脱法・違法ハウス問題に思う:住まいの問題は「自己責任」ではない

2013/09/28


違法状態にあるシェアハウスが問題になっていることを、みなさんご存知でしょうか。


「違法ハウス」問題のおさらい

「違法ハウス」は「脱法ハウス」とも言われますが、法的な安全基準や建築基準法の要件を満たしていないシェアハウスを指します。

貸事務所や貸倉庫として届けられているが、実際は2~3畳に仕切られた小スペースが住居用として貸し出されているシェアハウス。

保証人や敷金・礼金が不要、賃料が格安、都心に近いなどのメリットがあるが、窓や防火器具がなく、避難路も確保されていない施設が多く、建築基準法・消防法・建築関連条例などで住居用施設としての違法性が強い。

利用者は、主に経済的理由から一般の賃貸住宅の契約ができない若者や単身者が大半とみられる。
脱法ハウス とは – コトバンク

毎日新聞に掲載されていた写真を見ると、ちょっと衝撃を受けます。これが「個室」なわけですね。

002

私の場所は1階で広さ2.5平方メートル(1.6畳)。東京都条例が定める居室の最低面積(7平方メートル)の約3分の1だ。利用料は月2万9000円(光熱費込み)。3万円台後半の部屋もある。各室に鍵がかかるが、ベニヤの壁は天井まで届いていない。備品はゼロで電灯も持ち込んだ。

脱法ハウス:1.6畳「住所OK」 記者が滞在してみた- 毎日jp(毎日新聞)

今年5月には、漫画喫茶で知られる「マンボー」が運営していた物件が問題になり、話題が広がりました。

マンボーでは2011年頃からシェアハウス事業を開始(ただし同社では名目上は「レンタルオフィス事業」と主張している)。

(中略)しかし同社のシェアハウスは、消防法上共同住宅に義務付けられる消火設備等が備えられていない、東京都建築安全条例が定める最低居室面積(7平方メートル、約4.3畳)をはるかに下回る約1.7畳ほどの広さしかない部屋が存在するなど、様々な面で問題を抱えていた。これらの理由から一部メディアでは「脱法ハウス」とも称されている。

マンボー (インターネットカフェ) – Wikipedia

社会問題としての認知が高まってきたこともあり、国土交通省も規制に乗り出しています。ただしこの規制に関しては、今まさに批判と懸念が広がっています。

他人同士が一つの家に集まって住む「シェアハウス」のうち約8割の2000棟以上が、国などの基準で「不適合」とされる可能性が高いことが分かった。

狭く危険な「脱法ハウス」の問題に取り組む国土交通省が今月、シェアハウスを含む複数人の居住施設の事実上の規制に乗り出したためで、部分的な改修で対応できない物件も多数に上るとみられる。

業界には「安全に配慮した普通のハウスまで排除するのか」「廃業が続出しかねない」と懸念が広がっている。

シェアハウス:8割が不適合 「寄宿舎」基準、業界懸念- 毎日jp(毎日新聞)

毎日新聞の加藤記者は次のような意見を提示しています。

基準を厳格に適用した場合、「4LDKの戸建てを4人でシェアする」などのケースも法令違反となり得る。新規参入は激減し、同省が別途進める「空き家対策」の貴重な手段も失う。

賃貸物件の初期費用や連帯保証人を用意できず、シェアハウスを選ぶしかなかった人も多い。新たな居住支援策が示されないまま、2000棟から数千〜万単位の居住者が追い出されれば、どうなるのか。

シェアハウス:場当たり規制 現状認識欠く当局の対応- 毎日jp(毎日新聞)

加藤記者が語るように、このまま「受け皿」なしに規制が進んでいけば、居場所を失う人々が発生することが懸念されます。この点に関しては、9月26日に「住まいの貧困に取り組むネットワーク」などの民間団体が、国土交通省に申し入れを行っています。

このなかでは、違法ハウスが閉鎖された場合入居者に対し一時的な住まいとして公共の施設を提供することや、新たな住まいを借りるための敷金や礼金などの費用を無利子で貸し出すことを求めています。

違法ハウス廃止後入居者支援を NHKニュース

駆け足にはなりますが、違法ハウス・脱法ハウス問題をざっくりまとめると、このような流れになります。すでに見た通り、規制のあり方次第では「シェアハウスに暮らさざるをえない」人々が排除される可能性があるため、今は重要なフェーズにあるといえます。

話の進み方によっては、マンボーの違法シェアハウスから追い出された人が、居場所をなくして漫画喫茶のマンボーで過ごすことになる、というブラックジョークのような末路すら考えられます。


そもそも「住まい」は「自己責任」なのか

こうした「住まいの貧困」に関する問題の背後には、「住居の確保は自己責任である」という価値観があることを指摘できるでしょう。


長らく、日本の住宅政策は「一国一城の主」になることを支援することに重きを置いてきました。国として支援をするから、ローンを組んででも、自力で家を買いなさい。それによって、経済は富み、市民の生活が向上する、と。

高度経済成長の時代にはそれでも良かったかもしれませんが、経済が停滞し、貧困問題が表面化してきた昨今では、「借金して家を買いなさい」なんて話は最高にナンセンスです。

