まず業界の常識として、太めの女性はあまり服を買わないとされてきた。いずれ痩せる、または痩せなくてはと思っているため、太っている状態で服に投資したくないという心理が働くと考えられてきた。
そのため、市場に出回っている太めサイズの種類も数も少なかった。こうなると悪循環で、どうせ選択肢も限られているし、店員などの目が気になるということで、太め女性はさらに買い物に行かなくなる。そうなるとアパレル業界は、この顧客層の服をもっと作らなくなる、という具合だ。
というわけで、10兆8000億円市場と推定される米アパレル市場で、「プラスサイズ」が現在占めている割合は15%程度だ。米国女性の平均体重は75キロ。3分の1以上が肥満で、全体の64%がプラスサイズに該当するとなれば、未開拓の巨大市場があることは、素人でも分かるだろう。
では、すでに販売している標準サイズの服を、どんどん大きくして売ればいい、と考えてしまうが、それほど単純な話ではないのだ。
二の足を踏んでいるメーカーが今でも多いのは、服のサイズが大きくなればなるほど、作るのが難しくなるからである。
標準より「やや細め」「やや太め」なら、大まかにかなりの人にしっくりくるサイズ作りやデザインにすることはできる。しかし、プラスサイズのように、かなり体重が増えてくると、人によってヒップラインに肉がついたり、バストが大きくなったり、お腹が極端に出たり、と体型に激しい個人差が出てくる。
そうすると、たとえプラスサイズ16、とうたって作っても、どんな体型を対象にするかの判断が難しくなる。それは売り上げにも直接反映される。パターン作りにも、材料費にも標準サイズよりコストが高くなる。
先月、「Lululemon」という人気スポーツウエアのメーカーが、元従業員から太っている人を差別していると告発された。一番大きなサイズは12だが、10以上のサイズの服は裏の倉庫に保管し、店内には小さいサイズしか置かない方針が差別だというのが告発の内容だった。
Lululemon側は、差別ではなく、会社としてターゲット層を絞ってマーケティングせざるを得ないと弁明したが、実際はコストが高過ぎてプラスサイズに進出できないのが現状だ。しかし、このように社会的なプレッシャーは高まってきている。
痩せている人へのバッシングも
米国では、太っている人は大統領になれないというのが定説だった。巨躯で知られるニュージャージー州の知事が本格的な減量を始めたことで、次期大統領選に立候補するのでは、と真剣に報道されるほど、体重管理は出世に欠かせない要素だ。