遺伝診療にカウンセラー
乳がんを発症する人のうち、10~5%は、遺伝的に発症しやすいとされている。京都大病院遺伝子診療部(京都市)では、専門知識が豊富な遺伝カウンセラーらを配し、こうした不安を持つ患者や家族の相談に乗っている。
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「リスク知りたい」 予防切除選択肢に
米国の人気女優アンジェリーナ・ジョリーさんが、遺伝子の変異で乳がんになる確率が高いとして両方の乳房を予防切除したことについて今春、米紙で公表し、遺伝性乳がんへの注目が高まった。
関連遺伝子は、1990年代に発見されたBRCA1とBRCA2。二つのいずれかに変異があれば、乳がんや卵巣がんは親から子へ50%の確率で遺伝するといったデータがあり、そうした変異は、血液による遺伝子検査で調べることができる。
京大病院遺伝子診療部は、認定遺伝カウンセラーの村上裕美(49)らが中心となって患者の相談に対応している。
村上は、患者の面談に臨む前に、専門医らと綿密な打ち合わせを重ね、家族の病歴など必要なデータを頭にたたき込む。ただ、自らの仕事の本質は「話を聞くことに尽きる」と話す。
乳がんの治療を受けた後に、相談したいという患者が現れた。患者には、乳がんの家族がいた。そして娘もいる。遺伝子検査を受けるかどうか迷っていたが、面談後、「娘に正しいことを伝えたい」と、検査を受けることを決心した。検査は、選択肢の一つで、受けるべきか、受けるなら結果をどうするか、最終的には患者自身の判断になる。村上は「我々はあくまでお手伝いする立場ですが、患者さんがそうした難しい判断を下す際、できる限り正確な情報を提供し、一緒に考えたいと思っています」という。
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遺伝子検査は、健康保険がきかず、京大病院では、25万~30万円かかる。カウンセリングは初診1時間5750円、以後30分ごとに1970円だが、患者の要望は増えている。カウンセリングは2011年に4件、12年に10件だったが、今年は8月までで26件あった。
京都大大学院は、認定遺伝カウンセラーの養成課程を持っており、村上は08年修了の1期生だ。養成課程の責任者である遺伝子診療部教授、小杉真司(55)は「患者と医師、医療者をつなぐカウンセラーの役割は、今後ますます大きくなる」と話す。
検査でBRCA1、2に変異が見つかっても、乳がんや卵巣がんを発症していない人には通常、定期検診が勧められるが、ジョリーさんが受けたような乳房の予防切除を行う医療施設も出てきた。京大病院でも、乳房や卵巣の予防切除ができる体制づくりについて検討を始めている。
日本産科婦人科学会理事長で、京大病院教授の小西郁生(61)は「遺伝子で自分のリスクを知り、行動できる時代になった。日本でも、予防切除が選択肢の一つとなっていくだろう」と予想する。(敬称略、新井清美)
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認定遺伝カウンセラー |
(2013年9月29日 読売新聞)
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