家を買うどころか、家賃すらまともに払えない人が増加しています。そういう人々が「ネットカフェ難民」になり、「ゼロゼロ物件」で「追い出し屋」の被害にあい、「違法ハウス」の住人になり、「若者ホームレス」になっているわけです。国を挙げて住宅ローン減税とか言っている場合じゃないと、ぼくは思ってしまいます。


常識的に考えれば、収入が低い人々向けに安価な「公営住宅」を提供すればよさそうなものです。十分な低家賃住宅が用意されていれば、違法なシェアハウスに住まう必要などなくなりますから。

しかし、現実には、公営住宅の倍率は非常に高く「入ろうと思っても入れない」状態にあります。平成19年度の段階では、東京ではなんと28.3倍、大阪で20.8倍、全国平均でも8.7倍となっています。


一方、世界を見ると、公的な住宅の建設は増加している現状があります。

日本に流布しているのは「今から公的住宅を建てるはずがない」という言説です。

しかし、リーマンショック後の西欧諸国では社会住宅の建設が再開しました。持ち家率が8割以上のスペインのような国でさえ、社会住宅供給や家賃補助を開始しました。

東アジアでは、韓国が公的住宅の大量建設に着手しました。中国はずっと持ち家重視でしたが、住宅バブルで若い人が家を買えなくなって、公的賃貸住宅を建て始めました。

日本は内向きになって奇妙なイデオロギーに縛られたままです。世界の動向をもっと知るべきです。

「福祉可」物件と、生活保護費の無駄遣い。日本の貧困な住宅政策(2/3) | BIG ISSUE ONLINE

公的住宅が足りないなら、民間の物件に入れるよう「家賃補助」を提供するというアプローチも考えられます。が、ご存知のとおり、日本では広く利用できる家賃補助制度は用意されていません。この点に関しても、諸外国との差異が指摘されています。

若年単身者は公営住宅入居資格すらないというのは、先進国の中では日本ぐらい。公営住宅を増やし、なおかつ若い単身者にも入居資格を与えるということが必要ですね。また、国の家賃補助政策がないのも先進国で日本だけです。住宅政策は国土交通省が所管し、社会政策ではなく建設政策とされてきたため、援助の対象となったのは建物を建てることだけでした。

平山洋介さん「国の家賃補助政策がないのも先進国で日本だけ」(2/2) | BIG ISSUE ONLINE


世界を見渡せば、住宅の問題を「貧困問題」として捉え、福祉的なアプローチで解決しようと考えている国々があります。言い換えれば、安価な住宅を提供することが「国の役割」になっているということです。

しかし、日本においては、それは国の役割だとは考えられていません。「安価な住宅提供」を、他でもない市民が、国政に求めていません。

実際、脱法ハウスに住まう当事者の人の言葉を聞いたことがあるのですが、恐ろしいことに、彼はそこに住んでいることを「自己責任」と捉えていました。「自分は確かに違法であるらしい、劣悪な住居に住んでいる。貧困状態と言ってもおかしくないが、まともな家に住めないのは自分が悪いので、仕方がないことだ」と。

これはいささか極端な例かもしれませんが、多くの人は、同様の思考に陥っているとも思います。つまり、ぼくらの大部分は、住まいの確保にまつわる問題に関して、「国のせい」にするという発想が乏しすぎるのです。

市民の意識が低ければ当然、国も住まいの問題に目が向かないわけです。実際、先般の選挙においても、貧困対策としての住宅政策にまつわる議論を扱っていた政党は、公明党、共産党、社民党、緑の党とごく一部でした(2013年参院選!各政党のマニフェストを比較してみる(住まいの貧困、住宅政策関連))。


ぼくらには適切な住まいを得る「権利」がある

住宅問題の文脈では、「居住(住まい)の権利」という言葉があります。適切な住まいを得るというのは、「人権」のひとつだ、という考え方です。これは何ら新しい考え方ではなく、1948年の世界人権宣言のなかで、すでに言及されています。

世界人権宣言(国連総会、1948年)

第25条 第1項 すべての人は、衣食住、医療及び必要な社会的施設等により、自己及び家族の健康及び福祉に十分な生活水準を保持する権利並びに失業、疾病、心身障害、配偶者の死亡、老齢その他不可抗力による生活不能の場合は、保障を受ける権利を有する。

居住の権利

権利、権利と唱えるのも違和感があるのですが、今の現状は、あまりにも「自己責任」に追いやりすぎだと感じます。自分が劣悪な住まいに住まざるを得ないのは「自分が悪いから」。貧乏人が劣悪な住まいに住まざるを得ないのは「努力が足りないから」。

一度そういう「自己責任」バイアスをリセットし、ぼくらには基本的な人権として、適切な衣食住を得る権利があることを認識すべきでしょう。具体的な議論は、そこから始まります。


参考になる記事、ウェブサイトを下記にリストアップしておきます。住宅政策については、残念ながら、ほとんどオンラインでも情報が発信されていないのが現状です。詳しい方に聞いたところ、研究者も少ない領域だとか…。

住まいの貧困に取り組むネットワーク ブログ
住宅政策の研究者・平山洋介さん「親の家にとどまる若者が非常に増えているんです」(1/2)
コンビニ、押入れ、レンタル倉庫…「脱法ハウス」と知られざる「住まいの貧困」(1/3)
追い出し屋、脱法ハウス…「住まいの貧困」の現状がリアルできつい
平山洋介「住宅政策のどこが問題か <持家社会>の次を展望する」
本間義人「居住の貧困」


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