ハーバード大人脈活用し市場席巻、コネ社会中国に挑む米企業
9月27日(ブルームバーグ):蒸し暑い7月の晩。米日用品直販大手アムウェイについて語るツァオ・ユチャオ氏に、中国安徽省合肥の会場に集まった1000人が拍手喝采する。
アムウェイの地方責任者のツァオ氏が「栄光」と「夢」を意味する中国語が書かれた虹色の幕を背にしながら説明するのは、同社の輝かしいプロフィールだ。化粧品「アーティストリー」や栄養補助食品「ニュートリライト」の販売好調で、中国は9年間にわたり同社にとって最大の市場となっている。2012年ロンドン五輪では中国チームのスポンサーも務めた。ブルームバーグ・マーケッツ誌11月号が報じている。
ツァオ氏は「ニュートリライト製品が理由で選手たちが勝利を収めたと断言することはできないが、すべてのメダリストが表彰台に上るまでの過程でニュートリライトを摂取していたと間違いなく言える」と話す。
同氏は集まった販売員や新たに販売員になる可能性のある人々に対し、アムウェイの報奨金の素晴らしさも伝える。同社は570億人民元(約9200億円)の手数料とロイヤルティーを中国のディストリビューターに支払い、販売成績優秀者をパリ・ローマ旅行にも無料招待している。
不可能なことはないツァオ氏が紹介した数十人の成功者たちは聴衆に「自分を信ずれば不可能なことなどない」と語り掛ける。鉄道省の仕事を辞めてアムウェイに携わったガオ・ハンピン氏は、自身の高級車や庭付き住宅の映像、ラスベガスでの休暇写真などを見せながら、「アムウェイで働くのは厳しいからやりたくないと言う人もいる」が、「懸命に働くことこそ成功の鍵だ」と強調する。
1959年に米ミシガン州の小さな町で創業したアムウェイは、一軒一軒売り歩く行商人の企業版である同社の直販システムが富と幸福をもたらす道だと売り込んできた。現在では世界約100カ国・地域で2万1000人余りを雇用。約450種類の製品を300万人を超える非雇用販売員である「独立事業主」のネットワークを通じて販売している。
社名の由来である「アメリカン・ウェイ」は現在、中国への依存がますます高まっており、親会社アルティコアの昨年の世界売上高113億ドル(約1兆1000億円)の40%近くを同国が占めた。中国が15年前に直販を全面的に禁止し、同社の成長が危ぶまれたことを考慮すれば、目覚しい好転だ。
アムウェイは事業モデルを見直し、初めて店舗を開設したことで中国で地歩を取り戻すことができた。また、米国で最も権威のある教育機関、ハーバード大学と提携したことも評判の回復につながった。
アムウェイ・フェローハーバード大学ケネディ行政大学院は、アムウェイが年間約100万ドルのコストで資金援助するプログラムを通じ、中国共産党職員向けのトレーニングを実施している。2002年のプログラム開始以来、500人を超える中国当局者がマサチューセッツ州ケンブリッジを訪れ数週間にわたり公共政策を学んでいる。どのグループもミシガン州エイダにあるアムウェイの本社も訪問する。
中国はビジネスで人脈が何よりも物を言う社会。アムウェイがそんな中国で非常に大きな販売網を構築できたのはハーバード大学のプログラムのおかげだ。「アムウェイ・フェロー」として知られるプログラム参加者のリストは公表されていないが、ブルームバーグ・マーケッツ誌は政府刊行物やウェブサイトにある経歴書から50人の卒業生たちがプログラムに言及しているのを確認した。
アムウェイ・フェローには河南省や陝西省などの現職リーダーや南京市、無錫市の党幹部などが含まれる。また、このリストにはアムウェイの主要商品である栄養補助食品と化粧品の販売認可業務を手掛ける中国食品薬品監督管理局の地方局トップになった2人も含まれている。さらに、直販を監督する政府機関の元当局者も卒業生の1人。
プログラムがスタートして以来、中国でのアムウェイの販売は4倍強に急拡大した。マルチ商法だと世界中で批判を浴びたアムウェイは、そうした商法に反対運動を展開する企業と自らを位置付け、中国当局者を取り込んでいる。
双方両得ハーバード大学もアムウェイとの関係から恩恵を受けている。世界的に高い評価を受ける経営大学院と比べ知名度で劣るケネディ行政大学院のアジアでの注目度が高まったからだ。ケネディ行政大学院は同様の複数のプログラムをアジアの当局者向けにスタートしている。
一方、アムウェイ・フェローたちはハーバード大学と、同大学と提携する中国国務院発展研究センターと清華大学の名誉あるお墨付きを履歴書に加えることができる。
アムウェイのバイス・プレジデントでアジアの法務担当責任者を務めるスコット・バルフォー氏によれば、ハーバード大のプログラムは同社が地域社会支援に携わる多くのプログラムの一つにすぎない。同氏は「当社はこのプログラムがなくても同じように成功すると思うし、それが社の成功の要だと思わない。ただ、そのプログラムについて非常に誇りに思っていることは確かだ」と話す。
利益を越えてアムウェイの人脈構築術は目を見張るものがあると語るのはコーリー・リンドリー氏。米直販会社ニュースキンエンタープライズ によるアジアでのスキンケア直販ビジネスの構築を支援し、4年間にわたり同社の中国拠点に駐在したリンドリー氏は、中国ビジネスについて「政府との関係を構築する必要があり、アムウェイはその道の達人だ」と指摘する。
共産党によって選ばれるアムウェイ・フェローたちは清華大での2週間の準備を経て、ハーバード大で予算や危機管理などの行政機能について学ぶ。ハーバード大の著名教授陣による授業や講演は中国語に翻訳される。ボストンの再開発当局など地方機関を訪問した後、5週目にはアムウェイ本社などを含む現地視察にも訪れる。
同プログラムの発足に尽力したケネディ行政大学院のアンソニー・セイチ氏によれば、参加する当局者にアムウェイの中国従業員も随行し、彼らの健康や満足度に留意する。同社は中国特有のケーススタディの追加を提案しており、資金援助を通じて利益を越えた中国への関心を示している。
セイチ氏は「このプログラムを通じアムウェイは中国政府高官と共通の話題が持てる」と指摘。「さらに、地方で交流を図るネットワークの基盤も得られよう。中国全土にプログラム参加者がいる」と話す。
アムウェイの中国事業社長を務めるオーディ・ウォン氏は、同プログラムから直接的な商業上の利益は全くないが、「その重要性は一段と顕著になってきた」と打ち明ける。
原題:Amway Embraces China Way for Biggest Market Using HarvardGuanxi(抜粋)
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更新日時: 2013/09/27 07:31 JST