毎日新聞 9月27日(金)10時0分配信
4月に始まったNHK連続テレビ小説「あまちゃん」が28日、最終回を迎える。脚本の宮藤(くどう)官九郎さん(43)は毎日新聞のインタビューで、ドラマに込めた思いを語った。宮藤さん流の現実を見据えた繊細でユーモラスな視点からは、家族や故郷、アイドルの「再生」を願う気持ちが浮かんだ。【土屋渓】
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◇震災「なかったことにはできない」…宮城出身の宮藤さん
宮藤さんの出身地は宮城県栗原市。ロケ地は岩手県久慈市で、ともに東日本大震災の被災地だ。視聴者は半年間、能年玲奈(のうねんれな)さん演じる東京育ちの主人公・天野アキの目線で北三陸の町おこしを見てきた。「田舎に帰るとあの店潰れたのかとか、悪いところばかり見てしまう。アキと同じような新鮮な目線で自分の地元を見たら、いいところに気付くんじゃないか」。多くの人に故郷の魅力を再発見してほしいとの願いを込めた。
小泉今日子さんが演じた母春子らの離婚や、アキの親友のドロップアウトなど人間関係も現実的に描いた。終盤、北三陸が震災で津波に襲われる場面をどう描くか悩んだ。「東北の人は見たくないだろうが、なかったことにはできない」として、模型を使って表現した。
「実際に三陸鉄道が震災後すぐに運行を再開して復活していくさまがすごく感動的だった。駅長のエピソードを交えてどうしても描きたかった」という。
震災直後、地元に帰ると、友人らが口にしたのは「大丈夫です」という意味の「おがまいねぐ」だった。「どんよりとした東京の人間に対する被災地の一番愛のある返事」に聞こえ、随所にこの言葉を盛り込んだ。ドラマの津波でウニが取れなくなったというエピソードは、実際に取材して聞いたことで、「震災後は自分1人で書いた気がしない」という。
一方、物語の出発点には宮藤さんのアイドルへの思い入れがある。「10代の頃は生活の中心に好きなアイドルがいて、曲を繰り返し聴いて元気になった。生きていく上で絶対必要だと思う」。しかし年齢を重ねるにつれ、アイドル事情に疎くなっていくことに寂しさを覚えた。「過剰に夢見る人が少なくなった現代ではアイドルも人間の職業」と感じた。東京でご当地アイドルがステージ下の「奈落」に閉じ込められ、はい上がる姿を描き「心が痛かった」という。
パロディー満載で辛辣(しんらつ)な宮藤さんの作風は、朝ドラに向かないとも言われたが、「自分を押し殺せるほど器用じゃない。僕の朝ドラのイメージの中で勝負しようと思った。壊そうとも、守ろうとも思わなかった」と振り返る。
全156話を書き終え、「ポカーンとした感じです」。続編への期待感が高まるが「役者もスタッフも全員そろわないとできない。現実的に難しい。自分にとっても大事な作品だから、やるなら100%の形でないと」と、苦笑いした。
最終更新:9月27日(金)10時0分