くらしナビ・ライフスタイル:エスカレーター「片側空け」 交通弱者から切実な声
毎日新聞 2013年06月28日 東京朝刊
海外の事例から片側空けを容認する声もある。大阪府羽曳野市の宮田和彦さん(45)は「ロンドンの地下鉄駅では『立つ人は右側へ』と明示されている」と指摘。ニューヨークでの勤務経験がある大手旅行会社員(51)は「駅では立つ人が右、歩く人は左だった」。
同社の別の社員(52)は、昨年まで3年間滞在した中国・北京の地下鉄駅で片側空けを見た。「2008年の北京五輪を契機に、マナー向上の観点から政府が呼びかけた」という。
●「高速」併設しては
エスカレーターの片側空けは日本でも、通勤客の「マナー」として浸透した。ただ、政府の高齢社会白書(13年版)によると、12年の日本の高齢化率(総人口に占める65歳以上の高齢者の割合)は24・1%。60年には39・9%に達すると推計されている。高齢化が進み、駅を利用する「交通弱者」が増えれば、これまで「常識」だった片側空けのマナーも、見直しが必要になりそうだ。
だが、人々の「善意」によって浸透した片側空けを見直すことは容易ではない。誰もが安心して便利にエスカレーターを使うには、どうしたら良いのか。
川崎市川崎区の主婦(46)は「年数回訪れる英国では、エスカレーターの速度が日本よりかなり速かった。あれを歩こうとは思わない」と、エスカレーターの速度を上げ、人々が歩かないようにする方法を提案した。
高速のエスカレーターだけしかなければ、高齢者はエスカレーターに乗ること自体が難しくなる。東京都武蔵野市の短大講師(60)は「弱者のために高速と低速のエスカレーターを併設してはどうか」というアイデアを寄せた。
大阪ガス行動観察研究所の松波晴人(はるひと)所長は、利用者の心理に働きかける方法を提案する。「ステップ中央に縦線を引いて、両側に足形を描き、2人分の立ち位置を認識させる」。乗客が自然に立ち止まるような形に誘導する、というわけだ。
立場によって意見が分かれるエスカレーターの片側空け。その是非は現状では簡単に決められないが、松波所長は「まずは乗客一人一人が自分の問題としてとらえることが大切です」と訴えている。【太田圭介】
◇けが人、半数は60歳以上
日本エレベーター協会が08〜09年、エスカレーター事故でけがをした人について調査したところ、約半数の48%が60歳以上だった=グラフ。
ビルなどに設置したエスカレーターの維持・管理をしている三菱電機ビルテクノサービスは「エスカレーターに乗る行為は、体力や判断力が落ちた高齢者にとっては一定のリスクがある」と話す。