「さあ、東京に投資だ」。そんな機運が不動産・建設業界を中心に盛り上がっている。安倍政権は成長戦略の目玉として、国家戦略特区を設ける考えだ。首都東京にヒト、モノ、カネをも[記事全文]
特定の歌を歌えと命じられる。口を動かしているかチェックされ、歌っていないと罰を受ける――まるで時計の針を戻すような動きだ。卒業式などで教職員が君が代を起立斉唱するよう、[記事全文]
「さあ、東京に投資だ」。そんな機運が不動産・建設業界を中心に盛り上がっている。
安倍政権は成長戦略の目玉として、国家戦略特区を設ける考えだ。首都東京にヒト、モノ、カネをもっと集め、世界的な都市間競争を勝ち抜こうと、容積率の大胆な緩和などを検討している。
そこへ、2020年の東京五輪の開催決定が拍車をかける。競技施設や選手村の建設にとどまらず、道路をはじめとする公共インフラ、ホテルやオフィスビル、マンションといった民間施設とも、拡充を急ぐ動きが活発になりそうだ。
しかし、立ち止まって考えたい。首都圏でも急速に高齢化が進む。首都直下型地震など大規模な災害も予想される。必要なのは、「量」を追い求める投資だろうか。
公共インフラでは、老朽化対策が大きな課題だ。64年の東京五輪に合わせて造られた首都高速道路は、取り換えや大規模な修繕を迫られている。他の多くの社会基盤も、高度成長期に集中的に建設された。税金や利用料金を通じた国民負担を抑えようとすれば、新たな施設をどんどん造る余裕はない。
民間分野でも、耐震化が不十分なビルやマンションはごまんとある。建物の省エネ化で温暖化対策を進めることなど、課題は山積している。
こうした大都市の弱点を改め、「質」を高めるための投資こそが重要だ。
2回目の東京五輪は、意識を改める機会としたい。パラリンピックの開催にあわせて障害者にやさしい街に変えていけば、高齢者や妊婦、子どもらも暮らしやすくなり、少子高齢化への対策になろう。
街づくりの妨げとなる空き家・空き室問題では、五輪もにらんだ観光客の受け入れ策として一般の賃貸住宅を宿泊施設に転用するアイデアが出ている。すぐに新設・増設へと走るのではなく、既存の施設を有効に使う姿勢が欠かせない。
都道府県地価調査(7月1日時点)によると、東京圏の商業地の地価は大阪、名古屋圏とともに5年ぶりに上昇に転じた。資産デフレから脱する好機を迎えたのは確かだろう。
しかし、容積率の緩和で投資マネーを呼び込み、地価上昇を後押ししようとの発想では、バブルとその崩壊という愚を繰り返しかねない。
安全・安心に暮らし、働ける街を目指す。その取り組みが地価に反映される。
都市開発の基本である。
特定の歌を歌えと命じられる。口を動かしているかチェックされ、歌っていないと罰を受ける――まるで時計の針を戻すような動きだ。
卒業式などで教職員が君が代を起立斉唱するよう、全国で初めて条例で義務づけた大阪府の教育委員会が、実際に歌っているかどうか、口元を確認、報告するよう府立の全学校長に通知した。
国の学習指導要領は、式典で国歌斉唱を義務づけており、他の教委でも指導を強める動きがある。だが実際にはチェックの対象は起立で、口元の点検まで指示したのは異例だ。
大阪府での義務づけは、橋下徹・大阪市長の考えにもとづく。公務員はルールを守るべきだとの判断から、指導の徹底をはかってきた。
府教委の中原徹教育長は、条例づくりを主導した橋下市長の友人で、府立高校長だった昨年、卒業式で教員の口元をチェックして議論を呼んだ。今回も、「起立斉唱」を義務づけた条例のもとで当然のことを書いたまでだと説明する。
スポーツの国際試合では、選手を鼓舞したり勝利をたたえたりする観客が君が代を歌う風景が当たり前になった。ただ、かつて君が代は、軍国主義教育のなかで戦意高揚に使われた。その反省の思いから、式典での起立を拒否する先生がいるのも重い事実である。
世間の反応は鈍い。学力低下やいじめなど様々な問題を抱える公教育への不信も、「ルールを守らない」先生への厳しい視線につながっている。今回の動きも、そんな空気を読んでのことかもしれない。
不起立教員そのものも激減している。いずれ、君が代に反対した先生がいたことも知らない子ばかりになるだろう。これはよいことなのだろうか。
時の流れとともに、戦争を知る世代が減っていくが、戦後の日本の歩みを方向付けたあの戦争は、決して遠い過去の遺物ではない。
日本が無謀な戦争への道を進んだとき、先生たちはなぜ止められなかったのか。痛恨の体験が、君が代を歌わない先生の思いをかき消していく末に、忘れ去られてよいはずがない。
中原氏は昨年、口元チェックが問題になった後のブログで、この問題では「君が代賛否の人々の意見を、根拠のある史実と合わせて若者に紹介し、人材育成に生かすことが肝要」と述べた。そのとおりだと思う。
教育長として、そのことにこそもっと力を注いでほしい。