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「介護保険制度」~医療保険同様に一律3割負担を!100の行動37 厚生労働3

 介護保険という制度は新しい制度だ。ドイツにおける介護保険制度を参考にして制度設計され、2000年にスタートした。高齢化社会の進展に伴って、介護が必要な高齢者が増大するのは当然のことである。諸外国でも高齢者の介護を社会においてどうマネージしていくかは共通の課題だ。 日本でも、政府の社会保障改革の中で介護制度の改革も当然議論されてきた。社会保障制度改革国民会議が今年の8月6日にまとめた最終報告においても、医療や介護、予防、生活支援を一体的に提供する地域包括ケアシステムの構築の重要性が示されている。しかし、決定的に欠けているのは、介護保険制度の財政をどう持続可能にするかという視点だ。

 2000年に制度が始まった介護保険制度は、当初は給付費が3.6兆円、保険料が全国平均2911円でスタートした。3年ごとに利用実績をふまえて保険料が改定されることになっており、これまで給付も保険料も上昇し、現在は、給付費が9.4兆円(2013年予算ベース)、保険料が4972円(全国平均)となっている。厚労省の推計では、団塊の世代が75歳以上を迎える2025年には、介護保険の給付費が21兆円となり、保険料は8200円程度になるという。

 社会の高齢化に伴って増大する介護費用に対して、保険料を上げ続けて対処するのではなく、増大する費用を如何に抑制するかという視点で制度を変えなければならない。

1. 介護保険の利用者負担を3割へ!

 介護保険制度では、介護にかかる費用の1割を利用者が負担し、残りの9割が政府から支払われることになっている。給付は、税金50%、保険料50%で折半だ。
 今後、高齢化社会の進展に伴って、介護需要は増大してく。制度スタート当初は3兆円台だった介護給付費が、25年後の2025年に21兆円まで膨れあがる。その増大を放置して税金を注ぎ込み続けるのは避けなければならない。
 再度、厚生労働編1で示した私たちの社会保障改革の基本原則を繰り返せば、「医療保険、介護保険、年金という保険制度は保険の範囲内で持続できる制度を目指す」ということだ。

 現状では介護給付の半分弱に税金が投入されているが、理想的には保険料で制度を完結できる介護保険が目指されるべきだ。そのためには、医療の議論と同様に、制度の利用者が介護をなるべく使わないインセンティブを制度に導入するしかない。

 医療の議論でも、高齢者の医療への過度の依存を抑制するために、利用者負担一律3割を提唱した。介護を医療と区別する絶対的な理屈はない。制度を持続可能にするには、医療と同様に自己負担比率を3割に引き上げ、介護サービスの利用を抑制するインセンティブを制度に組み入れるべきだ。

2. 要介護認定を絶対主義から相対主義へ。要介護認定数に上限を設けよ!

 介護保険サービスの利用者は、2000年に184万人だったものが、2011年には434万人まで増えている。今後の予想に関しても、65歳以上高齢者のうち、認知症の日常生活自立度2以上(介護が必要な認知症)の高齢者の数は2010年で280万人だったものが、2025年に470万人との推計もある。

 現在は、要介護認定は、基本的には客観的基準から認定がなされ、「歩行が出来るか」「ズボンの着脱ができるか」「洗顔や整髪ができるか」「食事が自分で摂取できるか」といった基準で決められる。

 また、要介護認定されたいがために、「できないふり」をすることも散見される。それらの結果、要介護認定数は社会の高齢化に伴って絶対的に増え続けている。介護認定の認定率を見ると、70〜74歳で6.3%、75〜79歳で13.7%、80〜84歳で26.9%、85〜89歳で45.9%、90歳以上では68.0%と加齢とともに右肩上がりだが、絶対主義で要介護を認定していれば当然の帰結だ。

 このままでは、介護に携わるヘルパーの数も足りないし、介護保険料の負担が膨大化する。既に日本の防衛費に相当する国税が介護保険料を助成するために賄われているのだ。介護保険料の負担を軽減する観点からは、この要介護認定を絶対主義から相対主義に変えることを提案したい。

