と一緒に戦いの舞台の全景を眺められる位置と状況をキープしている。
「う、うおおおおおおおお!! 燃えてきたっ、あの上条さんのバトルに絡めるなんてマジで燃えてきた!!」
「……おい桐乃、さっきからちょっと情緒不安定過ぎねえ? 実像は全然違うとか愚痴りまくっていた直後にこれかよ」
「思ったんだけど、上条さんって強敵の前に立たないとただのショボいヤツなんじゃない? 例の幻想殺し(イマジンブレイカー)が、辺り一帯に『異能の力』が蔓延してないと存在するのかどうかも分かんないみたいにさ」
「そりゃ分からんでもないが……」
 京介は妹と一緒に用意した『袋』へ目をやる。
 例の上条当麻に準備を頼まれたものだが、おかげで二人の服はドロドロに汚れていた。
「あーあ、ブランドとか良く分かんねえけど、その服だって高かったんだろ。せっかく奇麗なのにもったいない」
……
 すると桐乃は最初自分の兄の顔を見て、自分の服装へ目を落とし、もう一度兄の顔を見て、そしてこう告げた。
「……あんたのセンスと合致してるって事は、これ、ひょっとして空回りしてんの?」
「ちょっと思いやってみたらこんな感じだよ!」
「ひひっ、冗談だって。なにマジ顔で涙目になってんの」
「……ったく」
「ほんとにセンスがあったら少し言われた程度で考えブレるはずないんだけどね」
「安心させてからの二段落としできやがった!?」


 その瞬間。
 高坂京介は冷や汗で全身びっしょりになっていた。なんていう事はない、本物の殺し合いなんぞに関わらされているのだ。当たり前の反応だろう。今も妹と一緒にビルの陰に隠れてはいるが、相手はそのビルをまとめて倒壊させられる。つまり『盾』としては意味がない。『目隠し』としての効果を失ったら……アリシアとかいう女に気づかれたら、次の瞬間には押し潰されてしまう。
 だというのに隣にいる妹サマはとにかくハイテンションだ。
 呼吸の一つにも気をつけなくてはならない状況だというのがすっぽ抜けているらしい。思えば、高坂桐乃は何かにのめり込むと周りが見えなくなる事があった。
「……それにしても、おまえから聞いてたアニメの話と違って、実際は地味なんだな。こんな『袋』に頼るだなんて」
「ハァ? どこ見てもの言ってんの。上条さんは別にキレたら天使の羽が生えるとかガチモードになったら鬼の角が生えてくるとか、そういう分かりやすい特徴はないの。手持ちの打ち消し能力にどこでも転がってる物を組み合わせて、機転とガッツで絶対勝てないような強敵を倒しちゃうから燃えるんだって! 勝って当然倒せて当然の相手をただやっつけるんじゃないから面白いってのが分かんないの!?」
「その『面白い話』の行方次第で、俺達ここで死ぬかもしれねーんだけど、そこんところはご存知かよ大馬鹿野郎」
 言いながら、京介は思わず頭上を見上げた。
 ビル群のどこか……それも意外と近くに御坂美琴が潜んでいるはずだ。いざこちらの位置がアリシアに露見して『建物の倒壊』に巻き込まれた際には美琴が介入してくれるという手はずになっているが、こんなぶっつけ本番で確約も何もあるのだろうか?
 と。
 すぐ傍にいる桐乃が、何やら胡散臭いものを見るような目でこちらの顔を眺めている事に気づく京介。
「な、何だよ……」
「なにさっきから熱心に真上ばっかり見てんの? そんな事してたって無駄だから。美琴ちゃんは下に短パン穿いてんだかんね」
「ゴミ虫以下の扱いなのは良く分かったが、一応俺にも沽券があるってのを教えてやろうか?」


