「なぜなら彼女は一本足の蛸です。彼女の足は他の誰にも繋がっていません。人として生まれながら人類や他の生命体の何とも共有する部分を持たないのです。真の孤独とは、彼女のために用意された言葉ですよ」
谷川流『絶望系 閉じられた世界』電撃文庫(2005),p.243
2012-09-15
■[雑文]何を書いているかが理解できない

支倉凍砂の小説を久しぶりに読んだ気がする。
いや、気がするだけでなく、実際に久しぶりだ。
『狼と香辛料』の最後のほうは買うだけ買って積んであるし、『マグダラで眠れ』も買うだけ買って積んである。
- 作者: 支倉凍砂,鍋島テツヒロ
- 出版社/メーカー: アスキーメディアワークス
- 発売日: 2012/07/10
- メディア: 文庫
- 購入: 5人 クリック: 245回
- この商品を含むブログ (58件) を見る
支倉凍砂に限らず、ライトノベルは最近全然読んでいない。読める気がしない。読める気がしないのだから買わなきゃいいのだが、それでも買ってしまうのは惰性というもの。惰性で積まれる本がかわいそうだが、なに、本には感覚がないから自分が読まれているかどうかを知ることはないし、本には感情がないから自らを哀れむこともない。
閑話休題。
ライトノベルを読まなくなったので、ライトノベルに関する情報も収集しなくなった。Twitterを通じて断片的に情報が入ってくるので、支倉凍砂の新作が期間限定で公開されているという話はなんとなく知っていたのだが、うかうかしている間に公開期間が終了してしまっているものだと思っていたのだが、さっきふと思い出してアクセスしてみたら、まだ公開していた。
で、一読した。
……何を書いているのかが理解できない。
いや、日本語の文章として意味がわからないというわけではない。てにをはレベルで間違いがあるわけではない。また、馴染みのない言葉が使われていて意味がわからないということもない。まあ、普通の文章だ。
理解できないのは、その文章で述べられている議論*1だ。
「ある夫婦に双子の子供がいて、片方が女の子だとわかっている場合、残りの一人が女の子である可能性は?」
【略】
「2分の1じゃないの?」
「3分の1」
【略】
「これは、起こりうる事象がすべて把握できているから、そういう認識の齟齬が生じる。双子の組み合わせを考えれば、男・男、男・女、女・男、女・女の4通りでしょう? そのうち片方が女なら、もう一人が女である可能性は、女・女の組み合わせしかない。だから、3分の1」
支倉凍砂『キタイのアタイ』 Illustration/国道12号 | 最前線
これはまあ、何を言っているのか理解できる。間違ってるけど*2。
問題は次の箇所だ。
もし、その女の子の名前がものすごく珍しい名前だとしたらどうなるか」
【略】
「たとえば、北海道ちゃん」
【略】
「その北海道ちゃんは、1000万人に1人の名前とする」
【略】
「すると、夫婦の双子の片方のうち、名前が北海道ちゃんの女の子であるとわかっていると、もう片方の子が男の子であるか女の子であるかの確率が変わってくる」
【略】
「1000万人に1人という珍しい名前であるという情報は、非常に貴重な価値を持つ。つまり、夫婦の双子の片方の名前が北海道ちゃんであると知らないことについてはなんの価値もないけれど、知っていることについてはとてもすごい価値がある。なぜなら、さっき言った双子の組み合わせ、男・男、男・女、女・男、女・女の組み合わせが、男・男、男・女、男・北海道ちゃん、女・男、北海道ちゃん・男、女・女、北海道ちゃん・女、女・北海道ちゃん、北海道ちゃん・北海道ちゃんになるからね。ただ、北海道ちゃんが同時に2人になるのは……現実的にも、理論としても無視していい低い可能性だから除外する」
【略】
「さて、片方が北海道ちゃんとわかっているなら、もう片方の子が女である確率は、ありうる事象を数えてみればいい。それは、この表から、2つ。でも、片方が北海道ちゃんである組み合わせは、4つだから、4つ中の2つということで、2分の1。北海道ちゃんという名前がわかっているかどうかで、もう片方が女の子であるかどうかの可能性が高まるというわけ」
【略】
「さっきの北海道ちゃんの話に戻すと」
【略】
「北海道ちゃんという名前はとても珍しいから、もしも付けるのだとしたら女の子が2人いる家のほうが可能性が高い、ということを示しているの。もっと言うと、女の子1000万人に名前を付けなきゃならないとなったら、北海道ちゃんって名前も出てくるよねって話の逆視点なのよ」
支倉凍砂『キタイのアタイ』 Illustration/国道12号 | 最前線
……わ、わからん!
