24 ヘボン式
  [初出] 2004.07.11  [最終更新]  [平均面白度] 4.41  [投票数] 27  [コメント数] 4
学校教育の中で、ヘボン式のローマ字表記法は学習するのだろうか。ぼくの頃はいわゆる訓令式しか習わなかった。だから「シ」は「si」だし、「ジュ」は「zyu」である。

長ずるに及んで、世間を見回してみると、どうもヘボン式がデファクトスタンダードのようで、たとえばパスポートだって、ヘボン式で書かないと受け付けてもらえない。パスポートも初等教育もクニが行うものなのだから、そのへんの整合性はどうなっとるんか、と思わないでもない。

そうしたヒガミ根性から、長いこと内心訓令式でええやん、と思っていた。なんもSampeiなんて気取った書き方しなくてもSanpeiでいいじゃないか、と。

そうは思いつつも、根が小心者だから、実地ではヘボン式を使ってきた。たとえばぼくの姓の表記はIsidaではなくIshidaと書く。ただ、実生活上では日本語をローマ字表記しなければならない場合ってのは、そうあるわけじゃないので、このあたりの矛盾というか未整理部分ってのかは、顕在化しないまま、今日まで来た。

つまり、訓令式vsヘボン式問題も、ちゃんと考えてこなかったんですね。

先日、仕事の過程でいろんな日本語文字列をローマ字化しなくちゃならないってことにあいなってしまった。よく考えると、いままでも仕事として書いたスクリプトやプログラムの中にkamokuなんてふうにローマ字で変数名などを与えたことはよくあるんだけど、それは別にコードを公開するわけでもないから、文中一意であれば、どーでもええやんという姿勢で来ていた。

今度の仕事はそのローマ字表記そのものが文章の中にばっちり入ってしまうってことで、そうなるとやはりカッコわるいから、どうしても表記に神経質にならざるをえない。そこで、ヘボン式の表記一覧表を片手に作業を進めた。「ジュ」は「jyu」ではなく「ju」なのね、とかと、うろ覚えのヘボン式理解を打ち砕くようなことが次々でてきて、いらいらする。

しかし、作業をすすめていく過程で、ヘボン式の優位性にはっきりと気が付いた。こっちでなければならぬ、と。

たとえば、M、B、Pの前の撥音はMで表記するというヘボン式の表記は、いままでは「何をイキがりやがって」との認識であったが、これは発音をより正確に示そうとしたら、これしかないということがわかってきた。

たとえば三平と賛成。三平と発音するつもりで「サン」のところで止める。いっぽう賛成と発音するつもりで「サン」のところで止める。この時、三平側では唇は閉ざされているのにたいし、賛成サイドでは、唇は開いている。

訓令式のsanpei、sanseiより、ヘボン式のsampei、sanseiの方がより発音を反映している。三平のサンと賛成のサンはまったく違う音なのだ。

なまじシステマティックに見える50音図があるせいか、ぼくらは、あのマトリックスの中に発音世界をむりやり押し込んで理解しているのかもしれない。

小さな子どもたちとシリトリをすると、幼稚園くらいの子は「おちゃ」につづけるのは「ちゃ」音であり、たとえば「ちゃんぴおん」とかいうわけだが、小学生は、それは違う、「や」から始まるのだと断固主張する。これはおそらく幼稚園児のナイーブな感覚の方が正しいのであろうが、ぼくはいまだに「ちゃ」は音素として「ち」と「や」にわけられるのではないか、と思ったりしている。実際の発音ももしかすると「ち」+「ゃ」として実践しているかもしれない。