 三者三様の協力者の目が、舞台の中心へと注がれる。
 準備は整った。
 最初で最後の幕を上げるため、彼らは一斉に動き出す。

      3

 ぶわり、と少女の爪先がアスファルトからわずかに浮かび上がる。
 そのツインテールの長い髪が、左右ともに長大な剣へと変換されていく。
 そう、難しい事はない。
 上条の右手にどれほどの力が宿っていようが、それは結局『握り拳を振り回して届く範囲』でしか効果を発揮しない。アリシア=マクスウェルがほんの五メートル、一〇メートルと浮かび上がれば決定的な安全圏を確保できる。あとは適当なビルを切り崩して生き埋めにしてやれば良い。彼の右手は大量の瓦礫を打ち消す事はできない。
 上条当麻は『エーテル概論』を支えるために有用な異物ではあるが、五体満足である必要はない。生き埋めの状態でも、生存さえしていれば条件は満たせる。
 決定的だった。
 そもそも、一〇〇%勝てる状況と判断しなければ敵の前になど顔を出さない。
 そのはずなのに……、
「悪いんだが」
 上条は淡々と呟いた。
 その右手を、真上へ向ける。人差し指で、天を指す。
「……得意の大空は、もう封じてある」
「っ!?」
 ガシャン! という硬い音に、思わずアリシアは頭上を見上げた。降り注ぐ陽光を塞ぐように、巨大な、何か巨大な……そう、自動車が降り注いでくるのが分かる。二、三台の話ではない。辺り一面を土砂降りのように埋め尽くす、数十数百の世界だ。
 こんな事ができるのはただ一人。
 膨大な磁力を自在に操る、御坂美琴だけだ。
「お前は人の体をすり抜けられるが、『エーテル概論』で作られた街並みには従わなくちゃならない。大空から降ってくる自動車をすり抜ける事もできないはずだ! 違うか!?」
「だったら……っ!!」
 安全圏は上だけとは限らない。
 とにかく距離さえ取れれば良い。例えば、真後ろへ勢い良く泳ぐ事で、水平方向の距離を保てば、やはり上条の拳は届かなくなる。
 だが。
 上条は、真上に向けていた指先を、正面、アリシアの方へ突き付ける。
 いいや、厳密には彼女のさらに後方を。
「後ろへ続く退路もすでに封じてある」
「な、ん……っ!?」
「ここにいるのは俺と御坂だけか? だとしたら目算が甘い。アンタは俺達の他に、いろんな人間を巻き込んだだろう? 異能の力も不思議な事も使えないからって、数に入れるのを忘れていたか? 舞台の上まで上がった以上、誰だって引っ掻き回す資格はあるっていうのに!!」
 慌てたように振り返るアリシアは、そこで驚くべき光景を目にした。
 灰色の。
 入道雲のようなものが、通りを埋め尽くしている。一瞬その正体が掴めなかったが、すぐに思い至った。
「ビルを崩した時に生まれた、粉塵……っ!?」
「高坂兄妹には袋に詰め込んだ粉塵をばら撒いてもらった」
 上条は言う。
「アンタのすり抜けにはいくつかの条件があるんだろう。空気とか水とか、そういうのは無視できるとかな。だけど、ビルの粉塵は建材の一部分だ。コンクリートの床や柱をすり抜けられなかった以上、粉塵だってすり抜けて進んだりはできない。こいつも『当たり』だよな!?」
「……っ!!」
 確かに粉塵は『すり抜け』られない。
 だけど、まだ甘い。
 囲いきれていない。
 そもそも大空を泳ぐように移動して、粉塵の中をそのまま突っ切る事はできる。
 包囲網は成立していない。後方へひたすら逃げれば安全圏は確保できる。
 そう思っていたアリシアだったのだが、
(……本当に、これだけで終わり?)
 ふと、何かが滑り込んでくる。
 冷たい何かが。
(粉塵の中は、『すり抜け』が使えない。勢い込んで全速力で突っ込んだ先に、例えば鋭いコンクリートの塊なんかが置いてあったら……? 私は自分の速度で自分の体を砕く羽目に……)
 すでに。
 上条当麻は踏み込んでいた。
(ま、ずい。私に悩ませて、追い着くのが、狙い!?)
 真上から降り注ぐ、数十数百の自動車の豪雨も気に留めず、ただ標的の顔だけを。
「こんな事をしている場合か? お前だって鋼鉄の天井に押し潰されて死ぬぞ!?」
「だろうな。だけど、その前に『エーテル概論』そのものがぶっ壊れれば問題ない!!」
 拳が。
 飛ぶ。

