錬鉄の魔導師 (紳士K)
正義の味方
I am the bone of my sword.
――――体は剣で出来ている――――
Steel is my body,and fire is my blood.
――――血潮は鉄で、心は硝子――――
I have created over a thousand blades.
――――幾度の戦場を超えて不敗――――
Unknown to Death.
――――ただの一度の敗走はなく――――
Nor known to Life.
――――ただの一度も理解されない――――
Have withstood pain to create many weapons.
――――彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う――――
Yet,those hands will never hold anything.
――――故に、生涯に意味はなく――――
So,as I pray,unlimited blade works.
――――その体はきっと、無限の剣で出来ていた――――
目の前には異形の怪物。大きな足には血が、鋭い爪には肉が。醜く歪んだ口からは血と唾液をだらだらと垂らし、その右手には数分前までは“人”だったと思われる肉の塊を握っている。こいつが襲った村から漂う血と鉄の焼ける匂いが空間に充満し、その匂いが鼻を突く。吐き気が俺を襲う中、化物はその手に握っていた肉の塊を目の前で喰らいはじめる。一口噛むたびに血が飛び散り、聞いたことのない音を響かせ嗤いながら食っていた。
ゴクリ。俺が息を飲んだのと化物が肉の塊を飲み込んだのは同時だった。化物と目が合った瞬間ー俺の体を"死"が支配した。数分後にはさっきの肉の塊みたいに、人としての尊厳など関係なく、ただ餌として死ぬ。 呼吸ができない。体は震え先程とは比べものにならないほどの吐き気が俺を襲う。逃げようにも体が言うことを聞かない。嫌だ、死にたくない。
死が歩いてくる。その顔を歪に歪ませながら、一歩、また一歩と。肉を裂いた腕が近づき、俺の体を握った。メキメキ、骨の軋む音が聞こえた。化物がその大きな口を覗かせる。口の中にはぐちゃぐちゃにえぐれた人の破片。人の破片、人の破片、人の破片、人の破片。
俺はゆっくりと目を閉じた
鉄を打つ音が聞こえた
どこからともなく
規則正しく、ゆっくりと
「ーーーー
それは一瞬だった。
赤い外套を身に纏い、髪は色素が抜け落ちたのか真っ白で、両手には黒白の双剣を携えた男が現れたかと思うと、両手に持つ双剣でいつの間にか化物の首を切っていた。化物からは血が噴水のように溢れ崩れ落ちる。
「怪我はないか?」
男は振り向きざまにそう問いかけてきたが、俺は答える事ができなかった。突然の出来事に頭が混乱していたからではない。その男の顔が、あまりにも幸せそうに微笑んでいたから。その微笑みがあまりにも尊いものと思われたから、俺は言葉がでなかった。
これが後に"錬鉄の魔導師"と呼ばれることになる『ジーク•フェルナンデス』と、正義の味方である『衛宮 士郎』との出会いだった。