今年二月、米アカデミー賞の作品賞に輝いた「アルゴ」は、一九七九年の在イラン米国大使館占拠事件をめぐり、封印されていた最高機密を映画化した作品だ。中央情報局(CIA)がニセ映画の製作を企画、カナダ大使公邸に匿(かくま)われた六人の米大使館員を撮影クルーに仕立てて出国に導く
▼不合理で邪悪な民族のように描かれたと猛反発したのはイラン側だ。三十年以上断交が続く両国の溝は深いが、イラン大統領が穏健派に代わると、対話の回路がつながり始めた
▼米国のオバマ大統領とイランのロウハニ大統領は先週、電話で対話し核問題の早期解決を目指すことを確認した。十五分間とはいえ、トップ同士の会話はイラン革命後は初めてで、歴史的な出来事である
▼冷え切っている日本と隣国との間にも小さな動きがあった。韓国・光州で開かれた日中韓文化相会合で安倍政権発足の後、日中の閣僚が初めて公式会談した。文化から関係修復が始まる気配だ
▼「国際文化交流とは安全保障の不可欠の一部」と指摘したのは梅棹忠夫さんだ。異なる価値を認めることは心中で矛盾を乗り越える辛(つら)い作業だが、戦火を避けるためには不可欠な営みであるという
▼「たがいの文化への理解がじゅうぶんであれば、ほんとうの戦争は起きようがありません。文化は、攻撃をはじめからやめさせるもっとも効率のよい武装です」