大分・旧清川村の女性強殺:逆転有罪 遺族「わかってくれた」 被告側、即日上告
毎日新聞 2013年09月21日 西部朝刊
強盗殺人などの罪に問われた大分市の無職、伊東順一被告(61)に対する福岡高裁の控訴審判決は、1審・大分地裁判決と全く逆の判断を示し、伊東被告に無期懲役を言い渡した。殺害された山口範子さん(当時61歳)の遺族が喜びをかみしめる一方、弁護側は判決を厳しく批判。裁判所に明暗が交錯した。
「ちゃんとした判決が出てほっとした」。京都市から駆けつけた山口さんの兄(72)は傍聴席で何度も小さくうなずいた。
法廷でため息交じりの驚きの声を上げた1審の無罪判決から3年6カ月。DNA型鑑定など新証拠が提出された控訴審を「新しい角度から突っ込んで犯行を証明してくれた」と評価し、高裁による現場検証を「裁判官自ら現場に足を運んでくれた」と歓迎した。それでも「今度もまた無罪判決ではないか。半分は期待、残りの半分は不安だった」。
19日には大分県の範子さんの墓に手を合わせ「ちゃんとした判決が出るよう頑張るから、もうちょっと待ってほしい」と告げたといい「『わかってくれる人がいた』と報告したい」と話した。
一方、伊東被告の弁護人、福島康夫弁護士は「他の証拠と整合する自白の信用性を認めた一方、証拠とあわない自白はうそをついたと認定した。信用性の有無を判断する基準にのっとっていない」と判決を厳しく批判。有罪判決の場合は上告すると伊東被告と決めていたといい、判決直後に手続きを取った。【川上珠実、山本太一】
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■解説
◇自白の信用性判断、可視化を加速
大分県の女性が殺害された強盗殺人事件で被告に有罪判決を言い渡した福岡高裁の控訴審判決は、控訴審で提出された被害女性の車から被告のDNA型が検出されたとする鑑定などを除き、無罪を言い渡した1審とほとんど変わらない証拠を審理し、1審と逆の判断を示した。
1審判決は、捜査段階で取調官が「死刑より無期がいいだろう」と心理的に揺さぶりをかけたり、別の窃盗事件での起訴後勾留を利用して自白を迫った取り調べ手法も問題視。供述と整合しない現場の状況などから自白調書の信用性を否定した。
一方、控訴審判決は(1)弁護人から虚偽の自白調書に署名してはいけないと助言を受けている(2)内容には犯人しか知らないことも含まれている(3)殺害方法など核心部分は十分に信用できる−−と認定。1審判決を「客観的な証拠に基づかず、抽象的な思考を根拠にした」と批判した。