この小説の設定とストーリーから考えれば、この人物は「難しいが理屈は通っている議論を展開する理知的な人」であるはずで「意味不明の戯言*3を垂れ流す可哀想な人」のわけはないのだが、何度読み返しても意味不明の戯言にしか思われない。
「北海道ちゃん」という名前が1000万人に1人しかいないという前提条件には既に確率が含まれている。明示はされていないが、文脈から考えれば「北海道ちゃん」は女の子の名前で、男の子にはいないのだろう。そうすると、双子の組み合わせは次のとおりになる。
- 男・男
- 男・女(北海道ちゃんではない)
- 男・女(北海道ちゃん)
- 女(北海道ちゃんではない)・男
- 女(北海道ちゃん)・男
- 女(北海道ちゃんではない)・女(北海道ちゃんではない)
- 女(北海道ちゃん)・女(北海道ちゃんではない)
- 女(北海道ちゃんではない)・女(北海道ちゃん)
- 女(北海道ちゃん)・女(北海道ちゃん)
このうち9を「実的にも、理論としても無視していい低い可能性だから除外する」と言っているのだが、その判断にも「北海道ちゃん」という名前の確率が前提とされている。にもかかわらず、残る8つの可能性については「北海道ちゃん」が1000万人に1人しかいないという前提条件が全く反映されていない。
なぜ?
たとえば2と3を比べてみるだけでも9999999:1という激しい格差があることは見て取れるのに、なんでどちらも等しく取り扱うことができるのか? この理屈が全くわからない。
さらによくわからないのが、「女の子1000万人に名前を付けなきゃならないとなったら、北海道ちゃんって名前も出てくる」というくだりだ。そりゃそうかもしれないが、夫婦が子供に名前をつけるときにはたかだか数人だから、それこそ無視していい話なのでは? 無視していいほどの確率でもあえて拾い上げるというなら、双子の両親がほかに何人の子供に名前を付けているのかということも考慮しないといけなくなり、答えが出せなくなる。
考えれば考えるほど頭が混乱してくる。
いったい作者は何者なのか?
支倉凍砂だ!