      4

 バツン!! と。
 上条当麻の拳がアリシア=マクスウェルの顔を捉えた瞬間、ブレーカーでも落ちたかのように、世界は黒一色で覆い尽くされた。




















      5

 御坂美琴は寝ぼけ眼だった。
 常盤台中学の朝は早い。全寮制の名門お嬢様学校と言えば、大体察していただけるだろう。ただし朝が早かろうが何だろうが、寝癖ボサボサでむくれた顔のまま人前へ出るなど、本物のお嬢様として許される事ではない。彼女達は生きる死人みたいな動きでシャワーを浴び、身だしなみを整えながら意識の起動準備を進めていく訳なのである。
 今日もいつもと変わらない一日が始まる。
 何にも変わらないというところにどこか違和感を覚えてしまう美琴ではあったのだが、それが何なのかはまでは掴めなかった。


 高坂桐乃は難しい顔をして首を傾げていた。
 なんかすごい事をしていた夢を見ていた気はするし、その内容もはっきりと、不自然なくらい覚えてはいるのだが、分析に分析を重ねるたびに自分の頭の中身を疑ってみたくなるような夢だった。これではどこぞのコスプレ邪気眼を笑っていられなくなる。
 朝食のため、私室を出て家族の集まる食堂へ向かうと、何故かその場の全員が同じような調子で難しい顔になっていた。こういう奇妙な統一感を眺めると、家族という単語がでっかく浮き彫りになってくる。
 朝食を終えて歯を磨き、身だしなみを整えると、学校へ行くために玄関へ。
 立地上、通る道にそう違いはないはずだが、兄の京介と並んで学校へ向かう事はない。
『ねえねえ、きょうちゃん、知ってる? 今、いんたーねっとで話題みたいなんだけどね』
『あ? おまえがネットとかどういう事? 文通とか伝書鳩とかじゃなしに?』
 が、聞こえるものは聞こえる。
 どうやら兄の京介は隣近所の地味子と一緒に通学路を歩いているらしい。
 どうせ二周も三周も遅れたネットニュースの話だろうなと思っていると、

『何でも、「帰して男」って言ってねえ。みかん箱に入ったツンツン頭の高校生が、元の世界に帰してくれーって騒いでいるんだって。不思議な事はあるもんだねえ』

 ぐりん!! と桐乃と京介は同時に地味子の方へ振り返った。
 紆余曲折あって、幻想殺し(イマジンブレイカー)の少年が元の学園都市へ帰るまでの四八時間を描いた第二章はまた別の機会に……。

      6

『続いてのニュースは明るい話題です。アリシア=マクスウェル女史の提唱する「エーテル概論」が科学誌ヒューマンに掲載され、各界で話題を集めています。これは、万有引力で知られるかのニュートンもその存在を信じていた……』

 それは、ある街頭テレビに流れていたニュース。
 物質化の為されなかった、とある少女の記憶情報の一部が変わった形で漏れ出したもの。
 使い方が変わっていれば、また違った結末に繋がっていたかもしれない情報。

『……理論で、一時はアインシュタインらによって否定されていましたが、このたび、大規模な実験によって全く新しいデータが検出されたとの事です。話題の中心人物であるマクスウェル女史は記者会見の場でエーテルについて、こう語っています』

『実際の所、私はエーテルそれ自体に人生を捧げるほどの執着は持っていません。意外でしたでしょうか? 私は一科学者である事に誇りを掲げています。相対性理論の普及によって、かつてスタンダードだったエーテルという単語が、眉唾な、オカルトの領分へ追いやられた事もまた、あまり興味はないのです』

 ―――しかし、女史は現にエーテル分野の第一人者なのでは?