五十音図呪縛にがんじがらめにされているのだ。

ヘボン式はそういう呪縛自身への疑いを喚起するためだけにも、役に立つ。

現時点でのぼくの感想だ。

しかし
sa shi su se so
って書くけど、「シ」音はサ行の仲間たちと音的にどこか違いがあるのか。
ha hi fu he ho
の「フ」はどうなのか。
これはよくわからない。一方、
ta chi tsu te to
という表記で失われた「ti」「tu」とはどのような音なのか。
これはわかる。tiは「スティング」などというときの「ティ」だし、tuも発音できる。
ぼくたちが普通に発音できる音なんだけど、表記法の中から排除されちゃったために
日本語の中では使えない音になっちゃったわけだ。
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いただいたコメント

鈴木雄介 さんによるコメント
近所に「柳」さんというお宅があるのですが、表札はローマ字で「Yanagui」。鼻濁音の「ぎ」と濁音の「ぎ」を区別するとこうなるってことですかね?。鼻濁音の「ぎ」は「gui」濁音の「ぎ」は「gi」



http://www.bcap.co.jp/ichhan-j/hokkaidounochimei.html#shinsetsu_gappei



あたりであれこれ言ってますが、仕事中なのでゆっくり読めません(笑)。



同じサイトで



観光客が地元の特殊な読みを無視して、他地方の類型的な読み方に変えてしまう場合が多く、そのような習慣が度重なって、旧来の呼称が失われてしまうことが観光地にはとくに多い。



 熱海    :初島(はしま→はつしま)

 芦ノ湖   :湖尻(うみじり→こじり)

 富士五湖 :西湖(にしのうみ→さいこ)

 北アルプス:白馬岳(しろうま→はくば)

 長野県  :穂高(ほたか→ほだか)

 富山県  :立山(たちやま→たてやま)」



 武庫(むこ)→六甲(むこ)→ロッコウ

 二荒山(ふたらさん)→二荒(ニコウ)→日光→ニッコウ

 代馬(しろうま)岳→白馬(しろうま)→ハクバ



なんてのも面白いですね。代掻き馬が白馬になったってのは前から聞いてましたが、、、。

[2004.07.21  #87]

たけなが さんによるコメント
本多勝一は訓令式をすすめていたような気がします。

たしか、ヘボン式にすることで発音が実際のものに近くなるったって、それはしょせん英語圏の発音に近くなるだけで、そのためにわざわざ五十音表にきれいに対応してつくられている訓令式をやめるのはおかしい、みたいな。



なんつか、どーせ本国の発音では読めないわけじゃないですか。日本でだって同じつづりをヘボンって読んだりヘップバーンって読んだりするわけですし。

正確を期すなら発音記号で書きゃいいんだし、と思います。[2004.07.30  #92]

から さんによるコメント
ヘボン式の目的が100%達成されていないからと言ってヘボン式を全否定するのはおかしいですね。

[2005.09.10  #228]

もりや さんによるコメント
ヘボン式「ローマ字」なんて呼ぶから議論になるんで,「日本語の英語表記」と考えれば納得できるのではないかと思います。



そもそも,ヘボン式表記は,明示学院大学の創始者のヘボン博士が,日本初の和英・英和辞書の中で使ったのが最初と聞いています。

日本の人名や地名を外国人に正確に伝えるのに都合がよいことから,鉄道の駅名などには,古くからヘボン式表記が使われていたそうです。



一方,訓令式表記は,日本語をアルファベットで書こうという思想から生まれたものです。まだ文盲率が高かった時代に,漢字や仮名よりも文字数が少ないアルファベットで表記すれば,文字を読み書きできる人が増えるというわけです。

同じアルファベットを使っていても,英語とイタリア語のつづり方が違うように,日本独自のつづり方規則があってもいいわけです。そのときに,日本人にとってより単純で理解しやすい表記法にするのは当然なわけです。



もし,あなたが,日本は漢字仮名混じりを捨ててローマ字表記に移行すべきだと考えているのならば,堂々と訓令式を使うべきでしょう。

そうでなくて,ローマ字は外国人との意思疎通のための便宜的手段にすぎないと考えるならば,より外国人にわかりやすいヘボン式を採用すべきであるというのが,私の意見です。[2005.10.28  #240]

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