 つまり、要介護者=介護保険サービスの利用者の上限を設け、要介護認定は、点数化して重度の対象者から認定していくのだ。保険料や介護サービスのキャパシティー、制度の持続可能性などから、3年に一度の保険料改定に併せて、要介護者の上限を決める。それに併せて、改めて重度者から認定をする。保険料収入との関係で上限を設定し、その上限数までに要介護者の認定を制限することで、制度は持続可能になるはずだ。

 現在の介護保険制度では、高齢者の自立の状況に応じて軽度から順に、「要支援1」「要支援2」「要介護1」〜「要介護5」までの7段階の認定がなされる。

 介護の必要性が比較的軽度の要支援1、要支援2、要介護1の対象者に関しては、利用される介護サービスは、実体的には、買い物や掃除の手伝いなどの生活補助が多く、むしろかえって当事者の自立を阻害しているという指摘も多い。介護給付費全体に占める、要支援1、要支援2、要介護1への給付の割合は2割弱だ。要介護認定を相対主義に変え、認定数に上限を設ければこの問題は無くなる。要支援1,要支援2、要介護1は早急に介護保険給付の対象から外すべきであろう。

3. 家庭での介護へのインセンティブを!

 公的な介護サービスの利用をなるべく抑制し、ヘルパー不足問題を解決するには、家庭での介護にインセンティブをつけることが効果的だろう。実際に、家庭で介護をしている人も多い。その方々には補助が無いが、ヘルパーをお願いすると補助があるのは、公正さの観点でも問題ではなかろうか。

 まず、要介護者を家庭で介護している場合、介護保険料を減免する金銭的インセンティブを導入することを提案したい。減免の度合いは、要介護認定の重度によって段階をつける。例えば要介護2の高齢者を自宅で介護している家庭は介護保険料の減額、要介護4以降で免除になるといった段階的優遇制度だ。

 次に、これは既に行っている自治体もあるが、要介護者を自宅で介護している家庭について、市長が表彰する表彰制度も自宅介護への誘導のインセンティブとなる。さらに、要介護者を減らすという視点から、例えば85歳以上の非要介護高齢者、つまり元気なおじいちゃん、おばあちゃんへの表彰制度や何らかの優遇制度を創ることも効果的ではないか。さらには、要介護認定だった方々が、介護不要になった場合にも、表彰を贈呈するなども検討に値しよう。

 金銭面でのインセンティブと表彰制度で、なるべく公的介護サービスに頼らない方向に当事者を動機付けすることが必要だ。

4. 働くことにインセンティブを与え、介護人材の確保を!

 公的介護サービスの対象を絞るにせよ、今後の高齢化の進展に伴って介護サービスの需要が増加することは確実であり、介護人材の確保は必要だ。

 厚生労働省の推計だと、現在149万人の介護職員は、2025年には約237〜249万人必要になるという。政府による検討では介護報酬の増額による処遇改善だけが議論されているが、より積極的に国内の余剰労働力の有効活用を検討すべきではないか。

 最新の2013年7月の失業率は下がってきたとはいえ3.8%であり、完全失業者の数は255万人だ。国内において需要はあるのに供給が余っているミスマッチが起こっているのだ。それを改善するには、労働市場を流動的にし、必要な産業に労働力が移動できる制度設計が必要だ。

 具体的には、労働力としての女性を家庭に閉じ込めてしまう配偶者控除の撤廃も早急に行うべきだろう。また、急増している生活保護受給者への労働の斡旋も検討に値するのではないか。生活保護の受給が、働かなくても良い環境をつくっているという指摘もある。

 いずれにせよ、今まで述べて来た通り、「医療保険、介護保険、年金という保険制度は保険の範囲内で持続できる制度を目指す」と言う大原則に則り、自己負担比率を医療費と同様に3割に上げて、要介護認定を絶対主義から相対主義に改め、家庭で介護をしている人や介護不要の方々を表彰することが重要であろう。

 今のまま、要介護者が増えていくと、介護保険制度が破たんし、納税者に膨大な負担を強いることになる。将来世代に負債を押しつけることなく、僕ら現役世代が責任を持って改革をしていくことが重要だ。

堀義人
グロービス創立者として、ビジネスリーダーを育成。

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