そうした点を踏まえ、陸軍では人民武装警察との連携、海軍では国家海洋局を中心とした海上法執行機関との協力強化などに言及されている。後者は、言うまでもなく南シナ海の主権を巡るフィリピンやベトナムとの摩擦、尖閣諸島の主権を巡る東シナ海での日中摩擦が念頭にあり、中国海軍と中国海上法執行機関(「海監」「漁政」等)との連携を重視する姿勢をこれまで以上に明確に述べていることからも分かる。
隠蔽体質は相変わらず
第2の「情報公開」の進展については、例えば各軍区に所属する集団軍を明らかにしたこと、陸軍、海軍、空軍の兵員規模を明らかにしたことなどがそれに当たる。しかし、それらは現実に即して言えば旧知の事実を確認したに過ぎない。もちろん、それが中国当局によって確認されたことは評価し得るかもしれないが、取り立てて騒ぐほどの情報公開ではない。
もっとも、白書は第2砲兵部隊の兵員規模は明らかにしておらず、保有する核弾頭の数はおろか、ミサイルの種別、基数、配置などもまったく明らかにしていない。弾道ミサイルとしての「東風」シリーズ、巡航ミサイルとしての「長剣」シリーズの名が出てくるだけである。
また、陸軍で言えば主力戦車など戦力の詳細には触れていない。空軍についても、保有する戦闘機の総数や機種ごとの内訳を明らかにしておらず、海軍も潜水艦、駆逐艦、フリゲートなど主要艦艇の詳細な保有数、配置などについては明らかにしていない。
そうした意味において、今回の白書における中国の「情報公開」は、進展があったとはいえ、その程度は極めて低いと言わざるを得ない水準に留まっている。もちろん、国防に秘密はつきものであり、すべてを公開している軍隊など存在しないことは事実だろう。しかし、国際的な安全保障の確保に必要とされる「軍事バランス」の信頼度を確保できるだけの情報を中国は出すべきだろう。各国は、その「軍事バランス」をいかに均衡させるかに腐心しているわけであり、地域の平和と安定の維持を考えれば、中国の隠蔽体質がマイナスの効果を生むものであることは確かだ。
中国は核戦略を変更したのか?
第3のポイントとして、中国の核戦略がある。中国が1964年10月に最初の核実験に成功して以来、公言してきた政策に「核の先制不使用」「非核保有国への核不使用」がある。これが今回の白書で言及されなかったことから、中国が核戦略の変更を考慮しているのではないか、という疑念が指摘されている。
例えば、米国のカーネギー平和財団のジェームズ・アクトンは、「ニューヨーク・タイムズ」紙4月18日付記事で、白書と関連して2012年12月に習近平・中央軍事委主席が第2砲兵部隊の基地を訪問した際のスピーチで、核兵器が中国の大国としての地位をサポートすると述べた中で、「核の先制不使用」に言及しなかったことを指摘している。