あ、そうか。そういえば『狼と香辛料』を読んでいても、ところどころロジックが読み取れないところがあったからなぁ。
……というわけで書いていることの意味は理解できないまま、なんとなく納得はできたのだが、この『キタイのアタイ』を読んだのがきっかけである人物のことを思い出した。
その人物は、昔、ネットで知り合った人なのだが、確率に対して妙な認識を抱いていて、今はもう閉鎖されてしまった、その人の日記の冒頭には次のようなフレーズが掲げられていた。
サイコロを一度しか降れなければ
一の目が出る確率は
その目がでるか出ないかの二分の一である
たくさんの回数を降れてこそ
さいころのそれぞれの出る目は六分の一なのである
だとするならば
どうして人はこれほどまでにたくさんの可能性を未来に見るのであろうか
人はある瞬間を一度しか生きられない
ある場面である判断を下せるのは人生においてただ一度である
人生は様々なサイコロをただ一度だけ降る行為を繰り返すことの積み重ねである
だとするならば
そこに可能性を見ることなど馬鹿げた事なのだ
無限の可能性などない
この世に迷う事などない
あなたはただ
出来る事を力の限りにすれば良いのである
本人は何か詩的なことを書いたつもりだったのだろうが、最初の5行を読んだだけで目を白黒させてしまう代物だった。このフレーズを巡ってちょっとした論戦があったのだが、今となっては記憶している人も少ないだろう。古きよきテキストサイト全盛期の1エピソードに過ぎない。ああ、時代は変わった。
- 887 http://t.co/qdOYwBib
- 332 http://b.hatena.ne.jp/hotentry/fun
- 321 http://b.hatena.ne.jp/
- 195 http://ime.nu/d.hatena.ne.jp/trivial/20120915/1347699686
- 189 http://www-ig-opensocial.googleusercontent.com/gadgets/ifr?exp_rpc_js=1&exp_track_js=1&url=http://choichoi.sakura.ne.jp/hatena_bookmark.xml&container=ig&view=default&lang=ja&country=JP&sanitize=0&v=75b3e821a903bba8&parent=http://www.google.co.jp&l
- 181 http://w.livedoor.jp/hasekuraisuna/d/黒歴史ブログ発掘の経緯
- 147 http://d.hatena.ne.jp/
- 120 http://b.hatena.ne.jp/entry/d.hatena.ne.jp/trivial/20120915/1347699686
- 112 http://b.hatena.ne.jp/entrylist/fun
- 98 http://t.co/A9nZNI9d
それぞれの場合が、「同様に確からしい」と言えないと、
確率1/nとは言えないですよね。
高校の数学レベルの話なのに残念な感じですね。
まあ、例えば、
マイナスイオンは癒し効果がある(ありそう)、とか本気で思っちゃう大人が結構いるし、
世の中そんなもんかもしれませんが。
なお参考までに
tmblr.co/ZQIA-uRZyovp
なかなか微妙なところですね。
私は「理科が得意な子供」ではなかったので、正直にいえばどこがどうおかしいのかを逐一指摘することはできません。
正直、僕もですw
これを見るまで「アルキメデスの原理」すら正確に理解していなかったことに気づかされたので、
僕も人のこと言えないのではないか、という気もしてきました。
論旨があやふやな絡みで、失礼しました。
火曜日生まれの男子の問題
http://togetter.com/li/25071
まず「女が少なくとも一人いて、名前は北海道ちゃんである」という前提の時点で、1,2,4,6は除外されます。
ですから「2と3を比べ」る必要はありません。
「なんでどちらも等しく取り扱うことができるのか?」とのことですが
そもそも等しく取り扱ってなどいないのです(一方は除外されてるので)
「明示はされていないが、文脈から考えれば「北海道ちゃん」は女の子の名前で、男の子にはいないのだろう」
これも間違いですね。
あくまで「この問題に出てくる女の子の名前が北海道ちゃん」
というだけで、北海道ちゃんという名前の男の子が存在するか
という点に関してはいないともいるとも言えません。
この話の前提条件は
「北海道ちゃんは、1000万人に1人の名前」「双子の片方は北海道ちゃん」
の2つだから間違ってないでしょ
むしろつつくとしたら「北海道ちゃん・北海道ちゃん」の組み合わせを否定した理由あたりでしょ
hogeさんの問題のやつを見ればこの問題の理解はある程度出来ると思います。
筆者さんが指摘してる場所は正しいですが、理由が全く間違ってますね、恐らく9割方も理解できてないと思うので、上のURLを見て色々勉強なさってはどうですか?
頭の中が混乱しますが面白いですよ
「恐らく9割方も理解できてない」というのはまさにその通りで、それが見出しのもとになってもいるのですが、少し考えているうちに、ある程度理解が深まってきたように思います。
もうちょっと考えを整理したら、続篇を書くつもりです(逆に言えば、考えが整理できなかったら続篇はなしです)。
よくわからないのですが、こういう顔のことですかね?
http://www.pixiv.net/tags.php?tag=%E3%83%9F%E3%82%B5%E3%83%AF%E9%A1%94