『そこは否定しませんが、生かすか殺すかは別という事です。問題なのは、エーテルというものが本当に科学の世界から完全否定されたのか、という部分についてです。相対性理論は広く世界に普及されていますが、所詮はここ一〇〇年前後で生まれた新しい概念です。対して、エーテルは紀元前から二〇〇〇年以上人々に長く信じられてきたもの。真の意味で、草の根を刈れているかどうかには疑問が残る』

 ―――詳細な理論が解明されても、人の心に残ってしまうのが問題だと? 例えば、そう、病人の尻にネギを突っ込むといったような。

『ふふ、そうですね。誰かが導く必要があります』

 ―――導く、という言葉の意味について詳しく。

『これは、言ってみればセキュリティソフトの削除作業に似ています。マニュアルに従ってクリックするだけでは、どこかにレジストリの残骸が残る。それがシステム全体に悪影響を及ぼす可能性も否定はできません。そして、エーテルという概念を完全に削除するためには、エーテルについて深く知る専門家の手は必要不可欠です』

 ―――つまり、その、つまりです。あなたはエーテルの存在を証明し、物理の世界を一新するのが目的……ではないのですか?

『ええ、私は殺す側の人間です。削除のめどは立っていますが、チャンスの到来まで一〇〇年で足りるかどうかは不明です。従って、私は私の内部構造に手を加える事にした。エーテル概論と自身の存在を結合させる事によって、疑似的に寿命の概念を超えてみせましょう』

 ―――……。

『私という存在が完全に破壊された時こそ、この世界は真の安定を得る』

 ―――……。

『世界を救うための戦い。そういうテーマも、悪くはないでしょう? 少なくとも、命を懸けてみるくらいの価値はある』



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※『俺の“みこうと”がこんなに暴れ回るわけがない』第四話は10月17日00:00で公開終了となります。

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(C)KAZUMA KAMACHIASCII MEDIA WORKS
他36件のコメントを表示
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文章なげえww
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前回活躍した高坂ご両親が今回は空気に。

とりあえずは爽やかに締めましたな。
マクスウェルだけが後日談で別人になっちゃってますが。
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上条さんのねぐらがとうとうみかん箱に?
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ken
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俺馬鹿なんでよく解んなかった事が一つあんだけどようはアリシアってコンクリの粉塵に囲まれると全く身動き取れんって事?例えば俺らがコンクリの壁や鉄の壁をすり抜けられないけど鉄やコンクリを砕いた粉塵で完全に囲まれても普通に移動できるじゃん。正確に理解できた人がいたら教えて、もし前話辺の読みこぼしとかがあったら指摘してもらえると嬉しい
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>>44
あなたの理解で概ね良いと思います。
本文に「そもそも大空を泳ぐように移動して、粉塵の中をそのまま突っ切る事はできる。」、「(粉塵の中は、『すり抜け』が使えない。勢い込んで全速力で突っ込んだ先に、例えば鋭いコンクリートの塊なんかが置いてあったら……? 私は自分の速度で自分の体を砕く羽目に……)」とあることから、アリシアは、粉塵中を「すり抜ける」ことは出来ないが、粉塵に当たりながら移動することは出来るということでしょう。
上条さんの目的は、アリシアを移動できなくすることではなく、ほんの少し足止めすることであると書かれています。
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ken
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>>46
ありがとうございます
つまり普通に移動は出来るけど視界が遮られてて先が見えずその先に壁か何かがあったら自滅するからビビって動けなかったってことですかね?
バカなんで度々すみません
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>>47
そういうことだと思います。
正確には、アリシアは、壁があるということよりも、上条さんたちが粉塵の中に鋭いコンクリートの塊を置いているかもしれないと考えていたようです。
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you
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俺妹勢が空気すぎるだろwww
まあ最後上条さんが帰ってくるとこまではやっていただけるんですよね(チラッ
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上条さんが今度は俺妹の世界に行った話とか読んでみたいw
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ken
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>>48
どうもありがとうございました
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